上 下
11 / 54

第11話 魔族の集落2

しおりを挟む

 レミュウと入れ替わる様に今度は大人の魔族の女性が料理を手にやってきた。

「ルシフェルトさん、夫と娘がお世話になりました。ハッサムの妻のエンペルと申します」

「あ、これはご丁寧に」

「お食事をお持ちしました。お口に合えば宜しいのですが……」

 エンペルさんが俺に差し出したのは透明なお湯の中に野菜かどうかも分からない謎の草が入っている鍋と、王都では犬や豚の餌として使われていた味も名前のない穀物が盛りつけられたお皿だ。

 俺は思わず二度見をしてしまった。
 とても人間が食べるような物ではない。
 かといって俺に対する嫌がらせという訳でもなさそうだ。

「……皆さんはいつもこのようなものを食べているんですか?」

「はい、モロクのお陰でまともな食材は全て税として徴収されて残っているのはこのような物ばかり……」

 彼らにとってはこれが精いっぱいのおもてなしなのだろう。
 俺も元々は王国内の領地を与えられ、民衆を治めていた侯爵家の人間だ。
 領民にこんな暮らしを強いるだなんて領主として失格だ。
 俺は無性にモロクとかいう魔族の事が腹立たしくなったと同時に、この村の人たちの事を何とかしてあげようと思った。

「それならば俺に考えがあります」

 俺は出された料理を部屋の中に残してエンペルさんと建物の外に出た。

「あの……申し訳ありませんルシフェルトさん、やはりあのような物はお召し上がりになれませんか……」

「いや、ありがたく頂きますよ。但し少し味付けをしてからですけどね。ちょっと失礼しますよ」

 オロオロとするエンペルさんを横目に、俺は建物に向かって手を翳して魔力を解き放つ。

「崩壊魔法、ブレイクダウン!」

 次の瞬間、今まで俺が寛いでいた物置のような建物は大量の砂埃をまき散らしながら崩壊した。
 その様子を見て村中の魔族が血相を変えながら駆け寄ってきた。

「ルシフェルトさん、私どもが何かお気に障るような事をいたしましたでしょうか……」

 少し驚かせてしまったようだ。
 俺は笑顔で答えた。

「いえ、良くして頂いて感謝の言葉しかありません。まあ見ていて下さい」

 俺はつい此間まで住んでいたエバートン侯爵家の屋敷と、そこでいつも食べていた料理を強くイメージした。

 時間差で崩壊した建物の残骸が光り輝き、次の瞬間には豪邸とはいえないまでも王都の平均的な民衆が暮らしている程度にはまともな住宅に創り変えられていた。

「あれ?」

 俺がイメージしていた物と比べると明らかにランクダウンしている。
 【破壊の後の創造】スキルにも限界があるのか、となった物に合わせて振れ幅が決まるのか、まだまだ検証の余地はありそうだ。

 しかしそれでも元の建物と比べれば大幅なグレードアップをしている。

「おお、奇跡だ……」
「これがルシフェルトさんの【破壊の後の創造】のお力なのですね」

 俺の力を目の当たりにした村人たちは手を合わせながら俺の事をまるで神様のように崇める。
 俺ははにかんだ笑みを浮かべながら入口の扉を空けて中に入った。
 玄関から家の奥へ廊下が続き、その左右には新たに寝室やお風呂、トイレなどの部屋が創られている。
 廊下を進んだ先の部屋の中央にはテーブルがあり、その上には先程エンペルさんから頂いた料理が置かれていた。

 もちろんその料理も【破壊の後の創造】のスキルによって創り変えられている。
 透明な液体は高級食堂で出されるような濃厚なスープに、味のない穀物も東国より伝わる高級食材である銀シャリへと生まれ変わっていた。

 まずはスプーンで鍋の中のスープを掬い口まで運ぶ。

「……うまい!」

 味も完璧だ。

 余程お腹が空いていたのだろう、気が付いた時にはスープと銀シャリは全て俺の胃袋の中に移動していた。

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 俺は空になった鍋とお皿を家の中に新たに創られた台所で綺麗に洗い、エンペルさんに返却をした。

 そして俺がこの村でやるべき事も分かった。

「さて、お腹も膨れた事だし今からこの村の皆さんのお住まいもリフォームしちゃいましょう。あとこの村にある食料もついでにアップグレードしますので全部出して下さい」

「ええ、本当に宜しいのですか?」
「私の家も是非ともお願いします!」
「食料は全て村の中央にある食糧庫の中に保管してあります」

「そうですか。それでは食糧庫から食料を出すのも面倒なので食糧庫ごと吹き飛ばしますね」

 俺はまず村の中央にある食糧庫に向けて黒魔法を放った。
 粉々に吹き飛んだ倉庫とその中身は【破壊の後の創造】スキルによって少し時間をおいた後に再構築された。
 食糧庫は長期保存が可能な冷蔵機能を兼ね備えた王国でも最先端の魔道技術が搭載された大型の冷蔵庫に生まれ変わり、その中身は採れたばかりのような新鮮な高級食材に生まれ変わっていた。

 この後俺はここノースバウムの村を徹底的に破壊し尽くし、頑強な城壁に囲まれ立派な家屋が並ぶ、城塞都市のような村に創り変えた。

 村全体を創り変えるに当たって、俺は自分の黒魔法の威力の確認や【破壊の後の創造】のスキルの実験をさせて貰った。

 俺の黒魔法の一撃で一度に破壊できるのは住宅一つ分程度だ。
 そして村全体を破壊し尽くしたところで黒魔力が枯渇した。
 これが今の俺の限界だ。
 一晩睡眠をとれば俺の中の黒魔力は元通りに回復するだろう。

 俺は今まで黒魔法の修行をした事はないので、鍛錬を積めばまだまだ成長の余地はありそうだ。
 俺はしばらくこの村で黒魔法の修練を積む事にした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔導師の弟子

ねこうちココ
ファンタジー
かつて世界は魔法で溢れていた。 しかし現代の魔法は科学の発達によって、価値が低迷の一途を辿っていた。 高校生の進堂真帆は幼い頃に母親を亡くし、父子家庭で育った少年。 夏休み。真帆は父親の海外赴任のために、父親の知人のもとへ預けられることに。 その人物は〈魔導師〉を名のる青年だった。 ひょんなことから魔導師の弟子となり、共に生活をすることとなった真帆。 魔法の世界に足を踏み入れ、少年は成長してゆく。 これは少年が生きてゆく強さを知る物語。

魔王の娘は勇者になりたい。

井守まひろ
ファンタジー
(2024.7.30 連載再開) 魔族が暮らす雪国、アルブ王国を統べる魔王のローグ・ロス・バロルが、何者かの手によって暗殺された…… その娘であるベリィは、他国からの侵略と誘拐事件に巻き込まれ、アルブ王国を追放されてしまう。 売られた先の奴隷市場を抜け出し、当てもなく彷徨っていた彼女は、何かに導かれるように魔王ローグが暗殺された地へと辿り着く。 彼女はそこにあったローグの形見である覇黒剣ロードカリバー、そして魔王のマントを羽織り、父親を暗殺した犯人に復讐することを決意した。 そんな矢先、たどり着いた村でベリィが出会ったのは、明るくて正義感の強い盾使いの冒険者、シャーロットだった。 シャーロットと共にその村で起きる事件に巻き込まれたベリィは、彼女に感化されて幼い頃の夢であった“勇者”への憧れを思い出す。 胸の内に復讐心を秘めながらも、再び希望を目指した魔王の娘の快進撃が始まる———

【完結】見た目がゴリラの美人令嬢は、女嫌い聖騎士団長と契約結婚できたので温かい家庭を築きます

三矢さくら
恋愛
【完結しました】鏡に映る、自分の目で見る姿は超絶美人のアリエラ・グリュンバウワーは侯爵令嬢。 だけど、他人の目にはなぜか「ゴリラ」に映るらしい。 原因は不明で、誰からも《本当の姿》は見てもらえない。外見に難がある子供として、優しい両親の配慮から領地に隔離されて育った。 煌びやかな王都や外の世界に憧れつつも、環境を受け入れていたアリエラ。 そんなアリエラに突然、縁談が舞い込む。 女嫌いで有名な聖騎士団長マルティン・ヴァイスに嫁を取らせたい国王が、アリエラの噂を聞き付けたのだ。 内密に対面したところ、マルティンはアリエラの《本当の姿》を見抜いて...。 《自分で見る自分と、他人の目に映る自分が違う侯爵令嬢が《本当の姿》を見てくれる聖騎士団長と巡り会い、やがて心を通わせあい、結ばれる、笑いあり涙ありバトルありのちょっと不思議な恋愛ファンタジー作品》 【物語構成】 *1・2話:プロローグ *2~19話:契約結婚編 *20~25話:新婚旅行編 *26~37話:魔王討伐編 *最終話:エピローグ

月と魔女と異世界と

カラスウリ
ファンタジー
「きっと、出会ってはいけない魔女だった。」 知らない世界へ呼び出された、高校2年生になったばかりの少女"烏丸 月音"。 彼女が戸惑いながらも出会ったのは、異世界召喚を行った張本人の天才魔女──ミェルこと、ミェール・ウィッチ・ラヴェリエスタ。 お互いの理解を深めつつ、少女の元いた世界を目指すハイファンタジー。

私の夫と義妹が不倫していた。義弟と四人で話し合った結果…。

ほったげな
恋愛
私の夫はイケメンで侯爵である。そんな夫が自身の弟の妻と不倫していた。四人で話し合ったところ…。

【完結】婚約破棄にて奴隷生活から解放されたので、もう貴方の面倒は見ませんよ?

かのん
恋愛
 ℌot ランキング乗ることができました! ありがとうございます!  婚約相手から奴隷のような扱いを受けていた伯爵令嬢のミリー。第二王子の婚約破棄の流れで、大嫌いな婚約者のエレンから婚約破棄を言い渡される。  婚約者という奴隷生活からの解放に、ミリーは歓喜した。その上、憧れの存在であるトーマス公爵に助けられて~。  婚約破棄によって奴隷生活から解放されたミリーはもう、元婚約者の面倒はみません!  4月1日より毎日更新していきます。およそ、十何話で完結予定。内容はないので、それでも良い方は読んでいただけたら嬉しいです。   作者 かのん

結婚六カ年計画

魂祭 朱夏
恋愛
2017年4月。10歳で今年から小学5年生になる孤児院出身の華燭梨杏(かしょくりあん)が、義父である左右(さすけ)※34歳と、16歳になったら結婚する為の計画を開始するお話。 一話一話は短めです。

最強の私と最弱のあなた。

束原ミヤコ
恋愛
シャーロット・ロストワンは美しいけれど傲慢で恐ろしいと評判の公爵令嬢だった。 十六歳の誕生日、シャーロットは婚約者であるセルジュ・ローゼン王太子殿下から、性格が悪いことを理由に婚約破棄を言い渡される。 「私の価値が分からない男なんてこちらから願い下げ」だとセルジュに言い放ち、王宮から公爵家に戻るシャーロット。 その途中で馬車が悪漢たちに襲われて、シャーロットは侍従たちを守り、刃を受けて死んでしまった。 死んでしまったシャーロットに、天使は言った。 「君は傲慢だが、最後にひとつ良いことをした。だから一度だけチャンスをあげよう。君の助けを求めている者がいる」 そうしてシャーロットは、今まで自分がいた世界とは違う全く別の世界の、『女学生、白沢果林』として生きることになった。 それは仕方ないとして、シャーロットにはどうしても許せない問題があった。 白沢果林とはちょっぴりふとましい少女なのである。 シャーロットは決意する。まずは、痩せるしかないと。

処理中です...