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第50話 とろけるチェイン

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 俺の目が見えなくなっている間に、プリンは日頃からマリーニャが≪圧縮魔法ジップル≫をかけて持ち運んでいた予備の装備に着替えていた。

 プリンが壊れた三尖両刃刀トライサーフの代わりに手に持っているのは、棒の先に瓜の様な形の鉄球が付いた鉄瓜鎚アイゼンメローネと呼ばれる鈍器だ。
 安く店売りされている武器なので攻撃力は期待できないが、どうせスライムには物理攻撃は効かない。
 最低限自分の身を守る為に、素手よりはマシといったところだ。

 再戦の準備が整うと俺達は逃げたシュメルツェンを追って湿地帯の奥へ進む。
 街道の両側には沼が広がっており、見た目にはただの泥水なのか、シュメルツェンなのかの判別はできない。
 シズハナの探知スキルだけが頼りだ。
 少し歩いたところでシズハナが魔物の気配に気付き俺達を制止する。

「皆止まって。ここから10メートルから先の沼全部がシュメルツェン」

「これ全部!?」

「うん、全部そう」

 沼は見渡す限り広がっている。
 これが全部シュメルツェンだとすると、町のひとつやふたつ平気で飲み込まれる程の数だ。

「これを全部≪爆砕魔法ブラスト≫で吹き飛ばすのはちょっと骨が折れそうね」

「≪炎魔法フォイエル≫で焼き尽くしたらどうだ? スライムって燃えるんだろ?」

「これだけ集まってると危険よ。どこまでも炎が燃え広がってしまいます」

「ああ、それもそうか」

 事実、この湿地帯を抜けた先には森がある。炎が飛び移れば大規模な森林火災が起きるのは想像に難くない。

「まさに火を見るよりも明らかってか……」

「……」

 プリンの呟きは聞こえなかった事にした。


 まとめて焼き払う事ができないとなると、やはり地道に端っこから≪爆砕魔法ブラスト≫で吹き飛ばしていくしかない。

 マリーニャが先陣を切ってシュメルツェンに近付き、≪ブラスト≫を連発する。
 俺とルッテは氷結の杖フローズンロッドで左右から覆い被さってくるシュメルツェンを凍らせてマリーニャを援護する。
 スライム系の魔物は凍らせても解凍されれば復活するが、時間稼ぎとしては充分だ。

 プリンとシズハナは───特にする事がないので少し離れたところで見学をしている。
 偶に襲い掛かってくるシュメルツェンから身をかわしているだけだ。

 暫くシュメルツェンを引き飛ばし続けていると、やがて前方に複数の巨大な影が現れた。

 ドラゴン、オーガ、サイクロプス───どれもクエストの討伐対象の魔物の姿をしている。

「やはり全てシュメルツェンの擬態でしたか」

 シュメルツェンは捕食したものの姿をコピーする能力がある。
 この湿地帯のシュメルツェンは、付近の魔物を襲い続ける内に際限なく成長していき、ドラゴンすらも喰い殺す程の強さを持つに至ったのであろう。

 もしこのまま成長を続けたとしたら、いずれは国崩こくほう級モンスターレベルにまで成長を続けていたかもしれない。
 そういう意味では、早い内に俺達【フルーレティ】が討伐に来る事ができて良かった。

「レベルにすると70くらい」

 とは、この湿地帯のシュメルツェンに対するシズハナの評価だ。

「でも合体してくれたのはこちらには好都合です。まとめて≪ブラスト≫で吹き飛ばします!」

 マリーニャはまずオーガの股下に潜り込むと、剣を頭上に掲げて魔法を詠唱する。

「≪ブラスト≫!」

 耳をつんざく様な爆発音とともに、オーガは股から裂けるように爆散した。

「まずは一匹。次はあのサイクロプスを!」

 マリーニャはひとりで次々とシュメルツェンを仕留めていく。

「もう全部マリーニャひとりでいいんじゃないかな」

 俺達がそう思い始めたその時だった。

「次はそこのドラゴンです。≪ブラスト≫! ……あっ」

 魔法の詠唱が終わっても魔法が発動しない。

 ───魔力切れだ。

 さすがにひとりでこれだけの数のシュメルツェンを相手にするのは無理があったのだ。

 空を舞うドラゴンはマリーニャの頭上で液状化し、マリーニャに降り注ぐ。

「危ない!」

 俺は咄嗟に走り出し、マリーニャを突き飛ばす。

 次の瞬間、マリーニャの身代わりとなった俺の身体は、大量の消化液に飲み込まれた。

 シュメルツェンの内部では身体が自由に動かない。
 更に消化液によって全身に燃える様な痛みが襲う。
 このまま骨まで溶かされるのが早いか、溺れ死ぬのが早いかといったところだ。

「誰か、チェインを助けて!」

 マリーニャの悲痛な叫び声が響き渡る。

 既に魔力が尽きているマリーニャでは≪ブラスト≫の魔法でシュメルツェンを吹き飛ばして俺を助ける事はできない。
 いや、プリンならともかく、俺が至近距離で≪ブラスト≫の爆発に巻き込まれたらどの道助からないか。

「私が行きますわ」

 少し離れたところにいたルッテが、自身ともう一人が入れる程度の大きさの魔法障壁を張り、消化液を掻き分けながら無理やりシュメルツェンの内部への侵入を試みる。
 しかし、元は液体とはいえシュメルツェンは部分的に体を硬化する事もできる。
 ルッテは思うようにシュメルツェンの内部を進む事ができない。

 このままでは俺は助からない。

「り……≪リプレイス≫」

 俺は最後の悪あがきでシュメルツェンの内部で≪リプレイス≫の魔法を詠唱した。
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