ザ・グレート・プリン

スーパー・ストロング・マカロン

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あれからどのくらい時間が経過したんだろう?

俺がさまよい続けていた間に人身事故の影響で、運行出来ずにいた電車は復旧したかもしれない。

スマホで時刻を確認しようとポケットに手を伸ばしたが、時刻を確認することを止めて腕組みをした。

ひっそり輝く星空を見ていると駅へと向かう気持ちには到底ならなかった。

夜明けまでこのまま漂っていても良いのではないかという心境になっていて、電車の復旧程度の事では、もはや立ち去る動機にはならない。


自販機の隣に設置されているゴミ箱の後ろから猫がゆっくり飛び出してきた。

俺は猫が好きだが突然の登場に少し驚いていると、あっという間に足元まで来て脛に顔をスリスリ擦り付けてくる。

自販機の明かりで照らされた姿を見ると三毛猫だ。

目が合うと、三毛猫は小さな口で「ニャア」と鳴いている。

「可愛いなあ」

あまりの可愛いさに、口に出さずにはいられなくなってしまった。

頭を撫でると目を細めて顔を高く突き上げる様子から飼い猫だったと見当がつく。

元から野良であれば、警戒心が強く頭を撫でさせてはくれないし、そもそも近くにさえ寄ってこないはずだ。

俺はしゃがみ込んで、今度は三毛猫の額と小さな鼻筋を人差し指で下から上に優しく撫でた。

近所のハチワレも、これをやるとゴロゴロ喉を鳴らしてうっとりしてくれる。

ハチワレと同様に三毛猫もうっとりした表情になり、気持ちよかったようで俺の足下で寝転び始めた。

ハチワレにもいえることだが、野良で生きていく事はとても大変な事で修羅の道と言っても過言ではない。

まともな食事にはありつけないし、夏の炎天下の暑さや凍える冬の寒さに耐えなければならない。

時折、サイコパスのような人物に虐待され殺されてしまう事だってある。

リラックスした三毛猫の顔を見つつ鼻筋を撫でながら俺は問いかけた。

「お前は誰に捨てられたの?」

三毛猫は仰向けに寝転がったまま黙って目を細めている。

「しゃべる事ができたら、お前の話を聞きたいよ。」

三毛猫を撫でながら、ふと夜空を見上げると、洗練されたネオンの光が主人公面して眩く光っている。
カップルは、この夜景にうっとりしているはず。

でも、高層ビルより更に高い所から実は星が輝いている事なんて知らないだろう。
それくらい、ひっそりと都会の隅に存在しているのだから。

都会の星も捨てられてた三毛猫も、そしてさまよい歩いている俺も社会の隅に追いやられながらひっそり生きている。


決して傷口を舐め合っているわけでは無いが、野良である三毛猫と心を通わせているつもりで撫でていると
目を細めコンクリートの地面に横たわっていた三毛猫がおもむろに顔だけ上げてどこか一点を見始めた。

俺も三毛猫の目線を追ったが、特に何も見当たらない。
周囲を見渡しても特に変わった事はなかった。

三毛猫の緊張感が高まっていくのが、俺には感じ取れる。

三毛猫は上半身を起こし、やや前傾姿勢になって長い尻尾を巻きはじめた。

「おい!いったい何があったっていうん
だよ?」

俺の問いかけに、三毛猫が答えてくれるはずもなく自販機の灯りが届かない、その先の暗闇をじっと見ている。

こうなってくると俺も気が気でなくなり三毛猫の目線の先ばかりでなく、辺りをキョロキョロと注意深く目を凝らして見回すが何も発見できない。


「なぁ…あまり俺を驚かさないでくれよ。」

弱気になっている俺を相手にせず、三毛猫の緊張感がどんどん高まっていく。

大丈夫だよ。何もいないよと言おうとした矢先に"ドーン!"という大きな音が三毛猫の視線の先から聞こえた。

その音で、三毛猫は驚いて反射的に逃げ出した。

俺は振り返って走り出した三毛猫を見ると自販機の灯りが届かない所まで飛び出しており、立ち止まってこちらの様子をうかがっている。

暗い為、身体はほぼ見えないが猫特有の妖しくキラッと光る眼球のおかげで三毛猫がまだ近くにいる事が分かった。

ヤンキーどもの喧嘩か?

酔っ払いが暴れているのか?

つまらない事に巻き込まれたく無いので俺も三毛猫と同じ方向に歩き始めた瞬間だった。

またしても"ドーン!!"という音がした。

まるで、シャッターを蹴るような音だ。
しかもさっきより音が明らかにでかくなっている。

三毛猫はすごい速さで走り去り、暗闇に消えていった。

電光石火とは、この事だと思った。






























 






















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