29 / 56
第29話 久々の帰国
しおりを挟む
「……改めまして、イザベリア聖王国の聖女、シェリナ・ティターニアです」
「宜しくね、シェリナちゃん」
私は魔王城内のグルヴェイグさんの部屋でお茶をごちそうになっていた。
色々と誤解も解けたので、私がイザベリア聖王国に帰る話は保留になった。
私の思いつきによる魔界への内政干渉についても特に誰も問題視していないようだ。
むしろ魔界が発展するのなら逆にもっと知恵を貸して欲しいとまで言われてしまった。
「シェリナちゃんが帰国するのを思い留まってくれて本当に良かったわ。それにしてもあの子も情けないわね、引き止めもしないなんて。一発引っ叩いてやったけどあれで懲りたかどうか」
あの時の音はグルヴェイグさんがアザトースさんにビンタをした音ですか。
アザトースさんに非があったとは思わないけど、確かに引き止めて貰えなかったのは少し寂しかも。
「それにしても、魔族の天敵である私が本当にこのままここにいても良いんでしょうか?」
「あの子がそうしたいって言ってるんだから問題はないんじゃない? 私としても、老いては子に従えって言うし、特に不満はないわ」
老いては……?
人間である私には、グルヴェイグさんは私よりもちょっと年上の──20台位の──若い女性にしか見えない。
魔族も人間も寿命はあまり変わらないのにこれは一体。
世の中不公平だ。
「それでシェリナちゃんは四六時中こんな陰気な城の中にいて嫌になったりしない?」
「イザベリア聖王国の王宮に住んでいた頃から引き籠っているのは慣れていますので。それに教師をするようになってからは毎日のように外に出ています」
「城の中が学校の中に変わっただけじゃない。だめよそんな事じゃ。偶にはもっと羽を伸ばさないと」
そう言いながらグルヴェイグさんは冗談めいて背中の翼をバサバサと羽ばたかせる。
「そうだ、せっかく一度は人間界に帰る決意をしたんですもの、久しぶりに一時帰国をして様子でも見てきたら? あれから一度も帰ってないんでしょ?」
「帰国を止めておいて今度は後押しするんですか?」
確かに私がこの城に来てからの数ヶ月、勇者オルトシャンから聞いたのを最後にイザベリア聖王国の情報は全く私の耳に入って来ない。
それに教会の皆があれからどうなったのかも気になる。
「それも良いかもしれませんね」
私は少し考えた後、首を縦に振って答える。
「決まりね。イザベリア聖王国まで距離もあるし、あの子に送らせるわ。ちょっと待っててね」
「え?」
少ししてグルヴェイグさんに呼ばれたアザトースさんが部屋の中に入ってきた。
「お袋から話は聞いた。イザベリア聖王国まで俺が送ろう」
「えー……?」
里帰りを魔王に送り迎えしてもらう聖女って何なんだろう。
断らないアザトースさんもアザトースさんだ。
私は呆れながら質問する。
「アザトースさん、暇なんですか?」
「いや、やる事は色々あるが……俺も偶には気晴らしをしないとな」
「……分かりました。それじゃあお願いします」
城の外に出ると、いつも通りアザトースさんが私を抱きかかえて翼を羽ばたかせる。
魔族とはいえ男性に抱きかかえられながら空を飛ぶのだけは何度経験しても慣れない。
アザトースさんに変な気はないんだろうけど、どうしても意識をしてしまう。
これが物語の中の騎士と姫様だったのなら、お姫様だっこをされている私はそのまま騎士様の首の後ろに両手を回してしがみついていればいいんだろうけど、さすがにただの居候である私にそんな事をされたら迷惑だろうな。
私はとりあえず手持無沙汰になっている両手が空を飛ぶ風圧でぶらぶらしないように腕を組んで固定する。
うん、何だろうこの絵面は。
知らない人が見たらどう思うだろうか。
私だったら間違いなく二度見する。
誰も見ていない事を祈る。
「宜しくね、シェリナちゃん」
私は魔王城内のグルヴェイグさんの部屋でお茶をごちそうになっていた。
色々と誤解も解けたので、私がイザベリア聖王国に帰る話は保留になった。
私の思いつきによる魔界への内政干渉についても特に誰も問題視していないようだ。
むしろ魔界が発展するのなら逆にもっと知恵を貸して欲しいとまで言われてしまった。
「シェリナちゃんが帰国するのを思い留まってくれて本当に良かったわ。それにしてもあの子も情けないわね、引き止めもしないなんて。一発引っ叩いてやったけどあれで懲りたかどうか」
あの時の音はグルヴェイグさんがアザトースさんにビンタをした音ですか。
アザトースさんに非があったとは思わないけど、確かに引き止めて貰えなかったのは少し寂しかも。
「それにしても、魔族の天敵である私が本当にこのままここにいても良いんでしょうか?」
「あの子がそうしたいって言ってるんだから問題はないんじゃない? 私としても、老いては子に従えって言うし、特に不満はないわ」
老いては……?
人間である私には、グルヴェイグさんは私よりもちょっと年上の──20台位の──若い女性にしか見えない。
魔族も人間も寿命はあまり変わらないのにこれは一体。
世の中不公平だ。
「それでシェリナちゃんは四六時中こんな陰気な城の中にいて嫌になったりしない?」
「イザベリア聖王国の王宮に住んでいた頃から引き籠っているのは慣れていますので。それに教師をするようになってからは毎日のように外に出ています」
「城の中が学校の中に変わっただけじゃない。だめよそんな事じゃ。偶にはもっと羽を伸ばさないと」
そう言いながらグルヴェイグさんは冗談めいて背中の翼をバサバサと羽ばたかせる。
「そうだ、せっかく一度は人間界に帰る決意をしたんですもの、久しぶりに一時帰国をして様子でも見てきたら? あれから一度も帰ってないんでしょ?」
「帰国を止めておいて今度は後押しするんですか?」
確かに私がこの城に来てからの数ヶ月、勇者オルトシャンから聞いたのを最後にイザベリア聖王国の情報は全く私の耳に入って来ない。
それに教会の皆があれからどうなったのかも気になる。
「それも良いかもしれませんね」
私は少し考えた後、首を縦に振って答える。
「決まりね。イザベリア聖王国まで距離もあるし、あの子に送らせるわ。ちょっと待っててね」
「え?」
少ししてグルヴェイグさんに呼ばれたアザトースさんが部屋の中に入ってきた。
「お袋から話は聞いた。イザベリア聖王国まで俺が送ろう」
「えー……?」
里帰りを魔王に送り迎えしてもらう聖女って何なんだろう。
断らないアザトースさんもアザトースさんだ。
私は呆れながら質問する。
「アザトースさん、暇なんですか?」
「いや、やる事は色々あるが……俺も偶には気晴らしをしないとな」
「……分かりました。それじゃあお願いします」
城の外に出ると、いつも通りアザトースさんが私を抱きかかえて翼を羽ばたかせる。
魔族とはいえ男性に抱きかかえられながら空を飛ぶのだけは何度経験しても慣れない。
アザトースさんに変な気はないんだろうけど、どうしても意識をしてしまう。
これが物語の中の騎士と姫様だったのなら、お姫様だっこをされている私はそのまま騎士様の首の後ろに両手を回してしがみついていればいいんだろうけど、さすがにただの居候である私にそんな事をされたら迷惑だろうな。
私はとりあえず手持無沙汰になっている両手が空を飛ぶ風圧でぶらぶらしないように腕を組んで固定する。
うん、何だろうこの絵面は。
知らない人が見たらどう思うだろうか。
私だったら間違いなく二度見する。
誰も見ていない事を祈る。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!
吉野屋
恋愛
母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、
潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。
美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。
母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。
(完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)
そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。
朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。
そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。
「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」
「なっ……正気ですか?」
「正気ですよ」
最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。
こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる