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第42話 第三王子
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氷の洞窟の最下層はアイスドラゴンの縄張りだ。
この階層には他の魔獣は一切出現しない。
魔獣に襲われる心配はないが、この場所は上層よりも一際気温が低く長居をすると凍死してしまう。
原作では画面右上に凍死するまでのカウントが表示される。
炎魔法などで暖を取れば僅かな間カウントが止まるが、気休め程度なので先に進んだ方が早い。
「ユフィーアこっちだ。急ごう」
俺は原作でアイスドラゴンがいた場所を知っているので、最短ルートでそこへ向かう。
「ユフィーア、あの曲がり角の先に大空洞がある。アイスドラゴンはそこにいるはずだ。もちろんヘステリアもね」
「マール様待って下さい。そこの岩陰に誰かがいます」
「ここにはアイスドラゴン以外の魔獣はいないはずだけど?」
「魔獣ではありません。……そこに隠れている者、出てきなさい!」
ユフィーアが岩に剣を向けると、岩陰から一人の男がゆっくりと出てきた。
「ふっ、こうもあっさり見破られるとはな」
「あっ……」
その男の顔を見てユフィーアはかしこまり剣を収める。
「これはアレス殿下でしたか。でもどうしてそんなところに隠れていたんですか? こんなところでじっとしていると凍えてしまいますよ」
「ヘルメスの奴が俺達の後をつけている奴がいると教えてくれてな。ここで見張っていたのさ」
「そうでしたか。……という事は残りの三人で先に進まれたのですか?」
「ああ、アイスドラゴンなどあいつらだけで十分だからな。それよりもお前達はこんなところで何をしている。何故俺達の後をつけてきた?」
相手は王位継承権を放棄したとはいえ一国の王子だ。
回答を誤れば俺達の立場が危うくなる。
かといって善悪ポイントのバグを説明しても理解してくれるとは思わない。
慎重に答えなくては。
そもそもアレス殿下はヘステリアが時々闇落ちしている事には気付いているのだろうか。
そこから探ってみるか。
「殿下、俺達は邪悪な気配を追ってここへやってきました。何かご存じありませんか?」
「邪悪な気配……だと?」
俺はアレス殿下の表情が一瞬険しくなったのを見逃さなかった。
これは心当たりがあるな。
「この洞窟にアイスドラゴンが棲息している事は知っていよう。そいつではないのか?」
アレス殿下は間違いなくヘステリアが時々変貌する事に気付いているが、それを誤魔化そうとしているのが見え見えだ。
ただでさえ罪人として王宮から追放されたヘステリアだ。
その事を俺達に知られれば、ユフィーアは躊躇なくヘステリアを斬り殺すと考えているのだろう。
もちろん俺はヘステリアの冤罪の事も把握しているし、ユフィーアにそんな事をさせるつもりもないのだが、アレス殿下は疑心暗鬼に陥っている。
腹の探り合いは止めよう。
まずはアレス殿下を説得する事が先決だ。
ただでさえこの場所にはタイムリミットがあるし、あまり時間をかけていられない。
「いえ、俺達は邪悪な気配を追ってこの洞窟にやってきたと言いました。その気配は王都からここまで続いています。つまり、そのこの先にその元凶がいるという事です」
「もういい、やめろ」
「え?」
「回りくどい言い方はよせ。やはりヘステリアの命が狙いなんだろう。だがそうはさせんぞ。お前の事は知っている。確かマールとか言ったな。父上はお前の事を高く買っていたようだが、どうやら父上も衰えたようだ」
アレス殿下は剣を抜き、俺達に突き付ける。
まさに一触即発の状態だ。
見兼ねたユフィーアが仲裁をしようと間に割って入る。
「殿下、落ち着いて下さい。私達はヘステリアを討ちに来たのではありません。マール様もどうして……」
「ユフィーア、大丈夫俺に考えがある。ここは俺に任せてくれ」
俺はユフィーアに耳打ちをして下がらせ、話を続ける。
「以前古い書物で読んだ事があるんですが、人間に悪の心を植え付ける魔族の呪術があるそうです。普段は大人しい人間が突然凶暴になったりするとか。アレス殿下、心当たりがありますよね?」
「……」
「この呪術の恐ろしいところは、心の優しい人ほどその反動が大きいという事です。殿下もイエローハンカチーフの乱の事はご存じでしょう」
かつて戦乱の時代、平和を説いたピースウェイ教団という宗教団体があった。
教祖スプレドゥ・コーナーは清廉潔白な人物で民衆からは聖者として崇拝されていたが、ある時突如として王国に対して反乱を起こした。
信者たちは教祖スプレドゥの命じるまま各地で略奪を繰り返し、王国全土は混迷を極める事となる。
彼らは皆、幸福を意味する黄色いハンカチを身に付けていた事から、この出来事はイエローハンカチーフの乱と呼ばれている。
ぶっちゃけると俺はスプレドゥという人物がなぜ王国に対して反乱を起こしたのかは全く知らないが、説得力を持たせる為にあえてこれも呪術によるものという事にさせてもらった。
嘘も方便だ。
「殿下、俺はその呪術を破る方法を知っています。俺がここに来たのはその為です。どうか力を貸していただけませんか?」
俺の言葉でアレス殿下はがっくりと膝を落とす。
「それが本当なら……頼む、彼女を……ヘステリアを助けてやってくれ。俺にできる事なら何でもする……」
アレス殿下は今まで自分の中に抱え込んでいたものが堰を切って溢れだしたかのように大粒の涙を流しながら懇願する。
「ええ、元よりそのつもりです。後は俺に任せて下さい。まずは彼女の状態を確認させていただきます」
この階層には他の魔獣は一切出現しない。
魔獣に襲われる心配はないが、この場所は上層よりも一際気温が低く長居をすると凍死してしまう。
原作では画面右上に凍死するまでのカウントが表示される。
炎魔法などで暖を取れば僅かな間カウントが止まるが、気休め程度なので先に進んだ方が早い。
「ユフィーアこっちだ。急ごう」
俺は原作でアイスドラゴンがいた場所を知っているので、最短ルートでそこへ向かう。
「ユフィーア、あの曲がり角の先に大空洞がある。アイスドラゴンはそこにいるはずだ。もちろんヘステリアもね」
「マール様待って下さい。そこの岩陰に誰かがいます」
「ここにはアイスドラゴン以外の魔獣はいないはずだけど?」
「魔獣ではありません。……そこに隠れている者、出てきなさい!」
ユフィーアが岩に剣を向けると、岩陰から一人の男がゆっくりと出てきた。
「ふっ、こうもあっさり見破られるとはな」
「あっ……」
その男の顔を見てユフィーアはかしこまり剣を収める。
「これはアレス殿下でしたか。でもどうしてそんなところに隠れていたんですか? こんなところでじっとしていると凍えてしまいますよ」
「ヘルメスの奴が俺達の後をつけている奴がいると教えてくれてな。ここで見張っていたのさ」
「そうでしたか。……という事は残りの三人で先に進まれたのですか?」
「ああ、アイスドラゴンなどあいつらだけで十分だからな。それよりもお前達はこんなところで何をしている。何故俺達の後をつけてきた?」
相手は王位継承権を放棄したとはいえ一国の王子だ。
回答を誤れば俺達の立場が危うくなる。
かといって善悪ポイントのバグを説明しても理解してくれるとは思わない。
慎重に答えなくては。
そもそもアレス殿下はヘステリアが時々闇落ちしている事には気付いているのだろうか。
そこから探ってみるか。
「殿下、俺達は邪悪な気配を追ってここへやってきました。何かご存じありませんか?」
「邪悪な気配……だと?」
俺はアレス殿下の表情が一瞬険しくなったのを見逃さなかった。
これは心当たりがあるな。
「この洞窟にアイスドラゴンが棲息している事は知っていよう。そいつではないのか?」
アレス殿下は間違いなくヘステリアが時々変貌する事に気付いているが、それを誤魔化そうとしているのが見え見えだ。
ただでさえ罪人として王宮から追放されたヘステリアだ。
その事を俺達に知られれば、ユフィーアは躊躇なくヘステリアを斬り殺すと考えているのだろう。
もちろん俺はヘステリアの冤罪の事も把握しているし、ユフィーアにそんな事をさせるつもりもないのだが、アレス殿下は疑心暗鬼に陥っている。
腹の探り合いは止めよう。
まずはアレス殿下を説得する事が先決だ。
ただでさえこの場所にはタイムリミットがあるし、あまり時間をかけていられない。
「いえ、俺達は邪悪な気配を追ってこの洞窟にやってきたと言いました。その気配は王都からここまで続いています。つまり、そのこの先にその元凶がいるという事です」
「もういい、やめろ」
「え?」
「回りくどい言い方はよせ。やはりヘステリアの命が狙いなんだろう。だがそうはさせんぞ。お前の事は知っている。確かマールとか言ったな。父上はお前の事を高く買っていたようだが、どうやら父上も衰えたようだ」
アレス殿下は剣を抜き、俺達に突き付ける。
まさに一触即発の状態だ。
見兼ねたユフィーアが仲裁をしようと間に割って入る。
「殿下、落ち着いて下さい。私達はヘステリアを討ちに来たのではありません。マール様もどうして……」
「ユフィーア、大丈夫俺に考えがある。ここは俺に任せてくれ」
俺はユフィーアに耳打ちをして下がらせ、話を続ける。
「以前古い書物で読んだ事があるんですが、人間に悪の心を植え付ける魔族の呪術があるそうです。普段は大人しい人間が突然凶暴になったりするとか。アレス殿下、心当たりがありますよね?」
「……」
「この呪術の恐ろしいところは、心の優しい人ほどその反動が大きいという事です。殿下もイエローハンカチーフの乱の事はご存じでしょう」
かつて戦乱の時代、平和を説いたピースウェイ教団という宗教団体があった。
教祖スプレドゥ・コーナーは清廉潔白な人物で民衆からは聖者として崇拝されていたが、ある時突如として王国に対して反乱を起こした。
信者たちは教祖スプレドゥの命じるまま各地で略奪を繰り返し、王国全土は混迷を極める事となる。
彼らは皆、幸福を意味する黄色いハンカチを身に付けていた事から、この出来事はイエローハンカチーフの乱と呼ばれている。
ぶっちゃけると俺はスプレドゥという人物がなぜ王国に対して反乱を起こしたのかは全く知らないが、説得力を持たせる為にあえてこれも呪術によるものという事にさせてもらった。
嘘も方便だ。
「殿下、俺はその呪術を破る方法を知っています。俺がここに来たのはその為です。どうか力を貸していただけませんか?」
俺の言葉でアレス殿下はがっくりと膝を落とす。
「それが本当なら……頼む、彼女を……ヘステリアを助けてやってくれ。俺にできる事なら何でもする……」
アレス殿下は今まで自分の中に抱え込んでいたものが堰を切って溢れだしたかのように大粒の涙を流しながら懇願する。
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