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第31話 公爵と侯爵
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夜も更けて宴が終わると、俺達冒険者は追い出される様に王宮からの退去を命じられた。
もう俺達には用はないという事だろう。
「飯は美味かったが、あいつらの態度が気に入らねえ」
「オーリンの野郎、街で見かけたら卵投げつけてやろうぜ」
冒険者達は互いに愚痴を言い合いながら王宮を後にする。
「皆、少し話がある。少し時間を貰えないか?」
各々が仲間達の泊っている宿へ帰ろうとするのをエルテウスが引き止めた。
「お、あいつらをギャフンと言わせる算段だな。いいぜ、俺は乗った」
「俺もだ!」
「ボクも!」
王宮や貴族の連中のやり方に憤慨していた面々は、エルテウスの誘いに乗る。
当然俺とマリーニャもだ。
「ここでは人の目がある。場所を移動しよう」
俺達はエルテウスに連れられて【ブレイザー】のメンバーが泊っている宿に移動する。
プラリスは帰りたそうにしてたけど、女の子をひとりで夜道を歩かせる訳にはいかないという名目で半ば強引に連れて行く事にした。
部屋に入ると、【ブレイザー】のメンバーが俺達を待っていた。
さすがに次期勇者候補ともなると、泊っている部屋も豪華だ。
各パーティのリーダーと同伴者、総勢約20名が入ってもまだスペースに余裕がある。
「それでエルテウス殿、お主は何を企んでいるのであるか?」
【超僧戦隊】のリーダー、ヨゼフが質問を投げかける。
「ああ、お前達トロイの木馬って知ってるか?」
トロイの木馬は古くから読まれてきた戦記小説に登場する巨大なオブジェだ。
敵軍が残した巨大な木馬を戦利品として市内に持ち帰った結果、木馬の中に隠れていた兵士をまんまと市内に侵入させてしまったというシーンは有名だ。
あまりにも真に迫る描写は、この物語が創作ではなく現実の出来事を描いたものであると主張する歴史研究者も現れた程だ。
「勿論知っているが、それが何か?」
「OK、面白いものを見せてやる。≪フィー≫!」
エルテウスが聞きなれない魔法を詠唱すると、目に前には羽の生えた数人の小人が姿を現した。
それらはまるで人形の様に可愛らしい外見をしている。
「なんだそいつらは?召喚魔法じゃあなさそうだが」
「これは妖精と言ってな、万物に宿っている精霊を魔法で具現化したものだ。俺の命令通り忠実に働いてくれる」
見た事もない魔法を目の当たりにして周囲の者達がざわつく。
「私もそんな魔法は聞いた事もありません」
【魔導遊撃軍】のリーダーであるサンサーラですら知らないという。
「そりゃそうだろう。俺のオリジナル魔法だ」
優れた魔法の才能がある者は自力で新たな魔法を編み出す事があるという。
次期勇者候補といわれるだけあって、エルテウスはまさしく天才だった。
俺も思わずその天性の才能に嫉妬する。
エルテウスは俺達を落ち着かせて説明を続ける。
「こいつらを死霊使いの鴉の頭部に潜り込ませていたんだ。さっきの宴の席で全員回収してきた。色々と面白い事が分かったぞ」
エルテウスは大胆にも王国の内情を探る為にスパイを送り込んでいた。
もしこれが王国の知るところとなったら反逆罪に問われる事は必至だ。
エルテウスは地図を開き、ペンで線とバツ印を描く。
「まず、これがオーリンが死霊使いの鴉の頭部を運んだルートだ」
オーリンは不帰の山を発った後、一直線に王宮へ向かわず、王都の北東にあるニャラルト公爵の屋敷に寄っている。
しかし、不帰の山から王都ギルティアまでは距離がある。
途中で休息をとる為にニャラルト公爵の屋敷に立ち寄るのはおかしな話ではない。
「ああ、ここまでは不審な点はない。問題はここからだ」
エルテウスはさらにペンを握り、二本の線を引く。
片方の線は王都ギルティアへ。もう片方は王都南のギルティン侯爵領へと続いている。
「ニャラルト公爵の屋敷から王都へ続いている線は、オーリンが通った道だ。ホーロウ侯爵領へ続いている線は、死霊使いの鴉の頭部が運ばれたルートだ」
そしてホーロウ侯爵領で線は途切れている。
「そう、死霊使いの鴉の頭部は王都まで運ばれていない。そして死霊使いの鴉の頭部をホーロウ侯爵へ届けたのはニャラルト公爵の手の者だ。しかも、この輸送は極秘裏に行われている。民衆は死霊使いの鴉の頭部はオーリンによって王都に運ばれたと思っているだろうな」
「それは俺達も同じだ。エルテウス、これはつまりどういう事だ」
「余程表沙汰にしたくない何かがあるからに決まっているだろう。それが何かまではまだ分からないが」
「ニャラルト公爵……」
それまでエルテウスの話に黙って耳を傾けていたプラリスが口を挟む。
「私、一度だけお会いした事があります」
もう俺達には用はないという事だろう。
「飯は美味かったが、あいつらの態度が気に入らねえ」
「オーリンの野郎、街で見かけたら卵投げつけてやろうぜ」
冒険者達は互いに愚痴を言い合いながら王宮を後にする。
「皆、少し話がある。少し時間を貰えないか?」
各々が仲間達の泊っている宿へ帰ろうとするのをエルテウスが引き止めた。
「お、あいつらをギャフンと言わせる算段だな。いいぜ、俺は乗った」
「俺もだ!」
「ボクも!」
王宮や貴族の連中のやり方に憤慨していた面々は、エルテウスの誘いに乗る。
当然俺とマリーニャもだ。
「ここでは人の目がある。場所を移動しよう」
俺達はエルテウスに連れられて【ブレイザー】のメンバーが泊っている宿に移動する。
プラリスは帰りたそうにしてたけど、女の子をひとりで夜道を歩かせる訳にはいかないという名目で半ば強引に連れて行く事にした。
部屋に入ると、【ブレイザー】のメンバーが俺達を待っていた。
さすがに次期勇者候補ともなると、泊っている部屋も豪華だ。
各パーティのリーダーと同伴者、総勢約20名が入ってもまだスペースに余裕がある。
「それでエルテウス殿、お主は何を企んでいるのであるか?」
【超僧戦隊】のリーダー、ヨゼフが質問を投げかける。
「ああ、お前達トロイの木馬って知ってるか?」
トロイの木馬は古くから読まれてきた戦記小説に登場する巨大なオブジェだ。
敵軍が残した巨大な木馬を戦利品として市内に持ち帰った結果、木馬の中に隠れていた兵士をまんまと市内に侵入させてしまったというシーンは有名だ。
あまりにも真に迫る描写は、この物語が創作ではなく現実の出来事を描いたものであると主張する歴史研究者も現れた程だ。
「勿論知っているが、それが何か?」
「OK、面白いものを見せてやる。≪フィー≫!」
エルテウスが聞きなれない魔法を詠唱すると、目に前には羽の生えた数人の小人が姿を現した。
それらはまるで人形の様に可愛らしい外見をしている。
「なんだそいつらは?召喚魔法じゃあなさそうだが」
「これは妖精と言ってな、万物に宿っている精霊を魔法で具現化したものだ。俺の命令通り忠実に働いてくれる」
見た事もない魔法を目の当たりにして周囲の者達がざわつく。
「私もそんな魔法は聞いた事もありません」
【魔導遊撃軍】のリーダーであるサンサーラですら知らないという。
「そりゃそうだろう。俺のオリジナル魔法だ」
優れた魔法の才能がある者は自力で新たな魔法を編み出す事があるという。
次期勇者候補といわれるだけあって、エルテウスはまさしく天才だった。
俺も思わずその天性の才能に嫉妬する。
エルテウスは俺達を落ち着かせて説明を続ける。
「こいつらを死霊使いの鴉の頭部に潜り込ませていたんだ。さっきの宴の席で全員回収してきた。色々と面白い事が分かったぞ」
エルテウスは大胆にも王国の内情を探る為にスパイを送り込んでいた。
もしこれが王国の知るところとなったら反逆罪に問われる事は必至だ。
エルテウスは地図を開き、ペンで線とバツ印を描く。
「まず、これがオーリンが死霊使いの鴉の頭部を運んだルートだ」
オーリンは不帰の山を発った後、一直線に王宮へ向かわず、王都の北東にあるニャラルト公爵の屋敷に寄っている。
しかし、不帰の山から王都ギルティアまでは距離がある。
途中で休息をとる為にニャラルト公爵の屋敷に立ち寄るのはおかしな話ではない。
「ああ、ここまでは不審な点はない。問題はここからだ」
エルテウスはさらにペンを握り、二本の線を引く。
片方の線は王都ギルティアへ。もう片方は王都南のギルティン侯爵領へと続いている。
「ニャラルト公爵の屋敷から王都へ続いている線は、オーリンが通った道だ。ホーロウ侯爵領へ続いている線は、死霊使いの鴉の頭部が運ばれたルートだ」
そしてホーロウ侯爵領で線は途切れている。
「そう、死霊使いの鴉の頭部は王都まで運ばれていない。そして死霊使いの鴉の頭部をホーロウ侯爵へ届けたのはニャラルト公爵の手の者だ。しかも、この輸送は極秘裏に行われている。民衆は死霊使いの鴉の頭部はオーリンによって王都に運ばれたと思っているだろうな」
「それは俺達も同じだ。エルテウス、これはつまりどういう事だ」
「余程表沙汰にしたくない何かがあるからに決まっているだろう。それが何かまではまだ分からないが」
「ニャラルト公爵……」
それまでエルテウスの話に黙って耳を傾けていたプラリスが口を挟む。
「私、一度だけお会いした事があります」
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