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第34話 王国との決別4

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「……やはりルシフェルトという男に直接会ってみる必要があるな」

 ノースバウムの村でハッサムからルシフェルトについての話を聞いたヘンシェルには迷いが生まれていた。
 破壊の権化としてアガントス王国から追放されたはずの男が、この魔界の地で村人たちの為に悪徳領主を成敗して村の発展にも尽力してくれたという。

「ルシフェルトのやっている事は善良な領主のそれではないか。王国で聞いていた話とはずいぶん違うな」

 シヴァン神は天贈の儀でその人物に最もふさわしいスキルを授けてくれるという。
 ルシフェルトが天贈の儀で授けられたスキルは【破壊の後の創造】だ。
 ルシフェルトがそのような禍々しいスキルを授けられたのは彼の醜悪な心の内をシヴァン神が見通した結果だと王国の民たちは口を揃えて言っていた。
 しかしそのスキルがどのような物なのかを実際に見た者は王国にはいなかったはずだ。

 ハッサムという魔族の男の話では、【破壊の後の創造】スキルとは一度破壊した物を創り直す事ができる能力だという。
 ノースバウム村の建物は元々今にも崩れ落ちそうなほどボロボロだったが、全てルシフェルトが立派な建物に創り直してくれたのだと言ってた。

 だとしたら【破壊の後の創造】スキルは世間から忌諱すされるような物でも何でもない。

 あまり考えたくはないが、王国はスキルの名前が禍々しいというただそれだけの馬鹿馬鹿しい理由でルシフェルトを国外追放したという事になる。

「でもヘンシェル、教会のフローラというシスターが未来予知を行ったところ、ルシフェルトが黒魔法で子供たちを惨殺する場面が映し出されたそうですよ」

「だがなダイムラー、ルシフェルトのスキルを考えるとそれは惨殺していたのではなく逆に【破壊の後の創造】スキルで子供たちの怪我を治療をしていた場面とも考えられる。【破壊の後の創造】スキルを発動させる条件は対象を徹底的に破壊する事だそうだからな」

「そうですね……あの魔族たちが嘘をついているようには見えませんでしたけど、もう少し慎重に探ってみる必要がありそうですね」

「よし、ルシフェルトがどんな男なのかこの目で確かめに行こう」

 ヘンシェルはノースバウムの村から更に南へと進み、ルシフェルトがいるというロリックス城へ進路を定めた。

 聳え立つ樹木が日光を遮り、昼間でも暗闇に包まれている暗黒の大森林ストライプタイガの中央に目指すべきロリックス城があった。

 ヘンシェルたちは遠目からその城を見て驚きの声を上げる。

「見ろ、あれはどう見てもアガントス王国の王城ではないか。周囲の景色と魔族の見張りの姿が見えなかったら本物と区別がつかないな」

「古の冒険譚では魔王討伐に訪れた勇者に故郷の幻を見せて油断を誘うという魔王の手口がありますが、その類でしょうか」

「私が確認しよう」

 呪術師のデマーグが水晶玉を片手に呪文を詠唱し、「ていっ!」と気合を入れると水晶玉に目の前の城が浮かび上がった

「これは幻を打ち破り真実を映し出す呪術です。見ての通りあれは幻ではない事が証明されました」

「なあヘンシェル、やはりルシフェルトの奴は王都を滅ぼして自分がアガントス王国の王にとってかわるつもりなんじゃないか。自分の居城を王城と瓜二つにする理由なんて他に考えられないだろ」

「結論を急ぐなユンカース。とにかくルシフェルトがどんな男なのかを私が直接見定めよう。ダイムラー、頼む」

「ええ、任せてヘンシェル」

 聖女ダイムラーは両手を胸の前に合わせて念じると、周囲の草木から光が集まりヘンシェルたちの身体を包み込んだ。

 精霊の力によって自然と同化し、気配を消す事ができる神聖魔法である。
 今の彼らは遠目からは景色が少し揺らいでいる程度の認識しかされなくなる。
 逆に魔族は体内から黒魔力が溢れているので、聖女であるダイムラーはそれを察知する事ができる。
 隠密行動をするにはこれ以上ない能力である。

「よし、あの城の中に侵入するぞ。全員私に続け」

 ヘンシェルが城へ向かって一歩踏み出したその時だ。

「ねえあんたたち、こんなところで何をしているのかしら?」

「何っ!? ……ぐあっ!」

 戦士ユンカースが背後から何者かに首根っこを掴まれ持ち上げられた。

「誰だ!?」

「それは私のセリフですわ。人間が私のお城の前で何をこそこそしているのかしら?」

 ユンカースの首を掴む握力が少しずつ強くなる。

「ぐあああああああ! 離せ化け物!」

 ユンカースは手足をばたつかせて抵抗するが、その握力は一向に弱まらない。

「化け物とは失礼ですわね。あんたちゃんと目玉は付いていて?」

 金色の長い髪にユニコーンのような角を持つこの魔族の少女の姿を見てヘンシェルは何者かを把握した。

「貴様、まさか魔王の姉ロリエか!?」

「あら、私を知っているだなんてひょっとして私って人間界でも有名人なのかしら?」

「ユンカースを離せ!」

 ヘンシェルは剣を抜きロリエに突き付けた。

「そんな物騒な物を突き付けないで下さいまし。すぐにお返ししますわ」

 ロリエはそう言いながらユンカースを思いっきり地面に叩きつけた。

「がはっ!」

 ユンカースの身体はその衝撃で地面にめり込んだまま動かなくなった。

「貴様、よくもユンカースを!」

「気配を消したはずなのにどうして私たちがここにいると分かったの!? いえ、それよりも私が魔族の接近に気付かないなんて……」

 聖女ダイムラーはロリエを凝視してその気配を探った。

「え……どうして……」

 ダイムラーは困惑した。
 ロリエの身体からは一切の黒魔力を感じなかったからだ。

 ロリエは溜息をつきながら答えた。

「今の私は丁度黒魔力が枯渇してるんですわ。ルシフェルトとの契約で、週に一回しか黒魔力のお食事ができないんですもの。今日がその一週間目ってワケ」

「言ってる事が良く分からないけど……気配を消したはずの私たちを見つけられたのはどういうことかしら?」

「どうもこうも、あんたたちがおかしな魔法で気配を消す前からずっと後ろで見ていましたわよ。あんたたちが気付かなかっただけですわ。馬鹿なんですの?」

「くっ……ダイムラー、デマーグ、陣形を組め! 我らが力を合わせれば魔王の姉であろうと勝てない相手ではないはずだ!」

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