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第8話 聖女の出陣
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「聖女様が魔王討伐に向かわれるぞ!」
「これで我々は救われる!」
聖女出撃の報はたちまち王都中に知れ渡り、あちらこちらで歓声が上がる。
私が直接討伐に往くとは一言も言った覚えはないけど、魔王の瘴気を突破して魔王城へ辿り着けるのは聖女である私しかいないので、結局私が一人で魔王討伐に出発することになってしまった。
「聖女様、転移の魔方陣で最前線のイーストラ要塞まで飛べますよ」
私は魔導士に言われるままに1平方メートル程の四角い布切れに描かれた魔方陣の上に立つと、私の身体の周りがまばゆい光に包まれ何も見えなくなる。
「あ、この感覚どこかで……」
そうだ、私がこの世界に連れてこられた時と同じ感覚だ。同じような原理なのだろう。
次の瞬間、私はイーストラ要塞の入り口に立っていた。
「聖女様、お待ちしておりました。お話は伺っております」
私を出迎えた長身のナイスミドルが防衛部隊の総指揮官、ラヴィオール辺境伯だ。
「このイーストラ要塞から東へ真っすぐ進むと魔族の国イーヴィルホードに入ります。あの紫色の霧はご覧になりましたか?」
お城の塔から遠目に見えていた魔王の瘴気が、この要塞からははっきりと見える。
「はい、近くで見るとめちゃくちゃ気持ち悪いですね」
「あの禍々しい霧の中に入ると我々は徐々に体力を奪われて行き、やがて死んでしまいます。逆に魔族や魔獣にとっては覚醒剤のような効力があり、あの中にいる魔物は凶暴性が増すそうです」
「私もできればあんな気持ち悪い霧の中に入りたくないですが」
「大丈夫です。報告によると聖女様の体力は常人の5000~10000倍はあると考えられます。数日間は耐えられるでしょう」
「いえ、そういう問題以前に、あの中に入るのは生理的にちょっと……」
「そう仰られると思い、実は霧を掻き消すことができる魔道具を開発しておりました。聖女の息吹と名付けましたが、我々では使いこなせないのです。聖女様のお力なら使いこなせるかもしれません」
そんな便利な道具があるのなら利用しない手はない。
私は二つ返事でお願いをする。
「お前たち、例の物を持って参れ」
「はっ」
ラヴィオール辺境伯の命を受けた兵士達が数人がかりで10mはあろう強大な物体を運んでくる。
もう嫌な予感しかしない。
「聖女様、これぞ我らがクラウディア王国の技術の結晶、聖女の息吹です」
「わあ、すごい大きな団扇ですね」
「聖女様のお力(物理)でこれをひと仰ぎすれば、あんな霧など簡単に吹き飛びましょう」
うん、予想出来てた。
何だろう、恐らく本人は真面目にやっているんだろうけど、コントにしか見えない。
「やっぱり遠慮しておきます。自分の力で何とかしたいと思います」
「そうですか……残念です」
ラヴィオール辺境伯の心底残念そうな顔が、それが本気だったことを裏付ける。
「それで、魔王の居城へはどう行けばいいんでしょうか」
「魔王の瘴気は文字通り魔王の魔力によって生み出されています。霧が濃い方向へ進めばそこに魔王がいるはずです」
かなりいい加減だが、霧のせいで魔族の国内を偵察できないという事情は分かる。
それに今の私は最大マッハ2で走ることが出来るので、魔王の元までさほど時間がかからないだろう。
「必要な物資は我々がご用意いたしました。どうぞお持ちください」
ラヴィオール辺境伯より渡された巨大なバッグには、各種ポーションと転移の魔方陣、そして食料と水、キャンプグッズが入っていた。
(あの霧の中でキャンプをする気にはなれないなあ。)
「もしもの時には転移の魔方陣で撤退してください。ここイーストラ要塞に転移されるよう設定をしてあります」
「えっと、武器とかはないんですか?」
「聖女様のお力に耐えられる武器がありませんので……」
魔族とエンカウントしたら素手で戦えという事らしい。
私は覚悟を決めて、単身魔族の国への進軍を開始した。
「これで我々は救われる!」
聖女出撃の報はたちまち王都中に知れ渡り、あちらこちらで歓声が上がる。
私が直接討伐に往くとは一言も言った覚えはないけど、魔王の瘴気を突破して魔王城へ辿り着けるのは聖女である私しかいないので、結局私が一人で魔王討伐に出発することになってしまった。
「聖女様、転移の魔方陣で最前線のイーストラ要塞まで飛べますよ」
私は魔導士に言われるままに1平方メートル程の四角い布切れに描かれた魔方陣の上に立つと、私の身体の周りがまばゆい光に包まれ何も見えなくなる。
「あ、この感覚どこかで……」
そうだ、私がこの世界に連れてこられた時と同じ感覚だ。同じような原理なのだろう。
次の瞬間、私はイーストラ要塞の入り口に立っていた。
「聖女様、お待ちしておりました。お話は伺っております」
私を出迎えた長身のナイスミドルが防衛部隊の総指揮官、ラヴィオール辺境伯だ。
「このイーストラ要塞から東へ真っすぐ進むと魔族の国イーヴィルホードに入ります。あの紫色の霧はご覧になりましたか?」
お城の塔から遠目に見えていた魔王の瘴気が、この要塞からははっきりと見える。
「はい、近くで見るとめちゃくちゃ気持ち悪いですね」
「あの禍々しい霧の中に入ると我々は徐々に体力を奪われて行き、やがて死んでしまいます。逆に魔族や魔獣にとっては覚醒剤のような効力があり、あの中にいる魔物は凶暴性が増すそうです」
「私もできればあんな気持ち悪い霧の中に入りたくないですが」
「大丈夫です。報告によると聖女様の体力は常人の5000~10000倍はあると考えられます。数日間は耐えられるでしょう」
「いえ、そういう問題以前に、あの中に入るのは生理的にちょっと……」
「そう仰られると思い、実は霧を掻き消すことができる魔道具を開発しておりました。聖女の息吹と名付けましたが、我々では使いこなせないのです。聖女様のお力なら使いこなせるかもしれません」
そんな便利な道具があるのなら利用しない手はない。
私は二つ返事でお願いをする。
「お前たち、例の物を持って参れ」
「はっ」
ラヴィオール辺境伯の命を受けた兵士達が数人がかりで10mはあろう強大な物体を運んでくる。
もう嫌な予感しかしない。
「聖女様、これぞ我らがクラウディア王国の技術の結晶、聖女の息吹です」
「わあ、すごい大きな団扇ですね」
「聖女様のお力(物理)でこれをひと仰ぎすれば、あんな霧など簡単に吹き飛びましょう」
うん、予想出来てた。
何だろう、恐らく本人は真面目にやっているんだろうけど、コントにしか見えない。
「やっぱり遠慮しておきます。自分の力で何とかしたいと思います」
「そうですか……残念です」
ラヴィオール辺境伯の心底残念そうな顔が、それが本気だったことを裏付ける。
「それで、魔王の居城へはどう行けばいいんでしょうか」
「魔王の瘴気は文字通り魔王の魔力によって生み出されています。霧が濃い方向へ進めばそこに魔王がいるはずです」
かなりいい加減だが、霧のせいで魔族の国内を偵察できないという事情は分かる。
それに今の私は最大マッハ2で走ることが出来るので、魔王の元までさほど時間がかからないだろう。
「必要な物資は我々がご用意いたしました。どうぞお持ちください」
ラヴィオール辺境伯より渡された巨大なバッグには、各種ポーションと転移の魔方陣、そして食料と水、キャンプグッズが入っていた。
(あの霧の中でキャンプをする気にはなれないなあ。)
「もしもの時には転移の魔方陣で撤退してください。ここイーストラ要塞に転移されるよう設定をしてあります」
「えっと、武器とかはないんですか?」
「聖女様のお力に耐えられる武器がありませんので……」
魔族とエンカウントしたら素手で戦えという事らしい。
私は覚悟を決めて、単身魔族の国への進軍を開始した。
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