31 / 40
第31話 没落
しおりを挟む「誰かいらっしゃいませんの!?」
私レイチェルは王宮の一室で声を張り上げた。
「誰か!」
「はい、ただいま参ります!」
何度か声を出して漸く近くを歩いていた王宮メイドが気付いてくれた。
「紅茶の葉が切れておりますわ。直ぐに補充をしなさい。それから廊下にあんな大きなゴミが落ちているのに三日間もそのままだなんてあなたたちは本当に掃除をしているのかしら?」
「も、申し訳ございません。何せ人手が足りないものですから……」
「言い訳は結構ですわ。口ではなく手を動かしなさい。これ以上怠慢が続くならクビにいたしますわよ」
「はい、今すぐに……」
この王宮メイドは涙目になりながら仕事に戻っていったが、翌日にはその顔を見なくなった。
私がクビにしたのではない。
自ら職務を放り投げて失踪したのだ。
「どいつもこいつも……役立たずばかりですわね」
私は頬杖をつきながら大きな溜息をついた。
こんなはずじゃなかった。
本当ならば王妃となった私は王国内の全ての臣民を顎で使い、悠々自適贅沢三昧な暮らしが約束されていたはずだった。
しかし今この王宮内で私の言う事を聞いてくれる人間はほとんどいない。
そもそも王宮どころか王都中から人がいなくなってしまっているのだ。
私やラングに従わなかった者たちの役職を解いて地方へ飛ばしたのまでは良かったが、その後を追うように必要な人間まで去っていってしまったのは計算外だった。
更に父であるエクスディア侯爵とその臣下たちはサイクリア陛下の祟りを恐れて領地に帰ってしまうし、エディー公爵が王都へ連れてきた労働者たちもいつの間にか王都からいなくなっていたという。
元々王都に住んでいた者たちは真っ先にエディー公爵が連れてきた貴族達の横暴に嫌気がさして王都を離れ地方へ流出している。
人が減ればそれだけ労働力が足りなくなり、残った者だけでそれを補わなくてはならなくなる。
今度は皺寄せが来た者も激務に耐えられなくなって行方を眩ませる。
その負の連鎖は加速的に進み最早手遅れな状態にまで到達していた。
今や人がいなくなった王都はゴーストタウンと化し、王宮内にはどこにもいく当てが無い僅かな人間が残っているだけという状態だ。
「おい、昼食はまだか! 料理長はクビにしてしまえ!」
今は昼時だというのに食堂に料理が運ばれてこない。
玉座に座っているラングは空腹に耐えかねて喚いていた。
「ラング様、料理長なら昨日ラング様のお嫌いなピーマンをお出しした罰として追放されたではありませんか」
「そう言えばそうであった。ならば誰が私の昼食を作ってくれるというのだ」
「まだ料理人がひとり残っていたはずですけど……ちょっと様子を見てきますわ」
何故王妃である私が昼食の管理までしなければいけないのかとぼやきながら調理場へと向かった。
「エイミー、昼食はまだですの? 陛下がお腹を空かせておりますわよ……あら?」
調理場には料理人エイミーの姿はなく、代わりに調理台の上に一通の手紙が置かれていた。
私はそれを拾い上げて書かれている内容を読み上げる。
「『私のような見習い料理人には陛下にお出しするような料理はとても作れません。今までお世話になりました。探さないで下さい』……なんですって!?」
あろう事か最後の料理人までもがいなくなってしまった。
食事ができなければラングどころか私たちも飢えてしまう。
こうなったらまだ王宮内に残っている僅かな臣下の中から最低限の料理を作れる人間を探し出して作らせるしかない。
ちなみに私は料理なんて全くできない。
状況を聞いたラングはお腹の虫を鳴らしながらテーブルの上に突っ伏して呟いた。
「レイチェル、私はこのサンクタス王国の王になったはずだ。王が飢餓に苦しんでいるのに国民どもは何をしているのだ」
言うまでもなく愚かな王であるラングは既に国民たちには見捨てられているのだけどそれを伝えたところでいたずらにラングを苛立たせるだけで何の解決にもならない。
この状況を打開する為には何とかして人心を取り戻し、再び王都に人が集まってくるようにするしかない。
しかしラングにそれができるだろうか?
いや、やるしか……違う、そうさせるしかない。
「ラング様、このレイチェルにひとつ考えがあります」
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています
一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます
Teko
ファンタジー
ある日私は、男の子4人、女の子4人の幼なじみ達が出てくる乙女ゲームを買った。
魔法の世界が舞台のファンタジーゲームで、プレーヤーは4人の女の子の中から1人好きなヒロインを選ぶ事ができる。
・可愛くて女の子らしい、守ってあげたくなるようなヒロイン「マイヤ」
・スポーツ、勉強と何でもできるオールマイティーなヒロイン「セレス」
・クールでキレイな顔立ち、笑顔でまわりを虜にしてしまうヒロイン「ルナ」
・顔立ちは悪くないけど、他の3人が飛び抜けている所為か平凡に見られがちなヒロイン「アリア」
4人目のヒロイン「アリア」を選択する事はないな……と思っていたら、いつの間にか乙女ゲームの世界に転生していた!
しかも、よりにもよって一番モテないヒロインの「アリア」に!!
モテないキャラらしく恋愛なんて諦めて、魔法を使い楽しく生きよう! と割り切っていたら……?
本編の話が長くなってきました。
1話から読むのが大変……という方は、「子どもの頃(入学前)」編 、「中等部」編をすっと飛ばして「第1部まとめ」、「登場人物紹介」、「第2部まとめ」、「第3部まとめ」からどうぞ!
※「登場人物紹介」はイメージ画像ありがございます。
※自分の中のイメージを大切にしたい方は、通常の「登場人物紹介」の主要キャラ、サブキャラのみご覧ください。
※長期連載作品になります。
辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する
鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】
余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。
いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。
一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。
しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。
俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。
先読みの巫女を妄信した王子の末路
しがついつか
恋愛
先読みの巫女(さきよみのみこ)。
それは数日、数年、あるいは数十年も先の未来を視ることの出来る希有な能力を持つ女性のこと。
この国は、巫女の予知により何度も助けられてきた。
そのため巫女の言葉は王族にとって信ずるべきものとして認識されている。
だが時として予知に振り回され、人生を棒に振る者がいる――。
婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!
しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
【完結】すべては、この夏の暑さのせいよ! だから、なにも覚えておりませんの
愚者 (フール)
恋愛
【すべては、この夏の暑さのせいよ!】
私の婚約者と妹がイチャイチャしているのを、今までは完全に無視していた。
そのツケが、いま目の前に…。
「お姉ちゃんだから、目くじらを立てないの」
妹に何故か甘い両親、そんな風に言われ続けて堪えていた。
しかし、今年の夏の暑さは異常であった。
学園で何度か見ていた光景だが、彼女の中に意識を失う位の熱が込み上げてきた。
とうとう、この暑さと共に怒りを爆発させてしまったのだ。
意味わからない発言から始まった、婚約破棄を望む事件。
その行方は、どうなるのか。
そして、意外な結末が彼女に降って湧いてくるのである。
夏の暑さは、人の人生すら変えてしまった物語。
ひと夏の思い出にお読み下さいませ。
出筆途中の作品ですので、遅筆になる可能性があります。
季節をまたいでも、お読み下さると嬉しくて思います。
宜しくお願い致します。
時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。
屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。)
私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。
婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。
レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。
一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。
話が弾み、つい地がでそうになるが…。
そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。
朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。
そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。
レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。
第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる