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第16話 復興
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王国では聖女である私は有名人だ。
聖女の衣装で町を歩くと人が集まってきて面倒なので、正体を隠すために一般的な町民の姿に変装する。
「リーデルさん、セレーネさん、町では私の事は聖女と呼ばずに聖奈って呼んでくださいね」
「はい、セーナ様」
転移の魔方陣の上に乗ると一瞬で港町エリコに到着だ。
リーデルとセレーネの案内で、私たちは漁港のすぐ近くにある食堂へやってきた。
魔王の討伐により、王国からは使い切れない程の褒美をもらっているのでお金の心配はない。
美食のエデンと称されるこの港の海産物を思う存分堪能させてもらおう。
「大将、やってる?」
「やあ、リーデルさんにセレーネさんいらっしゃい。お連れさんは初めてだね」
「いつもの海鮮丼を三人前で」
「あー、悪い。今ライライベイスが切れててね。テレテレモフッシュの刺身ならすぐに出せるけど」
「そりゃないよ大将。セーナさんにここの名物の海鮮丼を食べてもらいたかったのに」
所々聞き覚えのない食材の名前が出てくるので詳しく聞いてみると、ライライベイスとは所謂お米のような穀物で、テレテレモフッシュは海で獲れるスズキに似た魚らしい。
「先の魔王軍の侵略で、ライライベイスの産地や、そこへ続く街道が被害を受けてね。この町までライライベイスが届かないんだ」
「そうなんですか。セーナさん、どうします?」
「そうですね……とりあえず出直しましょうか」
私達は食堂を後にして、転移の魔方陣でライライベイスの生産地として知られるノイエラグーノ村へ飛ぶ。
私は村の様子を見渡して驚いた。
「これは酷すぎる」
聞いた通り街道や村の田圃は魔王軍の手によって徹底的に荒らされていた。
これでは来年度の収穫にも影響がでるだろう。
家屋もほとんど破壊されたため、村民は掘っ立て小屋を建てて仮の住居としていた。
魔王軍の侵略時に村民は避難していたために人的被害はなかったことと、ライライベイスを貯蔵している地下倉庫が敵に発見されずに無事だったのは不幸中の幸いだ。
「転移の魔方陣でエリコまでライライベイスを運びましょうか」
「いえ、それでは根本的な解決にはなりません」
この惨状を見て見ぬ振りする程私は冷酷ではない。
観光客から聖女モードへスイッチを切り替える。
「五穀豊穣を司るのも聖女の役目。私が全部まとめて何とかしましょう。えっと、牛馬に引かせて土を耕す農具、何て言いましたっけ?あれをあるだけ集めて下さい」
「犁ですか。魔王軍に壊されなかった分がどの程度残っているか分かりませんが、村民に声をかけてきますね」
リーデルとセレーネが一軒一軒回って犁をかき集め、私はそれを横に並べて繋げると、100メートル程の幅になった。
そしてそれを引くのは牛馬ではなく、私だ。
ソニックブームが発生しないようマッハを超えない程度の速さで田圃を数回往復すると、見る見るうちに田圃は耕されていく。
村民たちはそれを信じられないような目で眺める。
「これで荒れた田圃の件は解決しました。次は街道の整備ですね。コンダラ……じゃなくて整地ローラーを集めて下さい」
「はい、セーナさん。それはこの村にはなさそうなので、転移の魔方陣で王都に戻ってかき集めてきます」
私は集まった整地ローラーを引いて街道を走ると、あっという間に荒れ果てていた街道は真っ平らになる。
「すごい、元よりも平らな道になってる」
残すは村民の住居の問題についてだ。
私は付近の山で樹木を伐採……というか素手で圧し折って村へ運び、それを鋸で均等の大きさの角材に加工する。
聖女の力があればただの鋸でも豆腐のように切れるので楽だ。
村民たちは出来上がった角材を積み上げ、次々とログハウスが完成していく。
お昼時にはすっかりノイエラグーノ村の復興は終わっていた。
「聖女様、ありがとうございます。何とお礼を言えばいいか」
例によって村民たちの感謝の言葉が繰り返される。
私はお礼代わりに三人分のライライベイスを受け取り、エリコの食堂へ戻った。
「大将、これで海鮮丼三人前を宜しく」
「ライライベイスじゃないか、どこで手に入れたんだい?」
「ノイエラグーノ村からの輸送ルートが復旧したそうで、行商人から買いました。また今まで通り届くようになりますよ」
この町では私は聖女ではなくただの観光客だ。あくまで他人から聞いた振りをする。
「おお、それは嬉しいニュースだ。じゃあすぐに作るから席で待っていてくれ」
程なくライライベイスの上に赤身魚の刺身や、イクラのような卵、ウニのような見た目の謎の食材等が盛り付けられた丼が運ばれる。
それは昔北海道に旅行をした時に食べた新鮮な海鮮料理を連想させた。
労働の後のご飯はさらに美味しい。
私たち三人は塩味の効いた海鮮のとろけるような食感を思う存分堪能した。
明日はどの町を観光しようかな。
聖女の衣装で町を歩くと人が集まってきて面倒なので、正体を隠すために一般的な町民の姿に変装する。
「リーデルさん、セレーネさん、町では私の事は聖女と呼ばずに聖奈って呼んでくださいね」
「はい、セーナ様」
転移の魔方陣の上に乗ると一瞬で港町エリコに到着だ。
リーデルとセレーネの案内で、私たちは漁港のすぐ近くにある食堂へやってきた。
魔王の討伐により、王国からは使い切れない程の褒美をもらっているのでお金の心配はない。
美食のエデンと称されるこの港の海産物を思う存分堪能させてもらおう。
「大将、やってる?」
「やあ、リーデルさんにセレーネさんいらっしゃい。お連れさんは初めてだね」
「いつもの海鮮丼を三人前で」
「あー、悪い。今ライライベイスが切れててね。テレテレモフッシュの刺身ならすぐに出せるけど」
「そりゃないよ大将。セーナさんにここの名物の海鮮丼を食べてもらいたかったのに」
所々聞き覚えのない食材の名前が出てくるので詳しく聞いてみると、ライライベイスとは所謂お米のような穀物で、テレテレモフッシュは海で獲れるスズキに似た魚らしい。
「先の魔王軍の侵略で、ライライベイスの産地や、そこへ続く街道が被害を受けてね。この町までライライベイスが届かないんだ」
「そうなんですか。セーナさん、どうします?」
「そうですね……とりあえず出直しましょうか」
私達は食堂を後にして、転移の魔方陣でライライベイスの生産地として知られるノイエラグーノ村へ飛ぶ。
私は村の様子を見渡して驚いた。
「これは酷すぎる」
聞いた通り街道や村の田圃は魔王軍の手によって徹底的に荒らされていた。
これでは来年度の収穫にも影響がでるだろう。
家屋もほとんど破壊されたため、村民は掘っ立て小屋を建てて仮の住居としていた。
魔王軍の侵略時に村民は避難していたために人的被害はなかったことと、ライライベイスを貯蔵している地下倉庫が敵に発見されずに無事だったのは不幸中の幸いだ。
「転移の魔方陣でエリコまでライライベイスを運びましょうか」
「いえ、それでは根本的な解決にはなりません」
この惨状を見て見ぬ振りする程私は冷酷ではない。
観光客から聖女モードへスイッチを切り替える。
「五穀豊穣を司るのも聖女の役目。私が全部まとめて何とかしましょう。えっと、牛馬に引かせて土を耕す農具、何て言いましたっけ?あれをあるだけ集めて下さい」
「犁ですか。魔王軍に壊されなかった分がどの程度残っているか分かりませんが、村民に声をかけてきますね」
リーデルとセレーネが一軒一軒回って犁をかき集め、私はそれを横に並べて繋げると、100メートル程の幅になった。
そしてそれを引くのは牛馬ではなく、私だ。
ソニックブームが発生しないようマッハを超えない程度の速さで田圃を数回往復すると、見る見るうちに田圃は耕されていく。
村民たちはそれを信じられないような目で眺める。
「これで荒れた田圃の件は解決しました。次は街道の整備ですね。コンダラ……じゃなくて整地ローラーを集めて下さい」
「はい、セーナさん。それはこの村にはなさそうなので、転移の魔方陣で王都に戻ってかき集めてきます」
私は集まった整地ローラーを引いて街道を走ると、あっという間に荒れ果てていた街道は真っ平らになる。
「すごい、元よりも平らな道になってる」
残すは村民の住居の問題についてだ。
私は付近の山で樹木を伐採……というか素手で圧し折って村へ運び、それを鋸で均等の大きさの角材に加工する。
聖女の力があればただの鋸でも豆腐のように切れるので楽だ。
村民たちは出来上がった角材を積み上げ、次々とログハウスが完成していく。
お昼時にはすっかりノイエラグーノ村の復興は終わっていた。
「聖女様、ありがとうございます。何とお礼を言えばいいか」
例によって村民たちの感謝の言葉が繰り返される。
私はお礼代わりに三人分のライライベイスを受け取り、エリコの食堂へ戻った。
「大将、これで海鮮丼三人前を宜しく」
「ライライベイスじゃないか、どこで手に入れたんだい?」
「ノイエラグーノ村からの輸送ルートが復旧したそうで、行商人から買いました。また今まで通り届くようになりますよ」
この町では私は聖女ではなくただの観光客だ。あくまで他人から聞いた振りをする。
「おお、それは嬉しいニュースだ。じゃあすぐに作るから席で待っていてくれ」
程なくライライベイスの上に赤身魚の刺身や、イクラのような卵、ウニのような見た目の謎の食材等が盛り付けられた丼が運ばれる。
それは昔北海道に旅行をした時に食べた新鮮な海鮮料理を連想させた。
労働の後のご飯はさらに美味しい。
私たち三人は塩味の効いた海鮮のとろけるような食感を思う存分堪能した。
明日はどの町を観光しようかな。
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