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第13話 聖女の帰還
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霧に包まれている時はよく見えなかったが、魔族の村落は人間のそれと見た目上の違いはほとんどない。
どこにでもある長閑な農村だ。
魔王の瘴気が無くなったことで正気を取り戻した魔族の村の青年達は、魔王の死によって戦争が終わることを予感し、お互いに喜びを分かち合っていた。
魔王セロキート等の一部の魔族が例外的なだけで、本来魔族とは温厚な種族なのかもしれない。
さて、私はこれからそんな村の青年達から衣服をおねだりしてくるわけだけど、どうやって彼らに接触したものか。
いきなり私が彼らの前に出て行ったらどんな反応をするだろう。
私は遥か昔から伝えられている予言の聖女だ。当然彼らも周知しているだろう。
驚いて逃げ出すだろうか。
それとも村を守ろうとして攻撃してくるだろうか。
話し合いに応じてくれたとしても、もし断られたらどうしよう。
こっちも必死だ。その時は力ずくでも……
などと物騒な思案に暮れていると、西の街道から軍馬の足音が近づいてくる。
「人間の軍隊が攻めてきたぞ!」
「どうして!?戦争は終わったんじゃないのか!?」
「早く子供たちを家の中へ!」
先程までの空気とは打って変わって、魔族たちの悲鳴と怒号が響き渡る。
「聖女様、ご無事でいらっしゃいましたか!」
聞き覚えのある声に、私は振り返る。
人間の軍を率いていたのはラヴィオール辺境伯だった。
騎士アスタリスや、魔道士のリーデルとセレーネの姿も見える。
「魔王の瘴気が消えましたので見事に魔王を倒されたのだと思いましたが、お帰りが遅かったのでこうして一軍を率いてお迎えに上がりました」
「あ、はい。まあ私が倒したというか、勝手に死んだというか……」
最悪の展開だ。
あと少しでちゃんと衣服が手に入るはずだったのに。
「ところで聖女様、そのお姿は……」
ラヴィオール辺境伯が当然の疑問を投げかけ、皆の視線が私に集まる。
終わった。
王国の歴史書には、魔王を倒し王国を救った者は羞恥心の欠片もない変態聖女だったと記されるだろう。
考えたらこの世界の人たちに私の本名を伝えた事は無かった気がする。
個人名を晒されないことだけがせめてもの救いかな。
「聖女様、今お召しになられているのは、霊魔の鎧ではありませぬか?」
「鎧?これが?水着とか下着のカテゴリーじゃなくて?」
「ううむ間違いござらん。これこそ古の魔族の名工バルバレルが作りあげたという伝説の霊魔の鎧です。羽のように軽く、絹のように柔らかく、金剛石のように丈夫と言われ、今となっては製造方法を知る者は誰もおりませぬ」
これってそんなにすごい物だったんだ。
「魔王軍の四天王筆頭であり破滅公女の異名を持つサーキュバル将軍が所持していたと聞いておりますが……。なるほど、戦利品というわけですな」
「ええ、まあ、戦利品といえば戦利品です」
「さすがは聖女様だ!」
兵士達が歓声を上げる。
よかった。どうやらこんな姿でも変態聖女だとは思われていないようだ。
やはりこの世界の人々は地球人とは大分感性が違うらしい。
私はほっと胸を撫で下ろす。
「コホン。聖女様、そろそろ日も暮れます。お身体が冷えますよ」
そう言うと騎士アスタリスが自分のマントを外し、そっと私に被せる。
彼はいつでも紳士的だ。
「あ、有難うアスタリスさん……?」
そんな騎士アスタリスはどこか恥ずかしそうに私から目を背けていた。
……。
違う、この世界の人の感性が違うんじゃない。
皆私に気を使ってるだけだこれ。
(いやああああああああああああああああああああああああ)
私は心の中で声なき悲鳴を上げた。
「ところで聖女様、ここは魔族の村ですね。皆我々に武器を向けて威嚇していますが、どうしますか」
「何もしなくていいです。このままクラウディア王国に戻ります」
もうこの村には何の用も無いからね。
「さすがは聖女様、敵国の者にも慈悲をお与えになるとは」
「さすがは聖女様だ」
「聖女様万歳!」
「聖女様!聖女様!」
うるさい。
◇◇◇◇
魔王の居城からさらに東にある、名もなき古びた砦の地下室に、三人の魔族の姿があった。
「レラージェ、全ては貴様の目論見通りに事が運んだな」
「ああ、セロキートは死に、サーキュバルもあの様子では再起不能だろう。いよいよ俺達が次代の魔王としてこの世界を手中に収める時が来た。ムールメイル、イーボス、前祝いだ、じゃんじゃん飲んでくれ」
「しかし問題はあの聖女だ。王国の連中は恐れるに足りないが、あの聖女だけは我々も打つ手がない。まさか奴が異世界に帰るのを気長に持つとでも言うのか」
「問題ない。俺はあの聖女の弱点を知っている」
「あの化け物にそんなものがあるのか?」
「あの女、俺の操るゾンビを見て明らかに動揺していた。肉体的には化け物でも、中身はただの小娘よ。そこを突けば必ず勝てる」
「そういうことか。ならば私にも考えがある。この蟲使いムールメイルの操るおぞましい蟲の群れに、あの娘がどんな悲鳴を上げるか楽しみだ」
「このイーボス様の変身能力も忘れて貰っては困る。くくく、どんな姿で出迎えてあげようか」
「それには及ばんよ。お前達には別の利用価値がある」
「なにっ!?……うぐっ、こ、これは」
「ぐぐっ、毒……か!?レラージェ、貴様最初から我らも消すつもりだったのか!」
「悪く思うなよ。俺は屍使い、信頼しているのは死体だけさ。お前たちもその仲間に加えてやるって言ってるんだよ」
「貴様よくも……覚えてやが……がはっ」
両の眼をかっと見開き、怨みの表情を残したまま二人の魔族は息絶える。
「さて聖女さんよ、近い内にリベンジマッチをさせてもらうぜ」
どこにでもある長閑な農村だ。
魔王の瘴気が無くなったことで正気を取り戻した魔族の村の青年達は、魔王の死によって戦争が終わることを予感し、お互いに喜びを分かち合っていた。
魔王セロキート等の一部の魔族が例外的なだけで、本来魔族とは温厚な種族なのかもしれない。
さて、私はこれからそんな村の青年達から衣服をおねだりしてくるわけだけど、どうやって彼らに接触したものか。
いきなり私が彼らの前に出て行ったらどんな反応をするだろう。
私は遥か昔から伝えられている予言の聖女だ。当然彼らも周知しているだろう。
驚いて逃げ出すだろうか。
それとも村を守ろうとして攻撃してくるだろうか。
話し合いに応じてくれたとしても、もし断られたらどうしよう。
こっちも必死だ。その時は力ずくでも……
などと物騒な思案に暮れていると、西の街道から軍馬の足音が近づいてくる。
「人間の軍隊が攻めてきたぞ!」
「どうして!?戦争は終わったんじゃないのか!?」
「早く子供たちを家の中へ!」
先程までの空気とは打って変わって、魔族たちの悲鳴と怒号が響き渡る。
「聖女様、ご無事でいらっしゃいましたか!」
聞き覚えのある声に、私は振り返る。
人間の軍を率いていたのはラヴィオール辺境伯だった。
騎士アスタリスや、魔道士のリーデルとセレーネの姿も見える。
「魔王の瘴気が消えましたので見事に魔王を倒されたのだと思いましたが、お帰りが遅かったのでこうして一軍を率いてお迎えに上がりました」
「あ、はい。まあ私が倒したというか、勝手に死んだというか……」
最悪の展開だ。
あと少しでちゃんと衣服が手に入るはずだったのに。
「ところで聖女様、そのお姿は……」
ラヴィオール辺境伯が当然の疑問を投げかけ、皆の視線が私に集まる。
終わった。
王国の歴史書には、魔王を倒し王国を救った者は羞恥心の欠片もない変態聖女だったと記されるだろう。
考えたらこの世界の人たちに私の本名を伝えた事は無かった気がする。
個人名を晒されないことだけがせめてもの救いかな。
「聖女様、今お召しになられているのは、霊魔の鎧ではありませぬか?」
「鎧?これが?水着とか下着のカテゴリーじゃなくて?」
「ううむ間違いござらん。これこそ古の魔族の名工バルバレルが作りあげたという伝説の霊魔の鎧です。羽のように軽く、絹のように柔らかく、金剛石のように丈夫と言われ、今となっては製造方法を知る者は誰もおりませぬ」
これってそんなにすごい物だったんだ。
「魔王軍の四天王筆頭であり破滅公女の異名を持つサーキュバル将軍が所持していたと聞いておりますが……。なるほど、戦利品というわけですな」
「ええ、まあ、戦利品といえば戦利品です」
「さすがは聖女様だ!」
兵士達が歓声を上げる。
よかった。どうやらこんな姿でも変態聖女だとは思われていないようだ。
やはりこの世界の人々は地球人とは大分感性が違うらしい。
私はほっと胸を撫で下ろす。
「コホン。聖女様、そろそろ日も暮れます。お身体が冷えますよ」
そう言うと騎士アスタリスが自分のマントを外し、そっと私に被せる。
彼はいつでも紳士的だ。
「あ、有難うアスタリスさん……?」
そんな騎士アスタリスはどこか恥ずかしそうに私から目を背けていた。
……。
違う、この世界の人の感性が違うんじゃない。
皆私に気を使ってるだけだこれ。
(いやああああああああああああああああああああああああ)
私は心の中で声なき悲鳴を上げた。
「ところで聖女様、ここは魔族の村ですね。皆我々に武器を向けて威嚇していますが、どうしますか」
「何もしなくていいです。このままクラウディア王国に戻ります」
もうこの村には何の用も無いからね。
「さすがは聖女様、敵国の者にも慈悲をお与えになるとは」
「さすがは聖女様だ」
「聖女様万歳!」
「聖女様!聖女様!」
うるさい。
◇◇◇◇
魔王の居城からさらに東にある、名もなき古びた砦の地下室に、三人の魔族の姿があった。
「レラージェ、全ては貴様の目論見通りに事が運んだな」
「ああ、セロキートは死に、サーキュバルもあの様子では再起不能だろう。いよいよ俺達が次代の魔王としてこの世界を手中に収める時が来た。ムールメイル、イーボス、前祝いだ、じゃんじゃん飲んでくれ」
「しかし問題はあの聖女だ。王国の連中は恐れるに足りないが、あの聖女だけは我々も打つ手がない。まさか奴が異世界に帰るのを気長に持つとでも言うのか」
「問題ない。俺はあの聖女の弱点を知っている」
「あの化け物にそんなものがあるのか?」
「あの女、俺の操るゾンビを見て明らかに動揺していた。肉体的には化け物でも、中身はただの小娘よ。そこを突けば必ず勝てる」
「そういうことか。ならば私にも考えがある。この蟲使いムールメイルの操るおぞましい蟲の群れに、あの娘がどんな悲鳴を上げるか楽しみだ」
「このイーボス様の変身能力も忘れて貰っては困る。くくく、どんな姿で出迎えてあげようか」
「それには及ばんよ。お前達には別の利用価値がある」
「なにっ!?……うぐっ、こ、これは」
「ぐぐっ、毒……か!?レラージェ、貴様最初から我らも消すつもりだったのか!」
「悪く思うなよ。俺は屍使い、信頼しているのは死体だけさ。お前たちもその仲間に加えてやるって言ってるんだよ」
「貴様よくも……覚えてやが……がはっ」
両の眼をかっと見開き、怨みの表情を残したまま二人の魔族は息絶える。
「さて聖女さんよ、近い内にリベンジマッチをさせてもらうぜ」
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