20 / 92
20
しおりを挟む
あれからどのくらい時間が経過したんだろう?
俺がさまよい続けていた間に人身事故の影響で、運行出来ずにいた電車は復旧したかもしれない。
スマホで時刻を確認しようとポケットに手を伸ばしたが、時刻を確認することを止めて腕組みをした。
ひっそり輝く星空を見ていると駅へと向かう気持ちには到底ならなかった。
夜明けまでこのまま漂っていても良いのではないかという心境になっていて、電車の復旧程度の事では、もはや立ち去る動機にはならない。
自販機の隣に設置されているゴミ箱の後ろから猫がゆっくり飛び出してきた。
俺は猫が好きだが突然の登場に少し驚いていると、あっという間に足元まで来て脛に顔をスリスリ擦り付けてくる。
自販機の明かりで照らされた姿を見ると三毛猫だ。
目が合うと、三毛猫は小さな口で「ニャア」と鳴いている。
「可愛いなあ」
あまりの可愛いさに、口に出さずにはいられなくなってしまった。
頭を撫でると目を細めて顔を高く突き上げる様子から飼い猫だったと見当がつく。
元から野良であれば、警戒心が強く頭を撫でさせてはくれないし、そもそも近くにさえ寄ってこないはずだ。
俺はしゃがみ込んで、今度は三毛猫の額と小さな鼻筋を人差し指で下から上に優しく撫でた。
近所のハチワレも、これをやるとゴロゴロ喉を鳴らしてうっとりしてくれる。
ハチワレと同様に三毛猫もうっとりした表情になり、気持ちよかったようで俺の足下で寝転び始めた。
ハチワレにもいえることだが、野良で生きていく事はとても大変な事で修羅の道と言っても過言ではない。
まともな食事にはありつけないし、夏の炎天下の暑さや凍える冬の寒さに耐えなければならない。
時折、サイコパスのような人物に虐待され殺されてしまう事だってある。
リラックスした三毛猫の顔を見つつ鼻筋を撫でながら俺は問いかけた。
「お前は誰に捨てられたの?」
三毛猫は仰向けに寝転がったまま黙って目を細めている。
「しゃべる事ができたら、お前の話を聞きたいよ。」
三毛猫を撫でながら、ふと夜空を見上げると、洗練されたネオンの光が主人公面して眩く光っている。
カップルは、この夜景にうっとりしているはず。
でも、高層ビルより更に高い所から実は星が輝いている事なんて知らないだろう。
それくらい、ひっそりと都会の隅に存在しているのだから。
都会の星も捨てられてた三毛猫も、そしてさまよい歩いている俺も社会の隅に追いやられながらひっそり生きている。
決して傷口を舐め合っているわけでは無いが、野良である三毛猫と心を通わせているつもりで撫でていると
目を細めコンクリートの地面に横たわっていた三毛猫がおもむろに顔だけ上げてどこか一点を見始めた。
俺も三毛猫の目線を追ったが、特に何も見当たらない。
周囲を見渡しても特に変わった事はなかった。
三毛猫の緊張感が高まっていくのが、俺には感じ取れる。
三毛猫は上半身を起こし、やや前傾姿勢になって長い尻尾を巻きはじめた。
「おい!いったい何があったっていうん
だよ?」
俺の問いかけに、三毛猫が答えてくれるはずもなく自販機の灯りが届かない、その先の暗闇をじっと見ている。
こうなってくると俺も気が気でなくなり三毛猫の目線の先ばかりでなく、辺りをキョロキョロと注意深く目を凝らして見回すが何も発見できない。
「なぁ…あまり俺を驚かさないでくれよ。」
弱気になっている俺を相手にせず、三毛猫の緊張感がどんどん高まっていく。
大丈夫だよ。何もいないよと言おうとした矢先に"ドーン!"という大きな音が三毛猫の視線の先から聞こえた。
その音で、三毛猫は驚いて反射的に逃げ出した。
俺は振り返って走り出した三毛猫を見ると自販機の灯りが届かない所まで飛び出しており、立ち止まってこちらの様子をうかがっている。
暗い為、身体はほぼ見えないが猫特有の妖しくキラッと光る眼球のおかげで三毛猫がまだ近くにいる事が分かった。
ヤンキーどもの喧嘩か?
酔っ払いが暴れているのか?
つまらない事に巻き込まれたく無いので俺も三毛猫と同じ方向に歩き始めた瞬間だった。
またしても"ドーン!!"という音がした。
まるで、シャッターを蹴るような音だ。
しかもさっきより音が明らかにでかくなっている。
三毛猫はすごい速さで走り去り、暗闇に消えていった。
電光石火とは、この事だと思った。
俺がさまよい続けていた間に人身事故の影響で、運行出来ずにいた電車は復旧したかもしれない。
スマホで時刻を確認しようとポケットに手を伸ばしたが、時刻を確認することを止めて腕組みをした。
ひっそり輝く星空を見ていると駅へと向かう気持ちには到底ならなかった。
夜明けまでこのまま漂っていても良いのではないかという心境になっていて、電車の復旧程度の事では、もはや立ち去る動機にはならない。
自販機の隣に設置されているゴミ箱の後ろから猫がゆっくり飛び出してきた。
俺は猫が好きだが突然の登場に少し驚いていると、あっという間に足元まで来て脛に顔をスリスリ擦り付けてくる。
自販機の明かりで照らされた姿を見ると三毛猫だ。
目が合うと、三毛猫は小さな口で「ニャア」と鳴いている。
「可愛いなあ」
あまりの可愛いさに、口に出さずにはいられなくなってしまった。
頭を撫でると目を細めて顔を高く突き上げる様子から飼い猫だったと見当がつく。
元から野良であれば、警戒心が強く頭を撫でさせてはくれないし、そもそも近くにさえ寄ってこないはずだ。
俺はしゃがみ込んで、今度は三毛猫の額と小さな鼻筋を人差し指で下から上に優しく撫でた。
近所のハチワレも、これをやるとゴロゴロ喉を鳴らしてうっとりしてくれる。
ハチワレと同様に三毛猫もうっとりした表情になり、気持ちよかったようで俺の足下で寝転び始めた。
ハチワレにもいえることだが、野良で生きていく事はとても大変な事で修羅の道と言っても過言ではない。
まともな食事にはありつけないし、夏の炎天下の暑さや凍える冬の寒さに耐えなければならない。
時折、サイコパスのような人物に虐待され殺されてしまう事だってある。
リラックスした三毛猫の顔を見つつ鼻筋を撫でながら俺は問いかけた。
「お前は誰に捨てられたの?」
三毛猫は仰向けに寝転がったまま黙って目を細めている。
「しゃべる事ができたら、お前の話を聞きたいよ。」
三毛猫を撫でながら、ふと夜空を見上げると、洗練されたネオンの光が主人公面して眩く光っている。
カップルは、この夜景にうっとりしているはず。
でも、高層ビルより更に高い所から実は星が輝いている事なんて知らないだろう。
それくらい、ひっそりと都会の隅に存在しているのだから。
都会の星も捨てられてた三毛猫も、そしてさまよい歩いている俺も社会の隅に追いやられながらひっそり生きている。
決して傷口を舐め合っているわけでは無いが、野良である三毛猫と心を通わせているつもりで撫でていると
目を細めコンクリートの地面に横たわっていた三毛猫がおもむろに顔だけ上げてどこか一点を見始めた。
俺も三毛猫の目線を追ったが、特に何も見当たらない。
周囲を見渡しても特に変わった事はなかった。
三毛猫の緊張感が高まっていくのが、俺には感じ取れる。
三毛猫は上半身を起こし、やや前傾姿勢になって長い尻尾を巻きはじめた。
「おい!いったい何があったっていうん
だよ?」
俺の問いかけに、三毛猫が答えてくれるはずもなく自販機の灯りが届かない、その先の暗闇をじっと見ている。
こうなってくると俺も気が気でなくなり三毛猫の目線の先ばかりでなく、辺りをキョロキョロと注意深く目を凝らして見回すが何も発見できない。
「なぁ…あまり俺を驚かさないでくれよ。」
弱気になっている俺を相手にせず、三毛猫の緊張感がどんどん高まっていく。
大丈夫だよ。何もいないよと言おうとした矢先に"ドーン!"という大きな音が三毛猫の視線の先から聞こえた。
その音で、三毛猫は驚いて反射的に逃げ出した。
俺は振り返って走り出した三毛猫を見ると自販機の灯りが届かない所まで飛び出しており、立ち止まってこちらの様子をうかがっている。
暗い為、身体はほぼ見えないが猫特有の妖しくキラッと光る眼球のおかげで三毛猫がまだ近くにいる事が分かった。
ヤンキーどもの喧嘩か?
酔っ払いが暴れているのか?
つまらない事に巻き込まれたく無いので俺も三毛猫と同じ方向に歩き始めた瞬間だった。
またしても"ドーン!!"という音がした。
まるで、シャッターを蹴るような音だ。
しかもさっきより音が明らかにでかくなっている。
三毛猫はすごい速さで走り去り、暗闇に消えていった。
電光石火とは、この事だと思った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
大人への門
相良武有
現代文学
思春期から大人へと向かう青春の一時期、それは驟雨の如くに激しく、強く、そして、短い。
が、男であれ女であれ、人はその時期に大人への確たる何かを、成熟した人生を送るのに無くてはならないものを掴む為に、喪失をも含めて、獲ち得るのである。人は人生の新しい局面を切り拓いて行くチャレンジャブルな大人への階段を、時には激しく、時には沈静して、昇降する。それは、驟雨の如く、強烈で、然も短く、将に人生の時の瞬なのである。
ラガー・チルドレン
栗金団(くりきんとん)
キャラ文芸
2019年ラグビー世界大会、15歳の瓜坊直流(うりぼうすぐる)はテレビの向こうにいる屈強なラガーマンに憧れたことがきっかけでラグビーを始める。
しかし、中学のラグビー部は部員数3人の弱小部だった。
さらに翌年先輩たちが卒業をしたことでラグビー部は廃部となってしまう。
ラグビーをするため、そして先輩たちに学んだことを無駄にしないためにも瓜坊はラグビー強豪校に進学することを決意する。
親に学費の相談をしたり勉強をしたりしながら、友人たちに声をかけてラグビーの練習を続ける瓜坊。
そして2年後、瓜坊はやっとの思いで獅子神高校に入学する。ところが、ラグビー部に入部するにはとある条件が必要だった。
ラグビー初心者の男子高校生が好きなスポーツのために奮闘し成長するスポーツ小説、開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる