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華野恵梨と殆ど話した事がないミホでも、直ぐに見つける事が出来た。
面識の無い生徒達で溢れる教室ではあったが、女子にはわかる独特の空気感。
ーー彼女は孤独だった。
席の直ぐそばで複数の女子が立って話している中、彼女1人だけが自分の席に着席したままでいた。
会話に参加している風を装ってはいるが、その会話は聞き流している。
嫌味な態度がこちらにも伝わって来るほど目立っていて……直ぐに見つける事が出来たのだ。
それに気付いていたのはミホだけではなく、側にいた女子達もだった。
笑顔を装ってその場を離れて行った友人らしきグループは、そのまま女子トイレに向かって行った。
彼女に聴こえる様に、これもまた嫌味な笑い声を上げながら。
自分のクラスとは段違いの、最悪な空気を感じ取りながら。
孤独になった今しかチャンスは無いと悟った。
「あの……ハナちゃん! ちょっと、良いかな?」
「あぁ~? 誰だっけ?」
「あっ! えと……八丁実穂! クラス、一緒になった事は、無いんだけど……」
「あはは! 嘘嘘~っ! 味噌汁ちゃんでしょ?
運動会で目立ちまくってるし、知ってる知ってる。
……でぇ、そのミソちゃんがハナに何か用?」
ここまでは想定範囲内ではあった……が。最悪のスタートだった。
日頃身近にある、コウからの“いじわる”とは訳が違う。
意地悪。悪意。
すれ違った女子達の陰口以上に、ねっとりと陰湿かつ悪戯な笑顔。
「私と同じクラスに、辛藤進君っているんだけど……知ってるよね?」
「だったら何? 回りくどすぎ」
ケラケラ笑っていた彼女は一瞬の内に姿を眩まし、怒りだけを露呈した。
ーー怖くない。怖くない……ムカつく。
只々不快なだけで、恐怖はない。
苛立ちを見せるのも、ここで引くのも、ミホのプライドが許さなかった。
「色んな子誘って、オリジナルの人狼ゲームやるグループ作ってるんだ。
辛藤君誘ったら、ハナちゃん誘ってみてって言われたんだよね!」
「……それ、本当?」
ーーしまった。
予想外の反応に、返答が詰まる。
さっきまでの彼女が嘘の様に、好意的な態度に一変したのだ。
ミホは、今の発言で1番重要な部分を省いてしまった事に気が付いた。
『そいつが加入したら、何があっても俺はチームに加入しない。絶対だ!』
言葉の足らなさに焦り、困惑する。
そんなミホの様子を悟ったのか、相手の方から話を進めた。
「そのチームって、その中でペア作ったり出来るの?」
「ペア、というか。ゲームルールとは別で、コードネームがあってね! ペアっぽい名前考えたり……もし、ハナちゃんに希望があれば、意味合い持たせた名前、一緒に考えよう!」
「アハハハハッ! ……やーよ。そんなダサくて子供臭い事。メンドーだし」
「……え゛ぇ?」
ミホの返事が思わず濁る。
一瞬で先程までの憎たらしい態度が戻ってきた。
「もしも。あなた達がハナとススくんの為に素敵なペアのコードネーム考えてくれたなら、入ってあげても良いかな~」
「スス君って……辛藤進君の事?」
「そうだよ~? だって、ススくんが、ハナを誘ってくれたんだよねぇ?」
「それは、そのーー」
「ハハハッ! やぁ~っぱり適当ぶっこいてた!?
アハハハハ! 消えろよっ、偽善者ブーースッ! キャハハハッ」
コウまで聴こえたその暴言は、教室中の人間全員にも届いていた。
その場を去ろうとするハナがミホを乱暴に突き飛ばす。
ミホは倒れず耐えたものの体はふらつき、ぶつかった机が音を立てる。
彼女は振り向く素振りも見せず、入り口のコウを睨みつけて舌打ちをした。
コウの元へ勢いよく向かって来たかと思われたが、そのまま横を素通りし教室を出て行ってしまった。
ミホを、その場に置き去りにして。
ーー体は痛くない。キツい言葉も怖くない。
拒絶されても、悲しくなんかない。
『偽善者』
その言葉が悔しかった。
ハナが知り得無いであろう今までやってきた全ての事に対してまで言われた言葉な気がした。
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