11 / 92
11
しおりを挟む
社員食堂の出入り口から小柄な男がニヤニヤしながら小走りで走ってきた。
小室は俺を見つけると、こちらにかけ寄ってきて早口で話しかけてきた。
「さ、佐山さん!今日は何ですか?こ、小室さんはラーメンと牛丼をダ、ダ、ダブルで注文、しようと思います!」
「…そうですか。」俺は早口の小室とは正反対に静かな口調で呟き、一瞬だけ小室の顔を見てすぐ目を逸らした。
小室は成人男性の小指程の大きさである2枚のペラペラな食券を団扇がわりに顔を扇いでいる。
「こ、小室さんは、よ、用事があるんで、か、帰ります。小室さんは忙しいんですよ。で、でも昼は、ここで食べます!」
そうか、だから大量の破損事故について皆で話し合っていた時もコイツだけいなかったのか。
でも社員食堂で昼食を食べたいが為に帰宅せず、こんな時間まで職場に残っているとはいったいどんな用事だというのだろう。
俺は小室が何の用事で早引きするのか問いただしたのだが聞かれたくなかったようで小室は話題を変えてきた。
「サ、サバの味噌煮ですか?こ、小室さんは残業していっぱいお金があ、あるからダブルで注文、で、出来るんです!ウヒャヒャー!こ、今度一緒にパ、パチンコ行きませんか?や、やり方教えますから!
あ、後で、か、肩揉んでください!さ、30秒!」
あっちこっちに会話が飛んで一貫性がまるっきりない。
ーーーーーしかもパチンコ?肩を揉め?30秒?30秒間だけでも揉んでくれってことか?
この野郎、ふざけるなよ…。
小室の舐めた態度に対して俺の感情は火山が爆発するような怒りというより、研ぎ澄まされた切れ味抜群の冷たいナイフのような状態だった。
小室は俺の静かな怒りに気づいたのか知らないが俺との会話を切り上げ、ランチを注文する為に列に並び始めた。
心臓がドキドキして少し手足が震えている。
これは恐怖からくるものではない。
怒りがナイフのようなクールさではあるとはいっても、それは言葉のあやであり
所詮、怒りには変わらない。
心の中が強烈な怒りで埋め尽くされている。
漫画のように怒りが頂点に達すると手足がワナワナ震える事を初めて俺は実感した。
小室のせいで忘れていたが関連会社の2人が気になり正面を見た。
彼らはワナワナ震えている俺に対して冷たい視線を送っていた。
ニキビ面は「アイツだろ?」と正面に座っている大柄の坊主頭に小声で話していた。
声は聞こえなかったが、明らかに口の動きでそう言っているのが分かる。
こちらを見ていた大柄の坊主頭は汚いものをみるかのような軽蔑した顔つきだった。
アイツ?
俺を見てアイツとはどういう意味だ?
俺の頭の中はクエスチョンだらけだった。
いったいなぜ2人は俺にあのような態度をとったのか気になる。
ずっとここで考えていたかった。
しかし、だからといってパントマイムをしているように立ち尽くしているわけにはいかない。
米粒一つ残す事なく全てたいらげた食器を、ひとまず返却しよう。そう思いおぼんを返却しに向かった。
厨房の奥から2人の調理師がいつも通り元気よくありがとうございますと、お礼を言ってくれたのだが俺はさっきの事が気になってしまい声が詰まって、ご馳走様でしたと返事ができなかった。
俺は考えた。
あの冷たい視線と言葉は、きっと自分の事ではなく小室の事だ。
2人はアイツに何かしらの迷惑をかけられたんだ。
過去にも小室はトラブルを巻き起こしていたからあり得る話だ。
間違いない、きっと小室についてだ。
自分の感情が崩れないように無理矢理、そう思い込むようにした。
ふと小室を見ると肌荒れした調理師にラーメンと牛丼を注文している。
小室の滑舌が悪い為、調理師は右耳を小室側に傾けて少ししかめっ面しながら3回も聞き返していた。
俺は出入り口へ、トボトボ俯きかげんで歩きながら考える事を止めれなかった。
頭の中で整理して今ある情報を自分なりに一から分析した。
ニキビ面はなぜ、こちらを見て「アイツだろ?」なんて言ったのだろう?
彼らはさっきまで今朝の大量の破損事故について話していて、"犯人"なんて言葉を使っていたしミスをした人物を知っているような口調だった。
それも誰かに聞いて得た情報のはずだから告げ口をした奴がいる。
俺は彼らが言うところの"犯人"は高橋だと思っている。それは現在も変わらない。
しかし高橋は社員食堂にはいないのに俺に対するあの態度は変だ。
これではまるで俺が"犯人"みたいじゃないか。
そんなはずはないと再度、自分にいいきかせながら別の可能性を考えた。
やはりトラブルメイカーでさっきも支離滅裂な会話を俺にふっかけてきた小室についてではないだろうか?
それでなければ単に俺の考え過ぎかもしれない。
高橋や小室に振り回されて心身共に疲れているし対人恐怖症を患っているとまではいかないが、かなり人に対して過敏になっている。
社員食堂の出入り口でいったん立ち止まり、意を決して2人が食事をしている方向へ振り返った。
関連会社の2人がまたしても俺を冷たい目で見ていた。
俺の方向に背を向けて座っているニキビ面はわざわざ首を傾けて睨むようにこちらを見ている。
大柄な坊主頭も俺を睨んだ後、呆れたように鼻で笑ったような仕草をした。
もうこれで小室は無関係だということを俺は悟った…。
小室は俺を見つけると、こちらにかけ寄ってきて早口で話しかけてきた。
「さ、佐山さん!今日は何ですか?こ、小室さんはラーメンと牛丼をダ、ダ、ダブルで注文、しようと思います!」
「…そうですか。」俺は早口の小室とは正反対に静かな口調で呟き、一瞬だけ小室の顔を見てすぐ目を逸らした。
小室は成人男性の小指程の大きさである2枚のペラペラな食券を団扇がわりに顔を扇いでいる。
「こ、小室さんは、よ、用事があるんで、か、帰ります。小室さんは忙しいんですよ。で、でも昼は、ここで食べます!」
そうか、だから大量の破損事故について皆で話し合っていた時もコイツだけいなかったのか。
でも社員食堂で昼食を食べたいが為に帰宅せず、こんな時間まで職場に残っているとはいったいどんな用事だというのだろう。
俺は小室が何の用事で早引きするのか問いただしたのだが聞かれたくなかったようで小室は話題を変えてきた。
「サ、サバの味噌煮ですか?こ、小室さんは残業していっぱいお金があ、あるからダブルで注文、で、出来るんです!ウヒャヒャー!こ、今度一緒にパ、パチンコ行きませんか?や、やり方教えますから!
あ、後で、か、肩揉んでください!さ、30秒!」
あっちこっちに会話が飛んで一貫性がまるっきりない。
ーーーーーしかもパチンコ?肩を揉め?30秒?30秒間だけでも揉んでくれってことか?
この野郎、ふざけるなよ…。
小室の舐めた態度に対して俺の感情は火山が爆発するような怒りというより、研ぎ澄まされた切れ味抜群の冷たいナイフのような状態だった。
小室は俺の静かな怒りに気づいたのか知らないが俺との会話を切り上げ、ランチを注文する為に列に並び始めた。
心臓がドキドキして少し手足が震えている。
これは恐怖からくるものではない。
怒りがナイフのようなクールさではあるとはいっても、それは言葉のあやであり
所詮、怒りには変わらない。
心の中が強烈な怒りで埋め尽くされている。
漫画のように怒りが頂点に達すると手足がワナワナ震える事を初めて俺は実感した。
小室のせいで忘れていたが関連会社の2人が気になり正面を見た。
彼らはワナワナ震えている俺に対して冷たい視線を送っていた。
ニキビ面は「アイツだろ?」と正面に座っている大柄の坊主頭に小声で話していた。
声は聞こえなかったが、明らかに口の動きでそう言っているのが分かる。
こちらを見ていた大柄の坊主頭は汚いものをみるかのような軽蔑した顔つきだった。
アイツ?
俺を見てアイツとはどういう意味だ?
俺の頭の中はクエスチョンだらけだった。
いったいなぜ2人は俺にあのような態度をとったのか気になる。
ずっとここで考えていたかった。
しかし、だからといってパントマイムをしているように立ち尽くしているわけにはいかない。
米粒一つ残す事なく全てたいらげた食器を、ひとまず返却しよう。そう思いおぼんを返却しに向かった。
厨房の奥から2人の調理師がいつも通り元気よくありがとうございますと、お礼を言ってくれたのだが俺はさっきの事が気になってしまい声が詰まって、ご馳走様でしたと返事ができなかった。
俺は考えた。
あの冷たい視線と言葉は、きっと自分の事ではなく小室の事だ。
2人はアイツに何かしらの迷惑をかけられたんだ。
過去にも小室はトラブルを巻き起こしていたからあり得る話だ。
間違いない、きっと小室についてだ。
自分の感情が崩れないように無理矢理、そう思い込むようにした。
ふと小室を見ると肌荒れした調理師にラーメンと牛丼を注文している。
小室の滑舌が悪い為、調理師は右耳を小室側に傾けて少ししかめっ面しながら3回も聞き返していた。
俺は出入り口へ、トボトボ俯きかげんで歩きながら考える事を止めれなかった。
頭の中で整理して今ある情報を自分なりに一から分析した。
ニキビ面はなぜ、こちらを見て「アイツだろ?」なんて言ったのだろう?
彼らはさっきまで今朝の大量の破損事故について話していて、"犯人"なんて言葉を使っていたしミスをした人物を知っているような口調だった。
それも誰かに聞いて得た情報のはずだから告げ口をした奴がいる。
俺は彼らが言うところの"犯人"は高橋だと思っている。それは現在も変わらない。
しかし高橋は社員食堂にはいないのに俺に対するあの態度は変だ。
これではまるで俺が"犯人"みたいじゃないか。
そんなはずはないと再度、自分にいいきかせながら別の可能性を考えた。
やはりトラブルメイカーでさっきも支離滅裂な会話を俺にふっかけてきた小室についてではないだろうか?
それでなければ単に俺の考え過ぎかもしれない。
高橋や小室に振り回されて心身共に疲れているし対人恐怖症を患っているとまではいかないが、かなり人に対して過敏になっている。
社員食堂の出入り口でいったん立ち止まり、意を決して2人が食事をしている方向へ振り返った。
関連会社の2人がまたしても俺を冷たい目で見ていた。
俺の方向に背を向けて座っているニキビ面はわざわざ首を傾けて睨むようにこちらを見ている。
大柄な坊主頭も俺を睨んだ後、呆れたように鼻で笑ったような仕草をした。
もうこれで小室は無関係だということを俺は悟った…。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
天ヶ崎高校二年男子バレーボール部員本田稔、幼馴染に告白する。
山法師
青春
四月も半ばの日の放課後のこと。
高校二年になったばかりの本田稔(ほんだみのる)は、幼馴染である中野晶(なかのあきら)を、空き教室に呼び出した。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
夏休み、隣の席の可愛いオバケと恋をしました。
みっちゃん
青春
『俺の隣の席はいつも空いている。』
俺、九重大地の左隣の席は本格的に夏休みが始まる今日この日まで埋まることは無かった。
しかしある日、授業中に居眠りして目を覚ますと隣の席に女の子が座っていた。
「私、、オバケだもん!」
出会って直ぐにそんなことを言っている彼女の勢いに乗せられて友達となってしまった俺の夏休みは色濃いものとなっていく。
信じること、友達の大切さ、昔の事で出来なかったことが彼女の影響で出来るようになるのか。
ちょっぴり早い夏の思い出を一緒に作っていく。
窓を開くと
とさか
青春
17才の車椅子少女ー
『生と死の狭間で、彼女は何を思うのか。』
人間1度は訪れる道。
海辺の家から、
今の想いを手紙に書きます。
※小説家になろう、カクヨムと同時投稿しています。
☆イラスト(大空めとろ様)
○ブログ→ https://ozorametoronoblog.com/
○YouTube→ https://www.youtube.com/channel/UC6-9Cjmsy3wv04Iha0VkSWg
【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春
mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆
人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。
イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。
そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。
俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。
誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。
どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。
そう思ってたのに……
どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ!
※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる