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第22話 山頂の陣
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「えっ、山頂に陣を設ける!?」
オーリン男爵の作戦を聞き、俺達だけでなく他の冒険者パーティも同様に驚きの声を上げる。
その反応にオーリン男爵は不満そうに眉間に皺を寄せる。
「黙らっしゃい。君達は戦術というものを何も分かっておらん。いいか、兵法には高きより低きを攻めればその勢い破竹の如しとある。つまりあの頂上を押さえてしまえば実質我々の勝利が確定するという事だ」
オーリン男爵はドヤ顔で作戦の意図を解説をするが、正直無茶苦茶な理論だ。
しかし相手は王国から正式に指揮官に任命された男だ。
逆らえば後々罪に問われる事は間違いない。
冒険者達はもはや死霊使いの鴉討伐云々よりも、如何にこの馬鹿男の指揮の下で生き延びて故郷に帰るかに考えをシフトする。
「馬鹿と煙は何とやらですわ」
俺はルッテが吐き捨てるのをすかさず宥める。
オーリン男爵に聞こえたらまた面倒な事になる。
幸いオーリン男爵の耳には入らなかったようで、作戦の実行について話を続ける。
「そういう訳で、早速だが山頂までのルートを確保したい。誰か先行して様子を見てきてくれたまえ」
「そう言う事ならボク達の得意分野だね」
名乗りを上げたのは【殺人猫】のリーダー、マルコシアだ。
確かに人間よりも身軽な猫獣人の彼女達なら斥候はお手の物だ。
「いえ、その任務は私達【フルーレティ】に譲って頂けませんこと?」
次に名乗りを上げたのはルッテだった。
「うちのシズハナの探知能力なら、この先の様子を簡単に調べられますわよ」
「フン、好きにするといいさ。ならばこの斥候の任務は【殺人猫】と【フルーレティ】に任せる。任務を全うせずに逃げ帰ってくるんじゃないぞ」
「言われるまでもありませんわ」
こうして、俺達と【殺人猫】が共同で山頂へのルートを調べる事になった。
「ごめんなさいね。皆さんの意見も聞かずに勝手に志願してしまいましたわ」
「構いませんよ。私も男爵の顔を見ていたくないので」
マリーニャの言葉はルッテへのフォローでもあり、本音でもある。
俺もあの場に留まっておっさんの顔色を伺うのは嫌だ。
「あはは、考える事は一緒だね。ボクもああいう男は嫌いさ」
共通の敵のおかげで、マルコ達とも意気投合する事ができた。
正式な【フルーレティ】のメンバーではないという理由でプラリスは置いてきたが、後で文句を言われないかが心配だ。
俺達は雑談をしながら山頂へ向けて進む。
幸いゾンビ達とは遭遇する事もなく、山の中腹まで進んだ。
本当に何もない山だ。上に登るにつれて枯れ果てた木や草も少なくなっていき、やがて見える景色は岩だらけの山肌のみになる。
すぐ傍の崖から下を覗くと遥か下は川が流れているのが見える。
この付近で唯一の水源だ。
もし本当に山頂に陣を設けたら、水の補給はどうするつもりなのだろうか。
そんな事を考えながらさらに先へと進むと、シズハナ達が異様な気配を感じて立ち止まる。
「周囲に魔物の気配……数10、20……50!」
気が付くと僅か数メートル先に大量のゾンビ達が忽然と現れ、俺達を包囲する。
「馬鹿な、ついさっきまで何も気配を感じなかったのに」
ゴゴゴゴ……
「この音……地面の下からだ!」
直前まで気配を感じられなかったはずだ。
ゾンビ達は地面の底から次々と這い出てくる。
「へっ、ゾンビが何匹出てこようがボク達の敵じゃないね。お前達行くよ!」
「了解だニャ!」
マルコシアの号令で【殺人猫】のメンバーが四方へ散り、手にした短刀でゾンビ達を切り裂いていく。
ゾンビは首を刎ねた程度では活動を止めないが、何度も斬り裂いて欠片がサイコロの様なサイズになってしまえば完全に無力化できる。
だがそれはとても強引な対処方法だ。
一般的なゾンビへの対応はやはり炎魔法で焼き尽くすか、浄化魔法で消し去ってしまう事だ。
「漆黒の魔法剣、試させて頂きます、≪フォイエル≫!」
マリーニャは魔法の炎を漆黒の剣に纏わせて一閃すると、周囲のゾンビ達の身体は真っ二つに割けながら炎上し、やがて灰になった。
「穢れし者達よ退け……≪パージュ≫!」
ルッテが浄化の呪文を詠唱すると、彼女の周囲5メートル程に光のドームが現れる。
それに触れたゾンビ達は光に包まれながら消滅していく。
「このっ、このっ!」
プリンは鈎鎌鎗を振りまわしてゾンビを微塵切りにするが、残念ながらこの武器はゾンビには相性が悪かった様だ。
「斬れるのに!スパスパ斬れるのにこいつらまだ動いてやがる!」
そしてレベル1の俺は例によってゾンビから逃げ回って……いない。
深淵の蠕虫の外皮が編み込まれた俺の漆黒のローブはゾンビの攻撃を一切受け付けず、さらに氷結の杖で凍らせれば倒せないまでもゾンビを無力化できる。
このまま優勢に終わるかと思ったが、シズハナはゾンビとは異なるさらに巨大な力を持つ者の力を感じ取り、叫んだ。
「上空から強大な力を持った何かが来る!」
空を見上げると、天を覆う大きさの怪鳥が俺達を目掛けて急降下してくる。
「こいつが死霊使いの鴉か!?」
これはチャンスだ。
俺は怪鳥を目掛けて≪リプレイス≫の呪文の詠唱を始める。
「ダメッ!」
しかし、俺の詠唱は飛び込んできたシズハナに妨害された。
「何をするんだシズハナ」
「動かないで!」
シズハナは小さな身体で俺を担ぎあげその場から退避する。
次の瞬間、さっきまで俺がいた場所に怪鳥の巨大な身体が激突し、地響きとともに地面にひびが入る。
「え、これってやば……うわっ」
怪鳥の落下の衝撃に耐えられなかった山肌は音を立てて砕け、俺とシズハナを巻き込んで崖下へと滑り落ちていく。
「シズハナ!チェイン!」
マリーニャは懸命に手を伸ばすが届かず、俺とシズハナは崖下へと落ちて行った。
オーリン男爵の作戦を聞き、俺達だけでなく他の冒険者パーティも同様に驚きの声を上げる。
その反応にオーリン男爵は不満そうに眉間に皺を寄せる。
「黙らっしゃい。君達は戦術というものを何も分かっておらん。いいか、兵法には高きより低きを攻めればその勢い破竹の如しとある。つまりあの頂上を押さえてしまえば実質我々の勝利が確定するという事だ」
オーリン男爵はドヤ顔で作戦の意図を解説をするが、正直無茶苦茶な理論だ。
しかし相手は王国から正式に指揮官に任命された男だ。
逆らえば後々罪に問われる事は間違いない。
冒険者達はもはや死霊使いの鴉討伐云々よりも、如何にこの馬鹿男の指揮の下で生き延びて故郷に帰るかに考えをシフトする。
「馬鹿と煙は何とやらですわ」
俺はルッテが吐き捨てるのをすかさず宥める。
オーリン男爵に聞こえたらまた面倒な事になる。
幸いオーリン男爵の耳には入らなかったようで、作戦の実行について話を続ける。
「そういう訳で、早速だが山頂までのルートを確保したい。誰か先行して様子を見てきてくれたまえ」
「そう言う事ならボク達の得意分野だね」
名乗りを上げたのは【殺人猫】のリーダー、マルコシアだ。
確かに人間よりも身軽な猫獣人の彼女達なら斥候はお手の物だ。
「いえ、その任務は私達【フルーレティ】に譲って頂けませんこと?」
次に名乗りを上げたのはルッテだった。
「うちのシズハナの探知能力なら、この先の様子を簡単に調べられますわよ」
「フン、好きにするといいさ。ならばこの斥候の任務は【殺人猫】と【フルーレティ】に任せる。任務を全うせずに逃げ帰ってくるんじゃないぞ」
「言われるまでもありませんわ」
こうして、俺達と【殺人猫】が共同で山頂へのルートを調べる事になった。
「ごめんなさいね。皆さんの意見も聞かずに勝手に志願してしまいましたわ」
「構いませんよ。私も男爵の顔を見ていたくないので」
マリーニャの言葉はルッテへのフォローでもあり、本音でもある。
俺もあの場に留まっておっさんの顔色を伺うのは嫌だ。
「あはは、考える事は一緒だね。ボクもああいう男は嫌いさ」
共通の敵のおかげで、マルコ達とも意気投合する事ができた。
正式な【フルーレティ】のメンバーではないという理由でプラリスは置いてきたが、後で文句を言われないかが心配だ。
俺達は雑談をしながら山頂へ向けて進む。
幸いゾンビ達とは遭遇する事もなく、山の中腹まで進んだ。
本当に何もない山だ。上に登るにつれて枯れ果てた木や草も少なくなっていき、やがて見える景色は岩だらけの山肌のみになる。
すぐ傍の崖から下を覗くと遥か下は川が流れているのが見える。
この付近で唯一の水源だ。
もし本当に山頂に陣を設けたら、水の補給はどうするつもりなのだろうか。
そんな事を考えながらさらに先へと進むと、シズハナ達が異様な気配を感じて立ち止まる。
「周囲に魔物の気配……数10、20……50!」
気が付くと僅か数メートル先に大量のゾンビ達が忽然と現れ、俺達を包囲する。
「馬鹿な、ついさっきまで何も気配を感じなかったのに」
ゴゴゴゴ……
「この音……地面の下からだ!」
直前まで気配を感じられなかったはずだ。
ゾンビ達は地面の底から次々と這い出てくる。
「へっ、ゾンビが何匹出てこようがボク達の敵じゃないね。お前達行くよ!」
「了解だニャ!」
マルコシアの号令で【殺人猫】のメンバーが四方へ散り、手にした短刀でゾンビ達を切り裂いていく。
ゾンビは首を刎ねた程度では活動を止めないが、何度も斬り裂いて欠片がサイコロの様なサイズになってしまえば完全に無力化できる。
だがそれはとても強引な対処方法だ。
一般的なゾンビへの対応はやはり炎魔法で焼き尽くすか、浄化魔法で消し去ってしまう事だ。
「漆黒の魔法剣、試させて頂きます、≪フォイエル≫!」
マリーニャは魔法の炎を漆黒の剣に纏わせて一閃すると、周囲のゾンビ達の身体は真っ二つに割けながら炎上し、やがて灰になった。
「穢れし者達よ退け……≪パージュ≫!」
ルッテが浄化の呪文を詠唱すると、彼女の周囲5メートル程に光のドームが現れる。
それに触れたゾンビ達は光に包まれながら消滅していく。
「このっ、このっ!」
プリンは鈎鎌鎗を振りまわしてゾンビを微塵切りにするが、残念ながらこの武器はゾンビには相性が悪かった様だ。
「斬れるのに!スパスパ斬れるのにこいつらまだ動いてやがる!」
そしてレベル1の俺は例によってゾンビから逃げ回って……いない。
深淵の蠕虫の外皮が編み込まれた俺の漆黒のローブはゾンビの攻撃を一切受け付けず、さらに氷結の杖で凍らせれば倒せないまでもゾンビを無力化できる。
このまま優勢に終わるかと思ったが、シズハナはゾンビとは異なるさらに巨大な力を持つ者の力を感じ取り、叫んだ。
「上空から強大な力を持った何かが来る!」
空を見上げると、天を覆う大きさの怪鳥が俺達を目掛けて急降下してくる。
「こいつが死霊使いの鴉か!?」
これはチャンスだ。
俺は怪鳥を目掛けて≪リプレイス≫の呪文の詠唱を始める。
「ダメッ!」
しかし、俺の詠唱は飛び込んできたシズハナに妨害された。
「何をするんだシズハナ」
「動かないで!」
シズハナは小さな身体で俺を担ぎあげその場から退避する。
次の瞬間、さっきまで俺がいた場所に怪鳥の巨大な身体が激突し、地響きとともに地面にひびが入る。
「え、これってやば……うわっ」
怪鳥の落下の衝撃に耐えられなかった山肌は音を立てて砕け、俺とシズハナを巻き込んで崖下へと滑り落ちていく。
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