ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり

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第12話 魔族の集落3

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 俺がノースバウムの村で暮らすようになって一週間が過ぎた。

 その間にエンペルさんは横じま模様の囚人服しか着る物を持っていなかった俺を見兼ねてわざわざ俺の為に服を仕立ててくれた。

「ルシフェルトさんは王国の侯爵家の方だったんですよね。人間の貴族の服を真似て仕立ててみましたが、お気に召されると良いのですが……」

 エンペルさんは謙遜をするが、彼女が仕立ててくれたその服は俺がエバートン家の屋敷にいた頃に着ていた貴族服よりも動きやすく、見た目も気品に満ちている。
 こんな素晴らしい物を頂いて不満を持つ人間はいない。
 もしが俺が【破壊の後の創造】のスキルで服を作ったとしても、何の威厳も面白みも感じないつまらない服が出来上がっただけだろう。
 生まれ持ったセンスだけはどうにもならない。
 お礼の言葉を伝えるとエンペルさんは「私は裁縫が趣味なのでお構いなく」と笑っていた。

 俺は村の中でのんびりと黒魔法の鍛錬に励むのが日課になっていた。
 うっかり黒魔法で村にある物を破壊してしまっても【破壊の後の創造】スキルであっという間に元通り……どころかグレードアップしているので、俺を咎めようという者はひとりもいなかった。
 中には予め破壊される事を前提に、家や器物の修復後のデザインを紙に書いて俺に渡してくる村人も現れる始末だ。

 レミュウちゃんに至っては俺の黒魔法と【破壊の後の創造】スキルに興味津々で、毎日のように俺の修練を見学している。
 そして事あるごとにどこかから持ってきたガラクタや、森の木の実などを俺のスキルで創り変えてみせてとせっついてくる。

 だからといって迷惑だと感じた事は一度もない。
 それは俺にとって【破壊の後の創造】スキルの効果や効力の限界を知る為の良い実験にもなった。

 破壊した物を再構築するまでの時間差も自分の意思でかなり自由に調整できる事が分かった。
 早ければ破壊した十秒後、遅ければ翌日まで再構築を持ち越す事も可能だ。
 これも練習次第でもっと広い範囲で調整できるようになるだろう。

 破壊後に創り変えられる物は元の形をベースにある程度自由にできる事も分かった。
 但し全く別の物、例えば剣を盾に創り変えるといった事はできないようだ。

 この辺りの調整はまだまだ研究の余地がありそうだ。
 幸い時間は有り余っている。
 とことん追求してやろう。



 しかしそんな穏やかで充実した日々は長くは続かなかった。

 今日は朝から村人たちがそわそわしている。

 村人に話を聞くと、今日は月に一度モロクの手下たちが税を徴収しにやってくる日だそうだ。
 奴らの気分を損ねるような事があればこんな小さな村はひと捻りに潰されてしまう。
 彼らが緊張するのも無理はないだろう。

「ルシフェルトさん、これは私たち魔族の問題ですのであなたは家の中から出ないで下さい」

 ハッサムさんは俺を巻き込ませないようにそう忠告すると、村の皆と共に村の入り口を清掃してモロクの手下たちを迎える準備を始めた。

「どんな奴らなんだろう」

 俺は興味本位で家の窓から村の入り口を眺めながらモロクの手下たちが現れるのを待っていた。

 太陽が真上に昇った頃、南の方角から十名ほどの人影が近付いてくるのが見えた。
 いずれも人と獣の中間のような姿をしている所謂獣人と呼ばれる魔族だ。

 先頭を歩いているのは背中に大きな黒い翼を生やした鳥人間だ。
 その両手にはヘッド部分だけで人間の胴体程もある巨大なハンマーが一本ずつ握られている。
 どれだけの血を吸ってきたのだろうか、その先端は赤黒く変色していた。

 その後ろからは鳥人間の部下であろう全身が毛むくじゃらで犬のような顔をした獣人がついてくる。
 あれはコボルトと呼ばれる獣人だ。

「むむ……これはどういう事だ?」

 獣人たちはまず村の外観の変化を訝しんだ。

「トリスタン様、俺たち道を間違えてはいないですよね? ここは本当にノースバウムですか?」

「ああ、そのはずだが……お前たちちょっとこいつを持ってろ」

 トリスタンと呼ばれた鳥型の獣人は二本のハンマーを部下たちに手渡した。

「はい、トリスタン様……うっ、重っ……」

 ハンマーを手渡された部下たちはその重量に身体がよろける。
 身軽になったトリスタンはその漆黒の翼をはばたかせて上空に舞い上がり村全体を見下ろした。

「ふうむ、ここは間違いなくノースバウムだ。だがあんなに立派な壁や建物は無かったはずだ。いったいどういう事だ?」

 トリスタンは小首を傾げながら地上へ降りた。
 部下からハンマーを受け取ると警戒態勢を敷くように指示を出す。

 どうやらあのハンマーは鳥人間が飛べなくなるほどの重量があるらしい。
 ハンマーという武器は重量そのものがまるまる攻撃力に変換される。
 あんなものの一撃を食らってはアガントス王国の英雄ヘンシェルでも無事では済まないだろうな。

 彼らの様子を見ていた村人たちは大慌てで村の外に出てモロクの手下たちに呼びかけた。

「ご使者様、お待ちしていました」

「ああ、お前は確かノースバウムの……何と言ったかな」

「ハッサムです」

「そうそう、そのなんとかだ。お前の名前はどうでもいいが、この村を囲んでいる壁や村の中の建物は何だ? 前回来た時はこんな物はなかったはずだが」

「は、はい。ここは魔獣の谷にも近く、しょっちゅう魔獣の被害を受けています。それを防ぐ為に村人たちが一丸となって協力して防壁を築き、魔獣に壊されないように頑丈な家屋を作ったのです」

「そうか。お前達の村の物は全てモロク様の財産でもあるからな。良い心がけだ」

「有難うございます。ささ、ご使者様村の中へどうぞ」

「うむ」

 トリスタンたちはハッサムに案内されて門を潜って村の内部に足を踏み入れる。

 俺はその様子を家の中からじっと眺めていた。
 あのトリスタンとかいう魔族、あまり頭が良くなさそうだな。
 仮にどんなに優れた建築家を集めたとしても短期間でここまで村が発展できるはずがないだろうに。
 もっと怪しめよと思うが、おかげで彼らは俺の存在に気付かないのは好都合だ。

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