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ラスト あれから

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その後、警察が介入しミカミは現行犯逮捕され混乱は収束したが、主催者側の意向によりライブを中断する事が発表された。

しかしライブの中断に強く反発したニシが、プロデューサーを務めるバンド、"ザ・マイドリーム・スクラッチ" は主催者側の意向に背いてライブを強硬したものの、予定調和がなくスリリングで圧巻の展開を見せつけたウミのバンドとの力量の差は誰の目から見ても歴然であり、マイドリーム・スクラッチの固定ファンでさえ彼らにそっぽを向く結果を招きロック魂溢れるウミのバンドへ心がなびいた。


「クソ。こんな事ならウミのバンドと対バンなんかしなければよかった。
潰すつもりが返り討ちにされたようなもんだよ。」

「実力差があるのは百も承知だったが、まさか新メンバーが途中からとはいえ、ウミの元へ戻ってくるとは思わなかった。
あれでプランが狂ってしまった…。」

まるで破産したかのような表情で歩く5人(ニシと4人のバンドメンバー)は、とぼとぼ狭い関係者通路から表へ出た。

ガランとした駐車場に赤いランプがクルクル回っている。

ニシは眩しそうに目を細めた時、待ち構えていた警察官がニシに話しかけた。


「ザ・マイドリーム・スクラッチのプロデューサーのニシさんと、そのバンドメンバーですよね?」

「そうですが…。」

「前座のバンドが演奏中、消化器を持って暴れた男がお二人の指示の元、ステージに乱入した事を取り調べで供述しておりましてね。
今夜のコンサートで起こった事件について詳しくお聞きしたいので、ご同行を願います。」

「何の事か私にはサッパリわかりませんな。」

ミカミの裏切りで狼狽したが、なんとか平静を保ちニシはシラを切った。

「犯行に及んだミカミの供述にはライブを壊せば出所後、美女達とができる約束をして貰えた。
だから犯行に及んだ。
容疑者からこのような言質げんちは取れていますよ。」

ニシとギタリストは憔悴しょうすいしきった顔を互いに突き合わせている。

「それに加えてもう一件…。」

警察官は無意識に間をおいて話した。

「容疑者には余罪があります。
未成年者の女性に対して強姦未遂の容疑です。
、被害者の女性から通報を受けましてね。」

「待ってください。その事件をなぜ私に話すのですか?
その強姦未遂事件については私達は一切、関与しておりませんよ。
これは本当です。」

「署まで同行を。」

「ウミの嫁が襲われた事件に巻き込まれてしまった…。無関係なのに…。俺の人生、こんな結末かよ…。」

今後の展開を全て悟ったかのようにギタリストは力無く呟いて肩を落とした。




*****


(ミカミ襲撃のライブから3ヶ月後)

「ウミィ?ねぇ起きてよぉ。ウミってばぁ。」

シャー

ソラは両手でレースカーテンを全開にする。
新緑の季節を感じさせる太陽の光が部屋に柔らかく差し込んでいた。

「ソラぁ…眩しい…。」

いちいち天気予報をチェックしないウミではあるが、妻に空模様を聞くまでもなく雲一つない晴天だということくらい窓から降り注ぐ太陽の光でわかった。

「オオニシさんのアパートと私達が住むマンションの中間に植えてある桜が満開だよぉ。
朝ご飯を食べたら、のんびり2人で見にいこっ?」

「桜を見物したいのはやまやまだが、眠いし疲れてるし…。」

ふぅ、と寂しげにソラは溜息を吐いた。

「…いい加減起きてよね。
大手音楽事務所の人と会ったり音楽メディアの取材や、ミカミの件で警察とやり取りしたり怒涛の忙しさだったんだよぉ。
ようやくそれがひと段落ついたら、今度は新曲制作やらミュージック・ビデオの撮影やら東名阪ツアーの準備やらで忙殺されて、夫婦の時間なんかほとんどなかったじゃん。」

「なんだよ、ちゃんと俺がどんな立場かわかってんじゃんかよ。
さっきまでスタジオで缶詰だった事はおまえも知っているだろ。
深夜までやったり朝までやったりして日付けも、こんがらがってわかんねぇくらい音楽漬けだ。
ようやく今日はオフなんだからよ。
ゆっくりしたって罰当たんねえだろ。」

顔までスッポリ掛け布団を被ったウミだったが、ソラは掛け布団を素早く奪い取った。

「おいソラぁ~~~。」

眩しさで半目のウミが手をあちこちに伸ばし、布団を探している。

「お布団はここ!」

「なぁ、頼むから返してくれよ~。」

寝不足のウミは拝むポーズをしたが、ソラはみるみる態度を硬化させていく。

「ダメ!このまま寝て過ごすお休みなんてあり得ない。」

怒ったソラはベッドで横になる、ウミのクマがプリントされたパジャマのズボンをパンツごと脱がした。

「止めろよ、いきなり何すんだよ。」

「アンタに外出する気がないなら、。」

太陽が夫婦の過ごす部屋を盗み見ようとしている。
春の爽やかだった太陽の光は、事の始まりを予感したかのようにギラギラ燃えていた。

「おい…おまえは何を考えてんだ?」

「なにって?あぁ、そうよね。私も見られるのは嫌いなの。
?」

厚手の遮光カーテンを閉めた。

「寝かせてくれと言うのがそんなに悪いのか?
俺はこの通り、疲労困憊ひろうこんぱいなんだよ。
川上りをしてボロボロになった鮭みたいだろうが。」

鮭を例え話にしたウミにソラはニヤッと怪しく笑った。

「川上りをしたボロボロの鮭…フフッ、確かにベッドから動けないアンタは海から故郷の川を目指してやってきた鮭みたい。
でもそれって、こういう事を私に求めている意味の発言でしょ?」

ルームウェアを脱いだソラは下着姿になってベッドに飛び込み、ウミに覆い被さった。

「ソラぁ、なんだ急に?」

「だってウミは愛し合いたいけどシャイだから、遠回しの表現で私を求めた。そうでしょ?
オスとメスの鮭は命懸けで川上りをして、そしてまた休む事なく命懸けで産卵するんだよね。
私、待っているだけなんてしないよぉ。
疲れているウミの為に、ちゃんと私がリードしたげる。」

ウフフと笑うソラは美しいロングヘアをかき分けた後、ブラジャーを外してウミの首筋に唇を這わせた。

「ち、違うって、そういう意味じゃねえよ。
鮭に意味なんざねえ。単純に疲れているだけだ。
わけのわからん事をくっちゃべてねえで俺を寝かせてくれ。」

上に乗っていたソラをどかし、足元にあった掛け布団を奪い返したが、再び掛け布団を取られてしまった。

「違うの?
やっぱりウミのお望みはこっち?」

ソラは四つん這いになる。
一般人であるにも関わらずファンクラブが存在したり、グッズが高値で販売されてしまうほど全国的に大人気の美女が、自身の桃尻をウミに差し出すように突き上げた。

「おいでよぉ…可愛い私の旦那様。」

「ソ、ソラぁ。おまえはわかっていてわざとやってんだろ?
鮭の話から、こっちの展開に持っていくのはあまりにゴリ押し過ぎてーーーー」

ピンポーン

「あっ、誰か来たみたいだな。
お、俺がでようか?」

「いい!!出なくていい!!
こんな時間に来客なんて迷惑だわ!!」

ピンポーン

「あの、ソラぁ…俺…。」

「ウミィ!!妻の私に集中して!!早くウミの手で私の下を脱がしなさいよぉ!!」

「で、でも、もう朝だしさ…。」

「夜になったの!!これ以上私を悲しませないでよね!!」

"日本一可愛い美少女"との異名を持つ妻のソラは烈火の如く、夫のウミを怒鳴る。

ガチャガチャ

「誰か玄関を開けて入ってきたぞ。早く服を着ろ。」

怒鳴り散らすソラにタジタジだったウミが、厳しい顔つきでソラに指示を出す。
ウミ自身も急いでパンツとパジャマのズボンを穿いた。

「なんで?戸締りはしっかりしてあるはずよぉ。」

ソラは乳房や尻を最愛の夫以外に見られてたまるかと、急いで床に脱ぎ散らかしたルームウェアを着た。

様々な事件を経験した夫婦は非常に警戒心が強く戸締り等、防犯対策を怠ることはなかったのだが、玄関ドアを開けて忍び込んできた侵入者がいる事実は変えられなかった。

「おまえはここにいるんだぞ、いいな。」

止めようとしたソラだったが、寝室のドアを開けて出ていくウミの方が早かった。

「ウミィ?
自分の命より大切なアンタの身に何かあったら、私…。」

指示通り黙って待つ気などさらさらないソラは、ウミを追って物音のする玄関先へ向かった瞬間だ。
目の前に恥ずかしそうな表情をしたウミが寝室に戻ってきた。

「ウミィ…?あぁぁ!!ママ何をしにここへ来たのよぉ!!」

「お姉ちゃんおはよう。なにって娘達が真面目に生活をしているか抜き打ちチェックにきたわ。」

ウミの胸を背後から両手で揉みながら、母であるユラが部屋に入ってきた。

「抜き打ちチェック?
バカなマネはしないでくれる?
って馴れ馴れしく私の旦那様に抱きつかないでよね!
早く離れなさい!」

「冗談に決まっているでしょ?冗談。
ねぇウミくん?」

俺の休日を返せと心で言えても、義母に声にだして言えないウミは、額をポリポリ掻きながら笑うだけだった。

「ママはどうやって忍び込んだわけ?鍵はしっかりかけたはずなのに。」

「チャイムを鳴らしても出てこないんだもの。
コレを使わせてもらったわ。」

母のユラはソラに合鍵を見せた。

「いつの間に私達の自宅の合鍵を作ったのよぉ。それも勝手に。
信じられない…。」

ゾクッとしたソラは鳥肌を立たせて驚いた。

「さっきセラのお家にも行ったの。コレを使ってね。」

上着のポケットから、セラの自宅の合鍵を取り出して得意げに見せつけている。

「そうそう、そのセラの事だけどね、ちょっと聞いてくれる?
あの子の部屋は足の踏み場がないくらい散らかり放題!
汚れた食器やメイク用品の山の中に、まだお洗濯していないであろう派手なTバックやブラがたくさん脱ぎ散らかしてあったの。
そのうえ無防備にも、オッパイを放り出してイビキかいて寝てたのよ、あの子。
ガサツにも程があるでしょう?
あんなに可愛く、スタイル良く産んであげたのに…まったく!」

「ママ。勝手にやってきて私達の生活を盗み見るのはやめてちょうだい。
その合鍵はどこで手に入れたか知らないけれど、今すぐこちらに寄越してよね!」

「さすがは几帳面な性格をしているお姉ちゃんの自宅は整理整頓が行き届いているし、お部屋が華やか。
でもカーテンは開けてお部屋を明るくしなくっちゃ。
もう朝なんだから。」

ユラはカーテンを開けた。

「私達、実家に住んでいたあの頃とは違うのよぉ!
もう子供じゃないの。
ママ、今すぐ出て行ってくれる?ここは私達の家なんだから。
勝手な事は慎んでよね!」

「どうしたの?ウミ君。
元気ないわね。
また、お姉ちゃんにいじめられているのかしら?」

「ちょっとぉ?さっきから私の話、ちっとも聞いてないじゃない!今、ウミは関係ないでしょ。」

「い、いえ。いじめられてないです。はい、大丈夫です。ハハハ…。」

「そうかしら?
疲れているのにも関わらず夫婦の営みを強要してくるお姉ちゃんに、ズボンとパンツを下ろされていたんじゃなくて?」

「ママ?」

ソラの血の気が引いていく。
まさか実家に居た頃のように監視されていたのではないか疑念を抱いた。

義母ママである私が不在である事に味をしめて、お姉ちゃんからこうやってお触りされたんじゃない?」

ユラはパジャマをめくりウミの引き締まったヘソ周りを人差し指で円をかくように優しく撫でている。

「ママなんか出ていけぇぇぇぇぇ!!!」

今にも噛みついてくる狂犬のようなソラが母を玄関まで連れて行く際、ウミは壁掛け時計を見つめた。
揉めてから随分と時間が経過している事に気づき涙を流した。

「俺の、俺の休みが…。貴重な俺の休みが…。
明日から、またハードワークだってのに…うぅぅ。」







































































































































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