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第13話 レイドクエストはいい特訓になります

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 ゴーレムのいるダンジョンはかつて王国の転覆を企んだ古代の魔法使が建造したと言われている。
 その企みが時の国王に漏れた事でその軍隊によってこのダンジョンは攻略され魔法使いは討たれたが、魔法使いの死後もゴーレムだけはこのダンジョンを彷徨い続け、時々ダンジョンの外に出てきては無作為に付近の町を襲っていた。

 ダンジョン内には魔法使いが仕掛けた罠が多く仕掛けられていたが、それらはダンジョンが攻略された時に全て解除されている。

 ダンジョン内にはゴーレムがいるおかげで魔物も生息しておらず、俺達はただひたすらこの広大なダンジョン内に潜んでいるゴーレムを探し回る。

 3時間程探索を続けたところで、前方の暗闇の中に赤く光る目玉を見つけた。
 間違いない、ゴーレムだ。

「ガアアアアアアアアアアアアアアオォォ!」

 ダンジョン内にゴーレムの咆哮が響き渡る。
 ダンジョン内に入り込んだ異物を排除する為、ゴーレムはズシン、ズシンと大きな足音を響かせながらこちらに向かってくる。

「クサナギさん、ゴーレムがこちに来ます! どうしましょう……」
「早くガードレスを使って下さい! ガードレスを使えばあの岩石の身体も柔らかくなるんですよね?」

 チルとサクヤは迫り来るゴーレムの威圧感に戦慄しながら俺の方をちらちら見るが、あっさり倒してしまっては特訓にならない。

 俺はガードレスの呪文を詠唱する振りをして時間を引き伸ばす事にした。

「ああ、任せておけ。じゃあ俺がガードレスの呪文を唱える間、あいつを食い止めておいてね」

「分かりました、早くして下さいよ?」

「お姉様、私が後ろから援護します!」

 チルとサクヤはそんな俺の意図を見破れるはずもなくゴーレムに向かっていく。
 ゴーレムに向かってチル、サクヤ、俺の順番で一列に並ぶ形になる。

 まずはチルがロングソードでゴーレムの身体を斬ろうとするが、当然店売りの剣程度ではゴーレムの身体には傷一つ付ける事ができない。

「サクヤ、お願い!」

「はいお姉様、横に避けて下さい! ……ファイアーウィンド!」

 続いてサクヤが後方から炎の呪文を詠唱するが、岩石の身体を持つゴーレムには全く効いた様子はない。

「足止めにすらならないなんて……」

 落胆するサクヤを横目に、ゴーレムは無表情のまま先頭に立つチルに向かって拳を叩きつける。

「きゃっ、危ない」

 チルは辛うじて身をかわすも、間近で見たゴーレムの拳の迫力に気圧されて後ろに退く。

「クサナギさん、早くガードレスを!」

「チル、動き過ぎて狙いが定まらない! ちゃんとゴーレムの動きを押さえといて」

 もちろんそんなものは嘘だ。
 相手が目で追える程度の動きならガードレスを掛けるのは造作もない事だ。

「そ、そんな事言われたって私の剣じゃ足止めすら出来ませんでしたよ!」

「チル、まずは相手の攻撃を避ける事に専念するんだ。ゴーレムの動きは単純だ。落ち着いていれば避けられない速さじゃない。万が一避けそこなったとしてもこの傷薬があれば直ぐに治療できるから安心しろ」

「は、はい。やってみます」

「まあゴーレムにぶん殴られたら死ぬ程痛いけどな」

「鬼ですか!」

 避け続けていてもいつか疲労が溜まって体力の限界が来る。
 しかしそんな時の為にチルにはスタミナポーションも持たせてあるので当分は大丈夫だろう。

「サクヤはその位置から魔法でチルを援護するんだ。ダメージは通らないだろうが目を狙えば一瞬動きが鈍るはずだ。魔力が尽きたらさっき渡したマジックポーションで回復しろ!」

「やってみます!」

 サクヤはゴーレムの動きを見ながら目を狙って様々な属性の攻撃魔法を放っている。
 どの魔法をどのタイミングで放てば効果的なのかは実戦で覚えていくのが一番だ。

 チルも俺の言いつけ通りゴーレムの攻撃を避ける事に専念をする。
 やがてゴーレムの動きにも慣れてきたのか、隙を見て反撃をする程に余裕が出てきた。
 相変わらずゴーレムの身体にはダメージは通らないが、どの道俺がガードレスを使えば一撃で倒すことができるから関係ない。

 そして一時間程戦いを続けた頃には二人は完全にゴーレムの動きを見切れるようになっていた。

 これ以上ゴーレムから得るものは何もない。
 そう確信した俺はゴーレムに向かってガードレスの魔法を放つ。

 ゴーレムの身体が青白く輝いた次の瞬間、チルのロングソードとサクヤの炎魔法が同時にゴーレムの身体に命中した。

 ゴーレムの首から上は一瞬で消し炭と化し、ロングソードで斬られた胴体は真っ二つに分かれていた。

「二人ともお見事。今の呼吸を忘れないで」

 俺はパチパチと手を叩きながらチルとサクヤを労う。
 二人ともこの一戦で遥かに成長しているはずだ。
 もう二人とも俺がガードレスを使わずにいた理由を理解しているだろうな。

「クサナギさん遅いですよ! すごく怖かったんだから!」
「マジックポーションも全部使い切っちゃいましたよ! 今の魔法でもう魔力が空っぽです! もうダメかと思いました!」


 理解してなかった。



◇◇◇◇



 ゴーレムを討伐した証拠にそのコアを冒険者ギルドワークス支部に持ち帰ると、受付嬢も含めたギルド内の皆はある者は目を丸くし、ある者は口をぽっかりと開けて、誰もが信じられないといった表情をしていた。

「これは間違いなくゴーレムのコアですね。チルさん、サクヤさん、ゴーレム討伐クエストの達成を確認しました」

 ギルドの鑑定士がそう告げた刹那、ギルド内に拍手と喚声が巻き起こる。

「チル、サクヤ、凄いなお前達。いつの間にこんなに強くなったんだ?」
「もう万年C級の落ちこぼれ冒険者だなんて言えないな」

 二人は元々優れた冒険者になれる素質は持っていた。
 惜しむらくは今まで師となる人間が周りにいなかった事だ。
 通常冒険者になったばかりの者は先輩となる冒険者が共に戦いながら教え導いていくものだが、彼の父親であるヤマツミ伯爵は既に引退済み。
 他の冒険者達は偉大なる英雄の娘達という事で一歩引いてしまい、彼女達に冒険者としてのイロハを教えてくれるものがいなかったのだ。
 その結果チルとサクヤは他の冒険者達よりも明らかに成長が遅れてしまった。
 いつしかワークスの冒険者達はそんな彼女の事を英雄ヤマツミとは似ても似つかない出来損ない冒険者として腫物扱いで接するようになっていた。

 冒険者達から褒め称えられた事がないがないチルとサクヤは慣れないこの状況に困惑し、はにかんだような笑顔を見せながら言う。

「いえ、クサナギさんが手伝ってくれたからです」
「結局クサナギさんのガードレスの魔法がなければ私達だけではゴーレムは倒せませんでした」

 姉妹のその言葉に冒険者達の視線が俺に集まる。

「そうか、思い出したミャ」

 S級パーティエキゾチックスのリーダーであるマドウカが人差し指をピンと立てて言った。

「確か以前勇者パーティに所属していた魔法使いの名前がクサナギとかいったミャ」

 マドウカの話にギルド内がどよめく。

「これは思わぬライバル出現だミャ。バトルトーナメントが楽しみになってきたミャ」

 もう俺とチル、サクヤの出場を反対する冒険者達はいなかった。

 そしてその後も俺とチル、サクヤは特訓がてらにいくつかのクエストをこなし、バトルトーナメントの開催日を迎えた。
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