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第14話 幼馴染の末路

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 魔獣の森は王都より南へ約100キロメートルに位置する。

 俺達は【トライアド】に追い付く為、王都で馬車をレンタルして魔獣の森へ向かった。
 馬車のレンタル料と御者の人件費と合わせるとかなりの金額になる。
 陛下より大量の資金を頂いた俺達にとっては安いものだが、【トライアド】のメンバーはそうはいかない。
 間違いなく徒歩で来ているはずだ。

「マール様、ユフィーア様、着きましたよ。ここから先が魔獣の森です」

 御者のゴッシュ氏が森の入り口に馬車を停める。

「有難うゴッシュさん。もし丸一日経っても俺達が戻らなければ俺達が魔獣にやられたという事なので、気にせずに王都へ戻って下さい」

「はい、どうぞお気をつけて」

 魔獣の森は貴重な鉱物や薬草が採れる事で有名な地だが、薄暗い森の中には危険な魔獣が数多く生息しており、一般人が森に踏み入るとまず生きては帰れない。
 しかし魔獣が森の外に出てくる事はないので入口に居れば安全だ。
 これもゲームの仕様的なものなんだろうな。

 俺達はゴッシュさんと別れると、森の中に足を踏み入れた。

 その瞬間、周囲の空気がガラっと変わる。
 強力な魔獣が潜んでいる証拠だ。

「マール様、私が先行します」

 ユフィールが周囲を警戒しながら先へ進み、俺はその後ろに続く。

「マール様、あそこをご覧下さい」

 少し進んだところで、ユフィーアがコボルトの死体を見つけた。

 この傷は剣で斬られたものだ。
 恐らくホリンがやったんだろう。
 黒焦げの死体もある。
 こっちのはミーリャが炎魔法を使ったんだな。

 コボルトといえばレベル20程度の冒険者でも軽々倒せる魔物だ。
 レベル30台のホリンとミーリャの相手ではないだろう。

 俺はコボルトの傷口を確認する。

 血がまだ固まっていない。
 まだそれほど時間が立っていない証拠だ。

 何としても彼らがグリフォンと遭遇エンカウントする前に止めないと。

 俺とユフィーアはさらに森の奥へ進む。

「きゃあああああああああ!」

 その時、女性の悲鳴が聞こえた。

「遅かったか!?」

 俺とユフィーアは声のする方向へ走る。

「おい、大丈夫か!?」

 そこには全長20メートルはあろうかという巨大な漆黒の人食い蛇、ヘルバイパーと対峙しているホリンとミーリャの姿があった。

 もう一人、知らない女性の冒険者がその後ろで腰を抜かしている。
 彼女が新たに加入したという治癒士ヒーラーなのだろう。

 ホリンとミーリャはこちらに気付くと、心底鬱陶しそうな顔で溜息をつく。

「なんだマールか。何しに来たんだ? いくら勇者様と一緒だからって、獲物の横取りはご法度だぞ」
「今いいところなんだから邪魔しないでよね」

 この二人の余裕は何だ。
 ヘルバイパーといえば討伐推奨レベルは50のはずだ。
 レベル30程度のホリンとミーリャが二人がかりでも適う相手ではないぞ。

 俺は腰を抜かしている治癒士ヒーラーに手を差し伸べ、状況を聞く。

「あ、有難うございます。お恥ずかしい、ヘルバイパーが突然茂みから飛び出してきたので驚いてしまいました」

「確かあなたはレベル40の治癒士ヒーラーですよね。そりゃ無理もありません。ヘルバイパーはレベル50の冒険者がやっと倒せるくらいの魔獣ですからね」

「はい、私は回復魔法を使う以外は逃げ回る事しかできなくて情けない限りです。でもホリンさんとミーリャさんがいれば大丈夫です」

「ん? どういう事ですか? あの二人はあなたよりもレベルが低いんですよ」

「ええ、レベルは低いんですけどあの二人とても強いんです。私もギルドの訓練場で手合わせをして貰ったんですけど、手も足も出ませんでした」

「え? あなたが?」

「はい。その強さに惚れちゃいまして、無理を言ってパーティに入れて貰ったんです」

 治癒士ヒーラーは戦闘職ではないとはいえ、レベル40と30では身体能力パラメータに大きな差がある。
 それを圧倒するなんて考えられない。

「まさか……」

 それができる方法について、ひとつ心当たりがある。

「へっ、本命のグリフォンまでは取っておきたかったが、ここで使わせて貰うぜ」

 ホリンは剣を鞘に納め、腰を落としてファイティングポーズをとる。

 やっぱりそうだ。
 この二人は俺が訓練場で見せたあの最強コマンドを使ったんだ。

「マール、あの時お前がどうしていきなり強くなったのかずっと考えていたんだ。それで模擬戦の前にお前がやってた事を再現してみたら……大当たりだ。これも呪術って奴なんだろ?」

めろホリン、あれはダメだ……」

 俺は必至でホリンを止めようと駆け寄るが、それをミーリャが止める。

「おっと、ホリンの邪魔はさせないよ」

「どいてくれミーリャ。訓練場以外であれをやるとホリンが死ぬぞ」

「そんなでたらめ信じると思ってんの? 超ウケるゥ」

 ミーリャは俺の言う事に全く耳を貸さない。

 その間にホリンはあのを実行する。

 ジャンプ。
 ジャンプ。
 しゃがみ。
 しゃがみ。
 左ウィービング。
 右ウィービング。
 左ウィービング。
 右ウィービング──

 そうだ、ユフィーアがいる。
 ユフィーアならば力ずくでも止められるはずだ。

「ユフィーア、ホリンを止めてくれ!」

「え? は、はい」

 しかし状況が把握できないユフィーアは反応が遅れた。

 ──ガード。
 パンチ。

 遅かった。
 ホリンのは完了してしまった。

「はははっ、これでこの俺は史上最強に……うげばっ!?」

 ドオオオオオオオオン……

 次の瞬間、ホリンの身体は轟音を響かせて爆発した。

「ホリン……だから止めたのに……」

 あの最強コマンドが有効なのは訓練場の中だけだ。
 それ以外の場所で実行すると、ただの自爆コマンドになってしまうのだ。

「え? どういうことマジこれ? ホリン? 何の冗談? あ……あはははははっ」

 それを見たミーリャはショックでおかしくなってしまった。

「あははははっ」

 ミーリャはヘルバイパーに背中を見せ、反対方向に走り出す。
 その隙を逃がすヘルバイパーではない。
 その大きな口を広げてミーリャを丸飲みにしようと飛びかかる。

「させません!」

 間一髪、ユフィーアの剣がヘルバイパーの頭部を切り落とす。
 勇者の手にかかれば討伐推奨レベル50の魔獣も一撃か。

「あは、あははは……」

 ミーリャは混乱したまま走り続ける。

「おい、ミーリャ離れるな……」

「あははは……あばっ」

 次の瞬間。ミーリャの身体は巨大な茶色の影に踏み潰された。

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