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第73話 祝勝会

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 謁見の間で俺の受爵式が終わると、少し時間をおいて祝勝会場へ案内された。

 祝勝会場では今回の防衛戦で活躍した者達の手柄話と、俺の受爵についての話題で持ちきりだ。

「チェイン様、お初にお目にかかります。私、ルカス家の三女のスターシアラと申します。以後お見知りおきを」

「私はユーノ男爵の二女、ルナクレアと申します。この度のチェイン様のご活躍について詳しくお聞かせ下さいますでしょうか」

「私はクトゥグアー家の長女の───」

 煌びやかなドレスに身を包んだ貴族のご令嬢達が、代わる代わる俺に声をかけてくる。
 しかし俺の爵位が目当てなのが見え見えでうんざりする。

「コホン、すまないねお嬢様方。鈺卿は私と話があってね」

 そこへハーゲン伯爵が割り込んできて、令嬢達はムッとした表情で俺から離れていく。
 これは俺を助けた訳……じゃないな。
 婿に近付く悪い虫を排除しているだけだ。

 ハーゲン伯爵はテーブルを挟んで俺の目の前の椅子に腰かけると、俺のグラスにワインを注いで言う。

「チェイン君、何はともあれおめでとう。ワインこっちの方はいける口かね?」

「はい……伯爵が裏で動いてくれていたんですよね」

「はて、何の事やら。数多くの国崩こくほう級モンスターを討伐してきた君ならこのくらい当然だろう」

 ハーゲン伯爵はとぼけているが、これはもう間違いないだろう。

「それで、俺は陛下より伯爵の補佐を任せられた訳ですが、これから何をすればいいんでしょう?」

「今まで通り冒険者を続けてもらって構わないよ。まだやらなければならない事がたくさんあるんだろう?」

「はい、まだ国崩こくほう級モンスターは三体も残っています。いや、もしかするとまだ俺達が知らない国崩こくほう級モンスターが存在する可能性もあります」

「君の≪リプレイス≫があれば国崩こくほう級モンスターの一体や二体赤子の手を捻る様なものだろう?」

「一体ずつ相手にするならそうですね。先日二体同時に相手にした時は危ないところでした」

「ははは、普通は相手が一体でも絶望的なんだがな。国崩こくほう級モンスターのを行った者など有史以来チェイン君が初めてだろうな」

「いや、仲間の協力があったからです。俺一人ならば死んでましたね」

 俺の身代わりになって地獄の番犬ヘルポメラニアンの巨大な爪に引き裂かれ、血まみれで地面に横たわるプリンの姿を思い出し身震いをする。

「ギルドの仕事の方はどうかね?」

「そちらも色々ありますね。猫の手も借りたいぐらいです。それから───」

 俺はフルーレティの事を言いかけて口を噤んだ。
 これは王国ともギルドとも関係がなく完全に私事だ。
 そもそもハーゲン伯爵に話すような内容ではない。

 しかし、ハーゲン伯爵は俺の心を読んだかのように切り出す。

「フルーレティ……だね」

 ハーゲン伯爵の口から飛び出した単語に一瞬ドキリとしたが、すぐに冷静になる。
 心のどこかでハーゲン伯爵なら既に調べ上げているのではないかという思いがあったからだ。

「驚く事はない。私も独自の情報網を持っているのでね。大丈夫、事情は理解しているからその件については私の胸に納めておくよ」

 俺はハーゲン伯爵がではなかった事に安堵する。

「……ルッテは身辺を嗅ぎまわれるのを嫌がっていましたよ」

「それも知っている。しかし父親とはこういうものだ。娘がいくつになっても、どれだけ離れていても、どれだけ嫌われていても四六時中娘の事が気になってね」

「ああ……」

 とハーゲン伯爵の勢いに納得しかかったが、果たしてそうだろうかと思い直す。

 少なくともマリーニャの父親は違うな。
 完全に娘の自主性を尊重している。

 プリンとシズハナの親の事はよく知らないが、今まで全く干渉された事はない。
 故人という話も聞いた事がないので、恐らく健在だと思われる。

 うん、やはり伯爵はそろそろ子離れをした方がいいな。


 それは置いといて、折角ハーゲン伯爵が味方になってくれているんだ。
 その情報網を利用させてもらおう。

 俺はワインに口をつけつつ、ホーロウの魔道具についての話題を投げる。

「ところで伯爵、例の魔道具の解析はまるで進んでいないそうですね」

「そうなんだ。見た事もない技術が使われていてね。解析を任された技術者達も皆匙を投げているよ」

「それについてなんですが、以前リッキー辺境伯の依頼を受けた事があるんですが、あの人って古代の遺物、おたからを収集しているそうですね」

「ああ、そういう噂だね。……成程、彼のコレクションの中に何かヒントになる様なものがあるかもしれないと言いたいんだね。分かった、私の方から彼に当たってみよう」

「助かります」

 【殺人猫マーダーマンチカン】の調査力を疑っている訳ではないが、人手は多いに越した事はない。
 ハーゲン伯爵に更に借りを作ってしまう事になったが、今更一つや二つ増えたところで何も変わらないだろう。
 毒を食らわば皿までだ。

「俺は直接の面識はないんですが、伯爵はリッキー辺境伯の事は存じでいますか?」

「王宮のパーティで何度か顔を合わせた事があるな。服装も言動も浮世離れをしているというか……何というか、変わった人だったな」

 俺は「お前が言うな」と心の中で呟く。

「しかし悪い噂は聞いた事がないな。領内の統治も、隣国との国境の防衛も立派にこなしている」

「そうですか」

 ホーロウ一派の様な極悪人ではないのかもしれない。
 しかし俺はヨルムンガンドの記憶の中にあったリッキーという名前の事が頭から離れなかった。

 会話が途切れたところで、ハーゲン伯爵が身を乗り出して言う。

「さて、そろそろ本題に入ろうか。チェイン君、ルッテとはどこまで進んだかね。私が手伝える事があれば何でも……」

「ないです」
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