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第6部 日常の素晴らしさ

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「ウミのお茶淹れたよぉ。」

「うむ。」

「なによぉ、"うむ"って。頑固おじいちゃんみたい。」

セミの鳴き声がなりをひそめ暑かった夏が終わり、温かいお茶が身体を暖めてくれる秋を迎えていた。

「ねぇ、どんな歌詞を書いているの?私に見せてよぉ。」

ソラはウミが座る机に湯呑みを優しく置いて原稿用紙を覗きこんだ。

「おっと。コイツを見せるわけにはいかねえよ。」

結界を張るかのようにウミは両腕で素早くガードをしている。

「ケチ!妻にも見せれないなんておかしいわ。」

「妻とか関係ないね。今の段階では見せたかねぇんだ。」

「フン。いいもん。ウミが赤ちゃんみたいな顔して寝ている時、隠れて読むから。」

ソラはおぼんを胸元にくっつけると大きくて弾力のある乳房が、横からはみ出すようにこぼれた。

「俺はセキュリティ管理はしっかりしてっから、ちゃんとこの机の引き出しに鍵をかけて読ませはしないぜ。」

「私が買ってあげた机なのに!原稿を読ませなきゃ、この机を取りあげてやるから。」

「強硬手段に出やがったな。」

「意地悪するからでしょ、当たり前よぉ。あら、ちょっと待ってね。
かつらちゃんからだ。」

ソラはスマホでかつらから送信されたトークを読んだあと、ウミの顔の前にスマホをかざして見せた。

「ほら、かつらちゃんからだわ。
新婚の私達をかつらちゃんの実家に招待したいんだって。」

トークの内容を要約してウミに話すソラは、とびきりの笑顔だ。
突然のかつらからの招待が嬉しかったのだ。

「しかも今月中なら私達のスケジュールに合わせられるって。
もちろんかつらちゃんの家に行くよね?」

鼻と唇の間にシャープペンを乗せて、うーんと小さく唸りながらウミは考えている。

「ウミィ、せっかくだから行こうよ!私、かつらちゃん家に行きたい。」

ウミはソラが机に置いた卓上カレンダーに目をやり、スケジュールを確認した。
新しいメンバーの加入、曲作りやギターの練習、そして因縁のあるニシがプロデュースするかつて在籍していたバンドとの対バン。

普段はズボラであるが大好きな音楽に関しては異常なまでにストイックな一面を見せるウミ。

バンドを全国的なものにしたい。
対バンを挑んできたニシ達には負けたくない。
かつてのウミなら問答無用でソラの誘いを断ったであろう。

しかし夏の間、ソラの突然の家出で離れ離れの生活をした事により精彩を欠き音楽的にも悪影響を及ぼす事をウミは学んだ。
ソラを探すような展開は2度と繰り返したくなかった。

何も音楽的な事情ばかりではなく、不器用なウミにはソラが不在の寂しさを埋める事が出来なかったのだ。
であるなら、夫婦円満が大事なポイントとなる。


「…そうだな。行ってみっか?
おまえの休みと被る日があるな。この日なんかどうだ?」

「やったぁぁぁ!ありがとうウミィ!んまっ!」

「んぷ、いきなし何しやがんだぁ。」

「さっそく、かつらちゃんにお返事するね!」

ソラはウミの唇を奪ったあと、嬉しそうにリビングへ向かった。

「ふぅ。」

妻が淹れてくれた少し冷めたお茶を飲みながら、窓から見える景色を眺めた。
高速道路をひっきりなしに走る乗用車やトラックが忙しなく排気ガスを撒き散らしている。

二重サッシから僅かに漏れ伝わってくる騒音が、不思議な事にウミの耳には心地良く聞こえていた。
























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