198 / 275
第5部 追う人、逃げる人、悪い人。
197
しおりを挟む
「疲労困憊てのはこの事よ。」
くたびれたウミは部屋に入るなり劣化して色褪せた畳に寝転がった。
ぐぅぅ。
昼食を食べたきり何も口にしていなかった。
夕飯の準備はおろか身体を起こすことすらままならなかった。
そんななか呼吸をするだけで精一杯のウミのスマホが鳴った。
「ソラ!」
作業用ズボンのポケットに入っていたスマホを取り出して上体を起こし着信を切らしてはなるまいと急いででた。
ウミはまだ体力が残っていた事に自分でも驚いたが、理由が妻であるソラからの着信だからだと気付くと照れた。
「もしもし。ウミィ?」
「おう、もしもしソラ?今はどこにいるんだ?」
ソラは呆れたようにため息を吐きながら言った。
「私は家出をしているのよ。私が自分で居場所を教えるのは変でしょ。
ウミが頑張って私を探さなきゃならないの!
何度も言わせないでよね。」
「でもよ探せつったって、おまえがどこにいるんだかちっともわからないのが現状だぜ?」
「んー。まぁそれはそうね。」
ソラはスマホをスピーカーに切り替えた。
「まだおまえは新富福町にいるのか?」
「私は…新富福町にはいないよぉ。もちろんセラとも昨日から会ってない。
スマホにはバンバン着信履歴があるけどね。」
疲れていたウミではあるが少しでも居場所を把握する為に、ソラに悟られないよう質問をする事を思いついた。
「なぁ、ソラ?随分静かだけど今はホテルにでもいるのか?」
一瞬スマホの向こうでソラが言い当てられてドキッとしている感覚をウミは見逃さなかった。
「もしもホテルやネットカフェにいるんだったらよ?金は大丈夫か?ちゃんと持っているのか?」
「うん。私はヒロコさんとこで働いたお給料があるから…。」
ウミは短い会話のなかでもソラの心理状態を察した。
ソラが寂しくて甘えたい時の声であった。
「ソラ…どこにいようと俺が必ず見つけ出してやるよ。俺、おまえがいないとダメみたいでさ。」
「あぅぅ。ウミィ、私もだよ。ここはウミとの切ない想い出がある場所。
あの頃を想い出して寂しくなっちゃった…。
ねぇ、ウミィ?私達、なんでこうなってしまったのかな?」
想い出の場所?
口にしそうだったが勘づかれては全てが水の泡になる。
ウミは"想い出の場所"がどこかは聞かず口を塞いだ。
「おまえは何も悪くない。悪りぃのは俺なんだ。
おまえを蔑ろにしちまったからな。
そのツケを払ってんのさ。」
ウミは着信を切られたくない気持ちだけでなく、ソラに対する自責の念は嘘ではなかった。
「ウミィ。私、もっと良いお嫁さんになるから絶対に…その、離婚だけは…。」
「バッカ、離婚なんかする気はねぇよ。
だからこうしておまえを探してんじゃんかよ。
すぐにソラを探し出して…。」
「探し出してぇ?」
「…またあの頃みたいに暮らそう。ソ、ソラ?ゴホン…あ、あ、愛しているよ。」
ウミは恥ずかしくなり青い髪が生える地肌に爪を立てた。
「私もよ。誰よりも愛しているわ。早く私を見つけ出して抱きしめてね。」
ウミにはソラが泣いているのが手に取るようにわかった。
「ああ。すぐ探し出すから、それまで待っていてくれよな。」
通話が終わるとすぐ様疲労が身体中を覆ってくる感覚があった。
ウミは大の字になって消す事のできない天井の染みを見ながら思った。
世界広しと言えど、こんなバカな夫婦はいないだろうなと。
くたびれたウミは部屋に入るなり劣化して色褪せた畳に寝転がった。
ぐぅぅ。
昼食を食べたきり何も口にしていなかった。
夕飯の準備はおろか身体を起こすことすらままならなかった。
そんななか呼吸をするだけで精一杯のウミのスマホが鳴った。
「ソラ!」
作業用ズボンのポケットに入っていたスマホを取り出して上体を起こし着信を切らしてはなるまいと急いででた。
ウミはまだ体力が残っていた事に自分でも驚いたが、理由が妻であるソラからの着信だからだと気付くと照れた。
「もしもし。ウミィ?」
「おう、もしもしソラ?今はどこにいるんだ?」
ソラは呆れたようにため息を吐きながら言った。
「私は家出をしているのよ。私が自分で居場所を教えるのは変でしょ。
ウミが頑張って私を探さなきゃならないの!
何度も言わせないでよね。」
「でもよ探せつったって、おまえがどこにいるんだかちっともわからないのが現状だぜ?」
「んー。まぁそれはそうね。」
ソラはスマホをスピーカーに切り替えた。
「まだおまえは新富福町にいるのか?」
「私は…新富福町にはいないよぉ。もちろんセラとも昨日から会ってない。
スマホにはバンバン着信履歴があるけどね。」
疲れていたウミではあるが少しでも居場所を把握する為に、ソラに悟られないよう質問をする事を思いついた。
「なぁ、ソラ?随分静かだけど今はホテルにでもいるのか?」
一瞬スマホの向こうでソラが言い当てられてドキッとしている感覚をウミは見逃さなかった。
「もしもホテルやネットカフェにいるんだったらよ?金は大丈夫か?ちゃんと持っているのか?」
「うん。私はヒロコさんとこで働いたお給料があるから…。」
ウミは短い会話のなかでもソラの心理状態を察した。
ソラが寂しくて甘えたい時の声であった。
「ソラ…どこにいようと俺が必ず見つけ出してやるよ。俺、おまえがいないとダメみたいでさ。」
「あぅぅ。ウミィ、私もだよ。ここはウミとの切ない想い出がある場所。
あの頃を想い出して寂しくなっちゃった…。
ねぇ、ウミィ?私達、なんでこうなってしまったのかな?」
想い出の場所?
口にしそうだったが勘づかれては全てが水の泡になる。
ウミは"想い出の場所"がどこかは聞かず口を塞いだ。
「おまえは何も悪くない。悪りぃのは俺なんだ。
おまえを蔑ろにしちまったからな。
そのツケを払ってんのさ。」
ウミは着信を切られたくない気持ちだけでなく、ソラに対する自責の念は嘘ではなかった。
「ウミィ。私、もっと良いお嫁さんになるから絶対に…その、離婚だけは…。」
「バッカ、離婚なんかする気はねぇよ。
だからこうしておまえを探してんじゃんかよ。
すぐにソラを探し出して…。」
「探し出してぇ?」
「…またあの頃みたいに暮らそう。ソ、ソラ?ゴホン…あ、あ、愛しているよ。」
ウミは恥ずかしくなり青い髪が生える地肌に爪を立てた。
「私もよ。誰よりも愛しているわ。早く私を見つけ出して抱きしめてね。」
ウミにはソラが泣いているのが手に取るようにわかった。
「ああ。すぐ探し出すから、それまで待っていてくれよな。」
通話が終わるとすぐ様疲労が身体中を覆ってくる感覚があった。
ウミは大の字になって消す事のできない天井の染みを見ながら思った。
世界広しと言えど、こんなバカな夫婦はいないだろうなと。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません
詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編の予定&完結まで書いてから投稿予定でしたがコ⚪︎ナで書ききれませんでした。
苦手なのですが出来るだけ端折って(?)早々に決着というか完結の予定です。
ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。
周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。
見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。
脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。
「マリーローズ?」
そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。
目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。
だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。
日本で私は社畜だった。
暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。
あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。
「ふざけんな___!!!」
と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。
さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~
遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」
戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。
周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。
「……わかりました、旦那様」
反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。
その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。
死に役はごめんなので好きにさせてもらいます
橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。
前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。
愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。
フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。
どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが……
まったりいきます。5万~10万文字予定。
お付き合いいただけたら幸いです。
たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜
カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。
その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。
落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる