33 / 72
第33話 両親への挨拶を済ませよう
しおりを挟む
「マール君、君には世話になったね。まずは礼を言わせて欲しい」
ユフィーアの父であり、ラスボーン家の現当主であるシャルリックは深々と頭を下げる。
「ささ、お口に合うか分かりませんが、どうぞ召し上がって下さい」
その妻であるベアトリクスさんに進められて、俺はテーブルの前の椅子に腰掛ける。
ベアトリクスさんはユフィーアに似た青髪の美女で、元は宮廷魔術師だったという。
ユフィーアの剣技と魔法の才能は両親から受け継がれたものなのだろう。
食堂の中央に置かれたテーブルの上には色とりどりの高級料理が乗せられたお皿が大量に並べられている。
洋と中華の違いはあれど、まるで満漢全席を思わせる豪華さだ。
今まで縁がなかったがこれが貴族の食事というものか。
俺は料理を片っ端から取り皿に分け、口に運ぶ。
「……! こ、これは……」
俺の前世である日本人は味にはうるさい民族だ。
日本から異世界に飛んだ人間は、料理のクオリティの差に失望する事も珍しくない。
それはこのファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの世界も例外ではない。
俺も前世の記憶が戻ってからはしばしば日本の料理の味を思い出して憂鬱になる事もあった。
もし俺に料理の腕があれば自分でレストランでも始めようかと考えているところだ。
それがどうだろう。
今この食卓に並んでいる料理は、前世では数えるほどしか口にする事ができなかった高級ステーキや、回らない寿司にも匹敵する美味しさだ。
これが料理アニメならば料理が閃光を放ったり、俺の服がビリビリに破れたり、俺が巨大化して城を破壊したりと過剰な演出が加えられているところだ。
あまりの美味しさに俺は料理を口に運ぶ度に思わず表情が緩む。
「マールさんのお口に合ってよかったです」
「こんなに美味しい料理は食べた事がありません。素晴らしい料理人をお雇いですね」
「あらあら、この料理を作ったのはユフィーアですわよ」
「え?」
そういえば原作の設定ではユフィーアは料理も得意と書いてあったな。
わざわざ俺の為に作ってくれたのか。
……いやいや、作り過ぎだろこれ。
俺はフードファイターじゃないぞ。
「あの……マール様、宜しければこれから毎日私が食事を作りますがどうでしょうか?」
何故かユフィーアがもじもじしながら聞いてくる。
毎日この味を堪能できるなら反対する理由はない。
俺は二つ返事でお願いする。
「そうだね、お願いしようかな」
「は……はい、喜んで!」
その一言でユフィーアの表情がパアっと明るくなる。
「うふふ、ユフィーア、よかったですわね」
「はい、お母様!」
食事当番になった事がそんなに嬉しいのだろうか。
むしろ毎日こんなに美味しい料理を食べられるのなら、嬉しいのは俺の方なんだけど。
「マール様、これからも末永く娘を宜しくお願いします」
「あっはい、こちらこそ」
母親に改まってそう言われなくても、今まで通りパーティの相棒として頼りにしていますよ。
「うむ、今夜はお祝いだ。君、確か30年物のワインがあったな」
「はい、旦那様。直ちにお持ちいたします」
何故か父親も上機嫌だ。
シャルリックの指示で使用人の男は地下の酒蔵から年代物のワインを持ってくる。
見るからに値が張りそうのワインだ。
俺は出されるままにワインに口をつける。
美味い。
この熟成されたチーズとの相性もばっちりだ。
今日は飲み過ぎてしまうな。
酔いも直ぐに回りそうだ。
おっと、酔いといえばユフィーアが悪酔いしないように監視しておかないと……。
自然と俺の視線がユフィーアに注がれる。
「……!」
それに気づいたユフィーアは顔を紅潮させて俯く。
俺の意図に気付いたかな。
今日はあまり飲むんじゃないぞ。
「それにしてもマール君は本当に不思議な方ですな。私の見立てでは身体能力はさほどではないように見えるが、まさかあの化け物を倒してしまうとは」
「お父様ぁ、マール様の神髄は呪術に関する卓越した知識ですよぉ。マール様にかかればあんな食べる事しか能がない魔獣なんてちょちょいのちょいですぅ」
ああダメだ、ユフィーアは大分出来上がってる。
俺が見つめていた意図を理解してくれたと思ったのは気のせいだったようだ。
「しかしマール君。君は直接の戦闘は苦手との事だが、私が見る限りは君にはまだまだ隠されている力があるように感じる」
そりゃそうでしょうね。
原作の設定ではマールは剣も魔法も使いこなすユーティリティープレイヤーだ。
レベルが10までしか上がらないバグがあるとはいえ、同じレベルでステータスを比較すると主人公たちを含めてどのキャラクターよりも強い。
このバグさえなければ間違いなく使用率ナンバーワンだったろう。
つくづく惜しいキャラクターだ。
「シャルリックさん、実は俺は呪いによってこれ以上身体能力が上がらないのです。これが俺が呪術の知識を得た代償です」
「マール様大丈夫ですよぉ、直接戦闘は私が全部受け持ちますからぁ。それにぃ、ダンジョンを出てから身体の調子がものすごくいいんですぅ」
酔って呂律が回っていないユフィーアが俺に密着しながら言う。
いくらパーティの仲間だからといって、ご両親の前でそんなにべたべたするのはどうかと思うぞ。
変な誤解をされたらどうする。
そういえばワールドイーターを倒した事で、パーティメンバーであるユフィーアには大量の経験値が入ってきているはずだ。
あの強さだ、レベルもかなり上がってるんじゃないかな。
今度ギルドに行った時にレベルを鑑定してもらってこよう。
ユフィーアの父であり、ラスボーン家の現当主であるシャルリックは深々と頭を下げる。
「ささ、お口に合うか分かりませんが、どうぞ召し上がって下さい」
その妻であるベアトリクスさんに進められて、俺はテーブルの前の椅子に腰掛ける。
ベアトリクスさんはユフィーアに似た青髪の美女で、元は宮廷魔術師だったという。
ユフィーアの剣技と魔法の才能は両親から受け継がれたものなのだろう。
食堂の中央に置かれたテーブルの上には色とりどりの高級料理が乗せられたお皿が大量に並べられている。
洋と中華の違いはあれど、まるで満漢全席を思わせる豪華さだ。
今まで縁がなかったがこれが貴族の食事というものか。
俺は料理を片っ端から取り皿に分け、口に運ぶ。
「……! こ、これは……」
俺の前世である日本人は味にはうるさい民族だ。
日本から異世界に飛んだ人間は、料理のクオリティの差に失望する事も珍しくない。
それはこのファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの世界も例外ではない。
俺も前世の記憶が戻ってからはしばしば日本の料理の味を思い出して憂鬱になる事もあった。
もし俺に料理の腕があれば自分でレストランでも始めようかと考えているところだ。
それがどうだろう。
今この食卓に並んでいる料理は、前世では数えるほどしか口にする事ができなかった高級ステーキや、回らない寿司にも匹敵する美味しさだ。
これが料理アニメならば料理が閃光を放ったり、俺の服がビリビリに破れたり、俺が巨大化して城を破壊したりと過剰な演出が加えられているところだ。
あまりの美味しさに俺は料理を口に運ぶ度に思わず表情が緩む。
「マールさんのお口に合ってよかったです」
「こんなに美味しい料理は食べた事がありません。素晴らしい料理人をお雇いですね」
「あらあら、この料理を作ったのはユフィーアですわよ」
「え?」
そういえば原作の設定ではユフィーアは料理も得意と書いてあったな。
わざわざ俺の為に作ってくれたのか。
……いやいや、作り過ぎだろこれ。
俺はフードファイターじゃないぞ。
「あの……マール様、宜しければこれから毎日私が食事を作りますがどうでしょうか?」
何故かユフィーアがもじもじしながら聞いてくる。
毎日この味を堪能できるなら反対する理由はない。
俺は二つ返事でお願いする。
「そうだね、お願いしようかな」
「は……はい、喜んで!」
その一言でユフィーアの表情がパアっと明るくなる。
「うふふ、ユフィーア、よかったですわね」
「はい、お母様!」
食事当番になった事がそんなに嬉しいのだろうか。
むしろ毎日こんなに美味しい料理を食べられるのなら、嬉しいのは俺の方なんだけど。
「マール様、これからも末永く娘を宜しくお願いします」
「あっはい、こちらこそ」
母親に改まってそう言われなくても、今まで通りパーティの相棒として頼りにしていますよ。
「うむ、今夜はお祝いだ。君、確か30年物のワインがあったな」
「はい、旦那様。直ちにお持ちいたします」
何故か父親も上機嫌だ。
シャルリックの指示で使用人の男は地下の酒蔵から年代物のワインを持ってくる。
見るからに値が張りそうのワインだ。
俺は出されるままにワインに口をつける。
美味い。
この熟成されたチーズとの相性もばっちりだ。
今日は飲み過ぎてしまうな。
酔いも直ぐに回りそうだ。
おっと、酔いといえばユフィーアが悪酔いしないように監視しておかないと……。
自然と俺の視線がユフィーアに注がれる。
「……!」
それに気づいたユフィーアは顔を紅潮させて俯く。
俺の意図に気付いたかな。
今日はあまり飲むんじゃないぞ。
「それにしてもマール君は本当に不思議な方ですな。私の見立てでは身体能力はさほどではないように見えるが、まさかあの化け物を倒してしまうとは」
「お父様ぁ、マール様の神髄は呪術に関する卓越した知識ですよぉ。マール様にかかればあんな食べる事しか能がない魔獣なんてちょちょいのちょいですぅ」
ああダメだ、ユフィーアは大分出来上がってる。
俺が見つめていた意図を理解してくれたと思ったのは気のせいだったようだ。
「しかしマール君。君は直接の戦闘は苦手との事だが、私が見る限りは君にはまだまだ隠されている力があるように感じる」
そりゃそうでしょうね。
原作の設定ではマールは剣も魔法も使いこなすユーティリティープレイヤーだ。
レベルが10までしか上がらないバグがあるとはいえ、同じレベルでステータスを比較すると主人公たちを含めてどのキャラクターよりも強い。
このバグさえなければ間違いなく使用率ナンバーワンだったろう。
つくづく惜しいキャラクターだ。
「シャルリックさん、実は俺は呪いによってこれ以上身体能力が上がらないのです。これが俺が呪術の知識を得た代償です」
「マール様大丈夫ですよぉ、直接戦闘は私が全部受け持ちますからぁ。それにぃ、ダンジョンを出てから身体の調子がものすごくいいんですぅ」
酔って呂律が回っていないユフィーアが俺に密着しながら言う。
いくらパーティの仲間だからといって、ご両親の前でそんなにべたべたするのはどうかと思うぞ。
変な誤解をされたらどうする。
そういえばワールドイーターを倒した事で、パーティメンバーであるユフィーアには大量の経験値が入ってきているはずだ。
あの強さだ、レベルもかなり上がってるんじゃないかな。
今度ギルドに行った時にレベルを鑑定してもらってこよう。
0
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
彼女を妃にした理由
つくも茄子
恋愛
ファブラ王国の若き王が結婚する。
相手はカルーニャ王国のエルビラ王女。
そのエルビラ王女(王妃)付きの侍女「ニラ」は、実は王女の異母姉。本当の名前は「ペトロニラ」。庶子の王女でありながら母親の出自が低いこと、またペトロニラの容貌が他の姉妹に比べて劣っていたことで自国では蔑ろにされてきた。今回も何らかの意図があって異母妹に侍女として付き従ってきていた。
王妃付きの侍女長が彼女に告げる。
「幼い王女様に代わって、王の夜伽をせよ」と。
拒むことは許されない。
かくして「ニラ」は、ファブラ王国で王の夜伽をすることとなった。
愛されなければお飾りなの?
まるまる⭐️
恋愛
リベリアはお飾り王太子妃だ。
夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。
そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。
ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?
今のところは…だけどね。
結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。
仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
万能チートで異世界開拓! 〜辺境スタートの最強転移者スローライフ〜
山猪口 茸
ファンタジー
スローライフを夢見る平凡な高校生、藤峰卓人(ふじみね たくと)。屍のように日々を暮らしていた彼がある時転移したのは、岩だらけの辺境の土地だった!
「手違いで転移させちゃった///。万能チートあげるから、ここで自由に暮らしていいよ。ごめんね!」
そんな適当な女神のせいで荒地に転移してしまったものの……これって夢を叶えるチャンスでは?
チートや魔法を有効活用しまくって、夢のスローライフを送ってやる!ついでに畑とか施設も作ってのんびり暮らそう!村なんか作っちゃってもいいかも!?
そんな彼の送る、目指せほのぼのスローライフ!
[投稿はかなり不定期です!小説家になろうにも同時にあげています]
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
回帰令嬢ローゼリアの楽しい復讐計画 ~拝啓、私の元親友。こまめに悔しがらせつつ、あなたの悪行を暴いてみせます~
星名こころ
恋愛
ルビーノ公爵令嬢ローゼリアは、死に瀕していた。親友であり星獣の契約者であるアンジェラをバルコニーから突き落としたとして断罪され、その場から逃げ去って馬車に轢かれてしまったのだ。
瀕死のローゼリアを見舞ったアンジェラは、笑っていた。「ごめんね、ローズ。私、ずっとあなたが嫌いだったのよ」「あなたがみんなに嫌われるよう、私が仕向けたの。さようならローズ」
そうしてローゼリアは絶望と後悔のうちに人生を終えた――はずだったが。気づけば、ローゼリアは二年生になったばかりの頃に回帰していた。
今回の人生はアンジェラにやられっぱなしになどしない、必ず彼女の悪行を暴いてみせると心に誓うローゼリア。アンジェラをこまめに悔しがらせつつ、前回の生の反省をいかして言動を改めたところ、周囲の見る目も変わってきて……?
婚約者候補リアムの協力を得ながら、徐々にアンジェラを追い詰めていくローゼリア。彼女は復讐を果たすことはできるのか。
※一応復讐が主題ではありますがコメディ寄りです。残虐・凄惨なざまぁはありません
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる