上 下
151 / 275
だってウミは王子様だもん!

150

しおりを挟む
「張り込み…するか。」

子どもの頃、テレビの再放送で観た刑事ドラマを思い出したウミは、ミカミの尻尾を掴む為に策を講じた。

「善は急げと言いてぇが、その前に準備が必要だ。」

鮮やかな青い髪が乾ききる前に反動をつけて跳ね起きをやって立ち上がり、アパートを飛び出して近所にあるコンビニへ走り出した。



汗だくになってコンビニから帰宅したウミは牛乳、アンパン、カップ麺等を買いだめしており、それらを買い物袋から手際良く冷蔵庫や戸棚に入れていく。

「やっぱし、張り込みするにはこれがマストアイテムだよな。」

額から流れ落ちる汗を腕で拭いながら、ミカミを捕えるのに一歩前進したと思った。

準備は整ったが問題はミカミがアパートにいつ戻ってくるかだ。
隣に住むミカミの郵便受けはハガキやチラシがそのままで、ざっと見ても3日か4日は不在にしている。

今日は木曜日。
土日は休日であるから仕事には支障はない。
じっくりソラの居場所を突きとめる事ができる。
しかし明日の金曜日は平日なので仕事を休まなければならない。

「仮に今日(木曜日)変態野郎がアパートに帰宅しても、ソラの所から戻ってきたわけだからな…。
次にいつ、ソラがいる場所に行くかわからねぇ。
力ずくで居場所を吐かせるって方法もあるが、最悪な場合、変態野郎が被害者づらして俺が警察に捕まっちまう事もあるから下手なまねはできねえしな…。」

これは根気のいる作業になりそうだ。
ウミは冷蔵庫にソラが張り付けたクマのマグネットを見ながら思った。

「ったく、ソラが居場所を教えてくれればすぐに助け出せるのによぉ。
ミカミなんざ、俺がいれば速攻で御用だ。」

ウミは意味もなく冷蔵庫の扉を開けたり閉めたりを繰り返している。

「女ってみんなこんなもんなのか?
ソラしか女を知らねぇから俺にゃわかんね!」

ツチャチャチャチャララ、ツチャチャチャチャララ

「おぅ!?」

無料通話ができるアプリから着信があり、スマホをポケットから取り出した。

「マジかよソラからだ!」

「もしもしウミィ?ウミを愛するソラだよ…。」

「お、おぉ!どうした?もしかすっと居場所を教える気になったのか?」

「ごめんね、それはできないのぉ。ただね私は妻として愛する旦那様の声が聴きたくなっちゃって。」

ウミは呆れて笑ってしまった。
ソラの心が変わり、居場所を伝える電話なのではと思った自分自身を恥じた。

「ハ、ハハ…。そうなんだ。」

「ウミは私と離れて暮らして寂しくない?」

「…最初はバンドの事で頭がいっぱいだったけどさ、おまえがいなくなってからなんちゅうか、物事が上手く回らなくなっちまった。
やっぱソラが隣にいねえと俺はダメみてえだ。」

頬をポリポリ掻きながら素直な気持ちをソラに伝えた。

「ウミィ…ありがとう。ウッウッ、私は愛するウミの妻でいられて幸せだわ。
お願いだから絶対に私の事を捨てないでね…。
じゃってウミィがいないどぉわだしはいんぎでゆけないきゃら…。(だってウミィがいないと私は生きていけないから。)


「あぁ…。」

鼻を啜りながら泣きじゃくるソラの声を聴いたウミは、照れつつもと思うのであった。








































しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

浮気夫に平手打ち

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。聖騎士エイデンが邪竜を斃して伯爵に叙爵されて一年、妻であるカチュアはエイデンの浪費と浮気に苦しめられていた。邪竜を斃すまでの激しい戦いを婚約者として支えてきた。だけど、臨月の身でエイデンの世話をしようと実家から家に戻ったカチュアが目にしたのは、伯爵夫人を浮気する夫の姿だった。

ロザリーの新婚生活

緑谷めい
恋愛
 主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。   アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。  このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【R18】 義理の弟は私を偏愛する

あみにあ
恋愛
幼いころに両親が他界し、私はある貴族に引き取られた。 これからどうなるのか……不安でいっぱいだった私の前に会わられたのが、天使のように可愛い男の子。 とろけそうな笑顔に、甘えた声。 伸ばされた小さな手に、不安は一気に吹き飛んだの。 それが私と義弟の出会いだった。 彼とすぐに仲良くなって、朝から晩まで一緒にいた。 同じ食卓を囲み、同じベッドで手をつないで眠る毎日。 毎日が幸せだった。 ずっと続けばいいと願っていた。 なのに私は……彼の姉として抱いてはいけない感情を持ってしまった。 気が付いた時にはもう後戻りできないところまで来ていたの。 彼の傍に居たいのに、もう居続けることは出来ない。 だから私は彼の傍を離れると決意した。 それなのに、どうしてこんなことになってしまったの……? ※全14話(完結)毎日更新【5/8完結します】 ※無理やりな性描写がございます、苦手な方はご注意ください。

婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央
恋愛
 アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。  自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。  だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。  しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。  結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。  炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥  2021年9月2日。  完結しました。  応援、ありがとうございます。  他の投稿サイトにも掲載しています。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...