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第87話 覚醒
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カイムの大剣の一閃で、マリーニャの身体は二つに切断される───
はずだった。
俺達の目の前には、切り裂かれたマリーニャではなく砕けた大剣の破片が散らばっている。
「一体何が起きて……いや、マリーニャは無事か!?」
ついさっきまでマリーニャがいた場所を見ると、そこに立っていたのは頭部に大きな二本の角を生やし、背中には蝙蝠の様な羽を生やした異形の怪物だった。
怪物は俺の声に反応し、こちらを振り向いて答える。
「……ええ大丈夫。とってもいい気分よ」
「お、お前は一体……」
俺はその怪物を凝視する。
まるで流れる血の様に赤く靡く長髪に、同じく炎の様に赤く輝く瞳。
「あ、マリーニャだ」
顔も身体もそのまんまだ。
マリーニャ以外の何物でもない。
「ば、化け物……」
マリーニャはカイムの大剣を素手で受け止め、その握力で砕いたのだ。
マリーニャの変貌にカイムは恐怖し、背中を見せて逃げようとする。
化け物呼ばわりをされたマリーニャは眉を吊り上げてカイムを睨みつける。
「何ですか、藪から棒に失礼な人ですね!」
「や、やめ……ぐあっ」
マリーニャは逃げるカイムに飛びかかり、背中からバッサリと切りつけた。
憐れ、カイムは身体の中心から魚の開きの様になって絶命した。
「マリーニャ、その姿は一体……?」
俺は恐る恐る質問をする。
まだ人間の心が残っていればいいが……。
「何ですかチェイン。私どこかおかしいですか? ……あれ、何これ? 私、羽が生えてる? あっ、角もある」
どうやら今になって漸く自分の身体の変貌に気が付いたようだ。
マリーニャは困惑した表情で俺を見る。
「えっと、一体何が起きたんでしょうか?」
むしろ俺が聞きたい。
しかしまだ戦闘中である。
話は後だ。
俺は今の内にマジックポーションを飲んで魔力の回復を待つ。
ルッテは治癒魔法でプリンの怪我の治療を優先している。
エリゴールとベリアルは互角の戦いを繰り広げているが、そこにマリーニャとシズハナが加わって戦局が動く。
シズハナはベリアルの頭部に向けてクナイを投げるが、鱗に覆われた強靭は皮膚はそれを容易く跳ね返す。
それならばと漆黒の忍者刀を鞘から抜いて構えるシズハナをマリーニャが制して前に出る。
「シズハナ、ここは私に任せて。極限雷炎魔法、≪霹靂火≫」
マリーニャが聞いた事もない魔法を詠唱すると、漆黒の剣が放電しながら激しく燃え上がる。
その地獄の様な光景は、まるで火山が噴火した際に水蒸気や火山岩等の摩擦で雷が発生する現象、火山雷を思わせる。
マリーニャはその大きな羽で高く舞い上がると、剣を構え真下にいるベリアル目掛けて急降下する。
「たあーっ!」
エリゴールの相手で精いっぱいだったベリアルは反応が遅れ、その一撃をまともに受けてしまった。
「な、なんだこれは……う、うぎゃぁっ」
最初にベリアルの身体を電撃が襲い、続けて炎に包まれる。
辺りに人の髪が焼けた様な嫌な匂いが充満する。
そして少し時間をおいてから、その肉体が斬られた事を思い出したかの様に縦に裂け始めたかと思うと、轟音と共に粉々に爆散した。
後に残ったのは消し炭となったベリアルの肉片だ。
「さすがマリーニャ殿。フルーレティ様の血を引いているというのは嘘ではない様ですね。私があれだけ苦戦したベリアルをこうもあっさりと片づけるとは」
マリーニャを手放しで褒め称えるエリゴールとは対照的に、俺達【フルーレティ】は若干引き気味だ。
「ああいうのをオーバーキルって言うんだろうな」
「あの魔法、魔法剣士が覚える魔法じゃないよな? 悪魔の魔法だよな?」
「マリーニャ、完全に悪魔になっちゃってますわね」
「今のマリーニャ、レベル350位はあるよ」
シズハナはそう分析するが、マリーニャの魔法珠に表示されているレベルは85のままだ。
その265レベル分の差は一体何なんだ。
やはり魔界の瘴気に晒されて悪魔化した事で、肉体の基本スペックも悪魔のそれに変化したと考えるのが自然だろう。
「じゃあそろそろ決着をつけましょうか」
俺達はただひとり残った魔皇帝ベルゼビュートを包囲する。
「くくく……はーっはっは。貴様達これで勝ったつもりか。忘れた訳ではあるまい。私の身体はどれだけ切り刻まれたとしても、例え灰になるまで焼き尽くされたとしても決して滅びる事はない。それに、こんな事もできる。はああああああああっっ……!」
ベルゼビュートの咆哮が響き渡ると同時に、大地が震える。
「何だ!? こけおどし……ではないようだが」
「450……500……600……そんな、まさか!?」
シズハナの顔から血の気が失せる。
「レベル1000……ありえない!」
「ははは、先程そこのフェリグスとかいう小僧がやっていた事だよ。肉体強化ってやつをな」
強化魔法は自分の限界以上に身体能力を高める魔法だ。
強化された分だけ身体に対する負担は大きくなる。
勇者フェリグスは過酷な訓練によってある程度は克服したがそれでもレベル500相当の強化を短時間だけ維持する事がやっとだった。
しかし、すさまじい程の再生能力を持つベルゼビュートにはそれがデメリットにならない。
身体が崩れても即座に再生してしまうからだ、
その気になれば魔力の限界まで肉体を強化する事も可能だろう。
ベルゼビュートは余裕の笑みを浮かべて言う。
「さあ、遊びは終わりだ」
ベルゼビュートはその手に握った髑髏の様な不気味な装飾が施された巨大なメイスを振りかざす。
はずだった。
俺達の目の前には、切り裂かれたマリーニャではなく砕けた大剣の破片が散らばっている。
「一体何が起きて……いや、マリーニャは無事か!?」
ついさっきまでマリーニャがいた場所を見ると、そこに立っていたのは頭部に大きな二本の角を生やし、背中には蝙蝠の様な羽を生やした異形の怪物だった。
怪物は俺の声に反応し、こちらを振り向いて答える。
「……ええ大丈夫。とってもいい気分よ」
「お、お前は一体……」
俺はその怪物を凝視する。
まるで流れる血の様に赤く靡く長髪に、同じく炎の様に赤く輝く瞳。
「あ、マリーニャだ」
顔も身体もそのまんまだ。
マリーニャ以外の何物でもない。
「ば、化け物……」
マリーニャはカイムの大剣を素手で受け止め、その握力で砕いたのだ。
マリーニャの変貌にカイムは恐怖し、背中を見せて逃げようとする。
化け物呼ばわりをされたマリーニャは眉を吊り上げてカイムを睨みつける。
「何ですか、藪から棒に失礼な人ですね!」
「や、やめ……ぐあっ」
マリーニャは逃げるカイムに飛びかかり、背中からバッサリと切りつけた。
憐れ、カイムは身体の中心から魚の開きの様になって絶命した。
「マリーニャ、その姿は一体……?」
俺は恐る恐る質問をする。
まだ人間の心が残っていればいいが……。
「何ですかチェイン。私どこかおかしいですか? ……あれ、何これ? 私、羽が生えてる? あっ、角もある」
どうやら今になって漸く自分の身体の変貌に気が付いたようだ。
マリーニャは困惑した表情で俺を見る。
「えっと、一体何が起きたんでしょうか?」
むしろ俺が聞きたい。
しかしまだ戦闘中である。
話は後だ。
俺は今の内にマジックポーションを飲んで魔力の回復を待つ。
ルッテは治癒魔法でプリンの怪我の治療を優先している。
エリゴールとベリアルは互角の戦いを繰り広げているが、そこにマリーニャとシズハナが加わって戦局が動く。
シズハナはベリアルの頭部に向けてクナイを投げるが、鱗に覆われた強靭は皮膚はそれを容易く跳ね返す。
それならばと漆黒の忍者刀を鞘から抜いて構えるシズハナをマリーニャが制して前に出る。
「シズハナ、ここは私に任せて。極限雷炎魔法、≪霹靂火≫」
マリーニャが聞いた事もない魔法を詠唱すると、漆黒の剣が放電しながら激しく燃え上がる。
その地獄の様な光景は、まるで火山が噴火した際に水蒸気や火山岩等の摩擦で雷が発生する現象、火山雷を思わせる。
マリーニャはその大きな羽で高く舞い上がると、剣を構え真下にいるベリアル目掛けて急降下する。
「たあーっ!」
エリゴールの相手で精いっぱいだったベリアルは反応が遅れ、その一撃をまともに受けてしまった。
「な、なんだこれは……う、うぎゃぁっ」
最初にベリアルの身体を電撃が襲い、続けて炎に包まれる。
辺りに人の髪が焼けた様な嫌な匂いが充満する。
そして少し時間をおいてから、その肉体が斬られた事を思い出したかの様に縦に裂け始めたかと思うと、轟音と共に粉々に爆散した。
後に残ったのは消し炭となったベリアルの肉片だ。
「さすがマリーニャ殿。フルーレティ様の血を引いているというのは嘘ではない様ですね。私があれだけ苦戦したベリアルをこうもあっさりと片づけるとは」
マリーニャを手放しで褒め称えるエリゴールとは対照的に、俺達【フルーレティ】は若干引き気味だ。
「ああいうのをオーバーキルって言うんだろうな」
「あの魔法、魔法剣士が覚える魔法じゃないよな? 悪魔の魔法だよな?」
「マリーニャ、完全に悪魔になっちゃってますわね」
「今のマリーニャ、レベル350位はあるよ」
シズハナはそう分析するが、マリーニャの魔法珠に表示されているレベルは85のままだ。
その265レベル分の差は一体何なんだ。
やはり魔界の瘴気に晒されて悪魔化した事で、肉体の基本スペックも悪魔のそれに変化したと考えるのが自然だろう。
「じゃあそろそろ決着をつけましょうか」
俺達はただひとり残った魔皇帝ベルゼビュートを包囲する。
「くくく……はーっはっは。貴様達これで勝ったつもりか。忘れた訳ではあるまい。私の身体はどれだけ切り刻まれたとしても、例え灰になるまで焼き尽くされたとしても決して滅びる事はない。それに、こんな事もできる。はああああああああっっ……!」
ベルゼビュートの咆哮が響き渡ると同時に、大地が震える。
「何だ!? こけおどし……ではないようだが」
「450……500……600……そんな、まさか!?」
シズハナの顔から血の気が失せる。
「レベル1000……ありえない!」
「ははは、先程そこのフェリグスとかいう小僧がやっていた事だよ。肉体強化ってやつをな」
強化魔法は自分の限界以上に身体能力を高める魔法だ。
強化された分だけ身体に対する負担は大きくなる。
勇者フェリグスは過酷な訓練によってある程度は克服したがそれでもレベル500相当の強化を短時間だけ維持する事がやっとだった。
しかし、すさまじい程の再生能力を持つベルゼビュートにはそれがデメリットにならない。
身体が崩れても即座に再生してしまうからだ、
その気になれば魔力の限界まで肉体を強化する事も可能だろう。
ベルゼビュートは余裕の笑みを浮かべて言う。
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