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第12話 ライバルはS級パーティ

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「チルとサクヤって、あのヤマツミ伯爵の娘の二人か?」
「他にいないだろ」

 周りの冒険者達は困惑した表情で顔を見合わせる。

「そうだけど、何かおかしいかい?」

「王国主催の大会だぞ。冷やかしならやめとけ」
「あんな万年C級の落ちこぼれ冒険者なんか出場させたらワークスには人がいないのかと王国中の笑い物になるぞ」

 冒険者達の中には露骨に不快感をあらわにする者もいる。
 しかしそこまで言う事もないだろう。
 確かに彼女達はまだ未熟だが、俺の見立てでは決して筋は悪くない。
 ちゃんとした訓練をすれば直ぐに一皮剥けそうなんだよな。

 冒険者ギルド内が険悪な空気に包まれる。

 その時、入り口の扉が開いてチルとサクヤの二人が現れた。

「あれ? クサナギさんどうしてこんな所に?」
「えっと……何ですかこの空気は?」

 二人はギルド内の異様な空気に困惑する。
 原因が自分達にあるとは夢にも思っていない。

 マドウカはそんな二人にゆっくりと歩み寄り声を掛ける。

「君達、この人とバトルトーナメントに出場するって本当かニャ?」

「え? クサナギさん、お父様から聞いたんですね。引き受けてくれるんですか?」

 俺は首を縦に振って答える。

「ああ、そのつもりだ」

「やった、これで優勝を狙える!」

 チルとサクヤは俺の言葉に目を輝かせてガッツポーズをし、全身で喜びを表現する。
 マドウカはそんな二人と俺を見比べながら言った。

「んー、このクサナギって人には物凄い魔力を感じるからきっといい線行くと思うミャ。でもあんた達二人は全然未熟ミャ。今のままじゃ足を引っ張るだけミャ」

「うぐっ……そりゃマドウカさんに比べたらまだまだだって自覚はしてるけど……」
「クサナギさん、大会までに私達を鍛えて下さい! 全力で頑張りますから!」

 サクヤは俺の手をぎゅっと握りしめて懇願する。
 彼女達の強くなりたいという気持ちは本物だ。
 ならば俺はそれに応えるだけだ。

「ああ、元よりそのつもりだ。お前達この後時間あるか?」

「はい、今ひとつクエストを終わらせてきたところなので、報告が終わった後なら大丈夫です」

「分かった。じゃあ早く報告してきて。何をするかはその間に決めておく」

「はい、クサナギさん」

 チルとサクヤがギルドの奥へ行ったのを見て、俺はクエストの依頼書が貼られている掲示板の前に移動した。
 短期間で強くなるにはやはり実戦が一番だ。

 俺は魔獣の討伐クエストを順番に眺める。
 相手が弱すぎては特訓にならないが、強すぎても俺がサポートしきれないので駄目だ。

 しかしざっと眺めた限りではあまり強い魔獣の討伐クエストはなさそうだっだ。

「仕方がない、ここは妥協するか……」

 俺は呟きながら一枚の依頼書を掲示板から剥がした。

「ま、最初はこのくらいでいいか……」

 それはとあるダンジョンの中を徘徊し続けているという古代の魔導士が生んだゴーレムの討伐クエストだ。

「おい、お前正気か?」
「そいつはレイドクエストといって、数十人単位の冒険者を集めて挑むやつだぞ」

 俺が選んだ依頼書の内容を見た他の冒険者達が一様に驚きの声を上げる。
 たかだかゴーレム一匹を退治するのに大袈裟だな。
 俺が勇者パーティにいた頃はもっと手強い魔獣を何匹も倒してきたんだ。
 こいつ程度なら俺がサポートしてやればチルとサクヤの二人でも十分倒せるだろうという確信がある。

 一向に忠告を聞こうとしない俺に対して冒険者達が必死の形相で説得を続ける。

「悪い事は言わないからよく聞け、このクエストは元々は国が勇者パーティに与えられた任務だったそうだ。しかし勇者の手にも負えなかったものだから冒険者ギルドに回ってきたという訳さ」

「え? あいつらゴーレム討伐の任務に失敗したの?」

 勇者パーティといえばヤマト達だ。
 さすがにあいつらの名前が出てくれば俺も耳を傾けざるを得ない。

「ああ、ゴーレムの頑丈な身体の前に、かすり傷を負わせるのがやっとだったそうだ」

 何やってんだあいつら。
 かつての仲間ながら情けないな。

 でもゴーレムなんて動きも遅いし身体が固いだけの魔獣じゃないか。
 ガードレスの魔法を掛ければ豆腐のように脆くなる。
 俺には何の脅威も感じられない魔獣だ。

「忠告はしたからな! もう勝手にしろ」

 結局最後には冒険者達の方が説得を諦めた。


「え、ゴーレムの討伐をするんですか!?」
「これはレイドクエストといって数十人単位で挑むクエストですよ」

 クエストの報告を終えて戻ってきたチルとサクヤも他の冒険者達と同じ反応をするが、「俺のサポート付きでもいいからゴーレムくらい倒せないと優勝なんてとても無理だから大会参加は諦めた方がいい」と煽ってみたらしぶしぶ首を縦に振った。

 ゴーレムがいるというダンジョンは馬車で半日はかかる距離にある。
 行きと帰りとダンジョン探索で二泊三日の予定だ。

 伯爵にそのスケジュールと馬車の手配の相談をしたところ、快く承諾してくれた。

 年頃の女の子二人とのお泊り旅を簡単に許してくれるとは伯爵も余程俺の事を信頼してくれているのか、根が冒険者脳というべきなのかは判断に迷うところだな。

 何はともあれ親の許可を得た以上後ろめたい事は何もない。
 俺は一旦火焔山に戻ってアンドーゼからゴーレム討伐に必要となる薬を受け取る。
 疲労回復に効果があるスタミナポーション、魔力を回復するマジックポーション、そして怪我をした時の為の傷薬の三種類だ。
 傷薬と言ってもその効力は店売りのそれとは一線を画しており、もし町の道具屋に卸したとしたらエリクサーという名前で店頭に並べられるだろう。

 バトルトーナメントに出場できるパーティは四人までなのでもう一人分空きがある。
 ついでにトモエ達にも参加してみないかと誘ってみたが、山賊が王国主催の大会に出場できるはずがないと断られてしまった。

 ごもっともな話だ。

 翌朝、俺はワークスの町でチルとサクヤと合流し、馬車に乗ってゴーレムのいるダンジョンへと向かった。
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