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第12話 聖女の衣替え

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「聖女の力がこれ程までとは思いもよらなかったぞ。こうなれば私の本当の力を見せてやる。私は普段力を抑えているのだ。それを全て開放するとどうなるか、その身を持って思い知るがいい……ウオオオアアアァァァッ」

魔王セロキートの咆哮に呼応するかのように大地が震えた。

背中に生えている十二枚の翼を大きく広げ、天を仰ぎ雄たけびを上げるその姿はまさにゲームで見た大魔王サタンを連想させる。
今にでもバックコーラス付きの壮大なオーケストラサウンドが聞こえてきそうだ。

大地の震えは時間と共に徐々に大きくなり、魔王の力が際限なく増大していくのを感じさせる。
このままではいずれ聖女の力を超えるかも。
魔王の力が完全に開放される前に攻撃をするべきなんだろうけど、この姿のせいで私はもう一歩も動けない。

「フハハハ 恐怖のあまり動けないようだな。私の力はまだまだこんなものではないぞ」

「べ、別に恐怖で動けない訳じゃないんだからね!」

既に周りの魔王軍の兵士達は立っている事もできず、揺れる地面の上下に任せるまま、強制的に飛んだり跳ねたりしている。
決して喜びを表現しているわけではない。
私は今までの人生で一度も経験したことは無かったけど、恐らくこれが震度7クラスの揺れなんだろうな。

「私の真の力の開放までもう少しだ。聖女よ、今の内に神にでも祈るんだな」

既に魔王の肉体は膨張した筋肉によって元の二倍程に膨れ上がっている。

そして大地の震えが最高潮に達した時、轟音とともに──

魔王の居城が崩落した。

「ウギャアアアアアアアアアア!!!」

憐れにもひとり崩落に巻き込まれた魔王の断末魔が辺りに響き渡る。

ただでさえ建築基準法ガン無視で強度に疑問がありまくりだったのに、さらに私の一撃で下層の大半が吹き飛んでいたその建物は、激しい揺れに耐えるだけの耐久力は残っていなかった。

魔族の国イーヴィルホード全体を覆っていた紫の霧が徐々に薄れ、頭上に青空が顔を出す。それは魔王の死を意味していた。

「……あれ?これで終わり?」

「魔王様がやられた!」

「この国はもう終わりだ!」

私の周りを囲んでいた兵士たちは我先にと逃げて行った。
しかし、ただ一人サーキュバルだけはこの場に留まる。

さすがは魔王軍の将軍だ。肝が据わっている……わけではなく、腰が抜けているだけのようだ。
丁度いい、この格好じゃ帰れない。何か着る物を持ってきてもらおう。

「サーキュバルさんでしたっけ?魔王のせいで私の一張羅がこんなになってしまいました。代わりに……」

「は、はい、衣服ですね、こんなもので宜しければどうぞ!」

そういうとサーキュバルは自分の身に付けている物を全て脱ぎ、私に放り投げる。

「いや、あなたのじゃなくていいので代わりに……」

「命だけはお助けをーーー!」

そう言うとサーキュバルはさっきまで恐怖で動かなかった足腰を最後の力を振り絞って動かし、一目散に逃げて行ってしまった。全裸で。

「ちょ、話を聞いて……あーもういなくなっちゃった」

これじゃ私は追剥ぎみたいじゃないか。

サーキュバルからいただいたそれは、服というよりはビキニに近い。
アニメや漫画でもそうだけど、どうして魔族の女性はこういう際どい格好をしたがるのだろう。
しかし今の私の格好よりはましだ。
私は仕方なくその服?を着る。
胸の部分が少々スカスカだが、それ以外の部分は私の身体にフィットして、着心地は悪くない。
それに聖女の衣よりは丈夫な生地で作られているようだ。

応急措置とはいえ、まだこんな格好ではクラウディア王国に帰れない。
どこかでちゃんとした衣服を手に入れなければ。

「あ、そういえば……」

私はここに来る途中、魔族の村落の近くを通ったことを思い出した。
そうだ、その村で魔族さんから衣服を頂戴してこよう。それで解決だ。

今から私がやろうとしていることは明らかに盗賊のそれだけど、まあこの状況なら緊急避難が適用されるよね。
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