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第9話 聖女と屍鬼
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目の前に紫の霧が嘆きの壁の如く立ちふさがる。
「うう、この中に入るのか……やっぱり聖女の息吹を借りてくればよかったかな」
まずは霧の中に手を伸ばして感触を確かめる。
熱くも寒くもない。無味無臭だ。別段身体に異常も感じない。
私の体力があり過ぎる為、相対的に影響が微量すぎて何も感じないのだろうか。
意を決して霧の中に飛び込み、恐る恐る息を吸う。
スーッ
……苦しくない、呼吸はできる。
これなら大丈夫そうだ。
霧の中は視界が悪いが全く見えない訳ではない。100メートル程先まではうっすらと見えている。
後は出来るだけ魔族とエンカウントしないように速やかに魔王の下へ辿り着き、その首級を取ってくるだけだ。
「首級を取る……私が?」
周りの勢いに乗せられてここまで来てしまったが、冷静に考えるととんでもないことだ。
魔族も見た目は人間とほとんど変わらないらしい。翼や角が生えているという違いはあるが、獣と比べれば明らかに人間に近い。言葉も通じると聞いている。
ただの女子大学生の私が、そんな相手を殺すことなんてできるだろうか?
「まずは話し合いからしてみようかな」
そうだ、言葉が通じるならば話も通じるはずだ。
それに、いざとなったら聖女の力で取り押さえればいい。殺す必要なんかない。
うん、そうしよう。
決意を新たに、霧の濃い方向へと進む。
「ア……ウ……」
「何か聞こえたかしら……うぇっ、何この匂い?」
何かが腐ったような強烈な匂いが辺りに充満する。
「アァアアァ……ウアアァアアアー」
空耳じゃない、何かがいる!?
「お、落ち着け聖奈。魔族ならまずは話し合いを。もし問答無用で襲い掛かってきたとしても、今の私なら負けない、絶対」
ボコッ
突然地面が盛り上がり、何かが這い出てくる。
「ウグォァァアアー!!」
呻き声を上げながら出てきたそれは……明らかに腐りかけの死体だ。
「うわあああああああああ ゾンビいやあああああああああああ」
私の願いは空しく、言葉も話も通じなさそうな魔物が出てきた。
ゲームに出てくる聖女なら対アンデッド特化の神聖魔法で楽勝の相手だが、攻撃手段が物理的に殴ることだけの私にとってはゾンビは天敵だ。
あんなのを触るとか無理。
パニックを起こしている私をあざ笑うかのように、地面から次々とゾンビが湧き出てくる。
もう逃げるしかない。
私は全速力でその場から離脱する。
ゾンビでは私の足にはついてこれないはずだ。
走り出した瞬間、前方に人影が見えた。
しかし加速した聖女は急には止まれない。
「危ない、そこどいて!」
「うぎゃっ」
私に撥ね飛ばされた人影は、ゆるやかな弧を描きながら地面に激突し、悲鳴を上げてのた打ち回っている。
勿論私の身体は何ともない。
「あの、大丈夫ですか?」
近付いて様子を見ると、それは漆黒の翼と角をはやした、魔族の青年だった。
初めて見る魔族。その顔や体つきは人間とほとんど変わらない。
前知識なしで何かのアニメのコスプレをした人だと言われれば信じてしまいそうだ。
「くそっ、やりやがったな。貴様が予言の聖女だな」
「はい、そうです。あなたは誰ですか」
「魔王軍四天王がひとり、屍使いレラージェとは俺様のことよ。あの短時間で俺様がゾンビたちを操っていることを見破り、直接狙ってくるとは恐ろしい奴」
いえ、知りません。偶々走る方向にいたのでぶつかっただけです。
「次に会った時はこうはいかねえ、覚えてやがれ!」
そう言うと屍使いレラージェと名乗る魔族は転移の魔法でどこかえ消え去った。
「あんなのが沢山いるのかな。先が思いやられるなあ」
「うう、この中に入るのか……やっぱり聖女の息吹を借りてくればよかったかな」
まずは霧の中に手を伸ばして感触を確かめる。
熱くも寒くもない。無味無臭だ。別段身体に異常も感じない。
私の体力があり過ぎる為、相対的に影響が微量すぎて何も感じないのだろうか。
意を決して霧の中に飛び込み、恐る恐る息を吸う。
スーッ
……苦しくない、呼吸はできる。
これなら大丈夫そうだ。
霧の中は視界が悪いが全く見えない訳ではない。100メートル程先まではうっすらと見えている。
後は出来るだけ魔族とエンカウントしないように速やかに魔王の下へ辿り着き、その首級を取ってくるだけだ。
「首級を取る……私が?」
周りの勢いに乗せられてここまで来てしまったが、冷静に考えるととんでもないことだ。
魔族も見た目は人間とほとんど変わらないらしい。翼や角が生えているという違いはあるが、獣と比べれば明らかに人間に近い。言葉も通じると聞いている。
ただの女子大学生の私が、そんな相手を殺すことなんてできるだろうか?
「まずは話し合いからしてみようかな」
そうだ、言葉が通じるならば話も通じるはずだ。
それに、いざとなったら聖女の力で取り押さえればいい。殺す必要なんかない。
うん、そうしよう。
決意を新たに、霧の濃い方向へと進む。
「ア……ウ……」
「何か聞こえたかしら……うぇっ、何この匂い?」
何かが腐ったような強烈な匂いが辺りに充満する。
「アァアアァ……ウアアァアアアー」
空耳じゃない、何かがいる!?
「お、落ち着け聖奈。魔族ならまずは話し合いを。もし問答無用で襲い掛かってきたとしても、今の私なら負けない、絶対」
ボコッ
突然地面が盛り上がり、何かが這い出てくる。
「ウグォァァアアー!!」
呻き声を上げながら出てきたそれは……明らかに腐りかけの死体だ。
「うわあああああああああ ゾンビいやあああああああああああ」
私の願いは空しく、言葉も話も通じなさそうな魔物が出てきた。
ゲームに出てくる聖女なら対アンデッド特化の神聖魔法で楽勝の相手だが、攻撃手段が物理的に殴ることだけの私にとってはゾンビは天敵だ。
あんなのを触るとか無理。
パニックを起こしている私をあざ笑うかのように、地面から次々とゾンビが湧き出てくる。
もう逃げるしかない。
私は全速力でその場から離脱する。
ゾンビでは私の足にはついてこれないはずだ。
走り出した瞬間、前方に人影が見えた。
しかし加速した聖女は急には止まれない。
「危ない、そこどいて!」
「うぎゃっ」
私に撥ね飛ばされた人影は、ゆるやかな弧を描きながら地面に激突し、悲鳴を上げてのた打ち回っている。
勿論私の身体は何ともない。
「あの、大丈夫ですか?」
近付いて様子を見ると、それは漆黒の翼と角をはやした、魔族の青年だった。
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前知識なしで何かのアニメのコスプレをした人だと言われれば信じてしまいそうだ。
「くそっ、やりやがったな。貴様が予言の聖女だな」
「はい、そうです。あなたは誰ですか」
「魔王軍四天王がひとり、屍使いレラージェとは俺様のことよ。あの短時間で俺様がゾンビたちを操っていることを見破り、直接狙ってくるとは恐ろしい奴」
いえ、知りません。偶々走る方向にいたのでぶつかっただけです。
「次に会った時はこうはいかねえ、覚えてやがれ!」
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