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第25話 雨降って地固まる

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「こら、やめなさいバルカスくん!」

「うわああああああああああああ!」

 アンリマンユ先生が止めるのも間に合わず、怒りに我を忘れたバルガスくんが放った炎の球は校庭の中央で爆発した。

 辺りに炸裂音が轟き、生徒達の悲鳴と鳴き声が響き渡る。

 私は咄嗟に校舎から飛び出して生徒達に駆け寄った。

「みんな大丈夫? 怪我はない?」

「シェリナ様、バルガスくんとシュウくんが……」

 幸い他の生徒達は離れていたので無事だったが、当事者であるバルガスくんとシュウくんが至近距離で炎の球の爆発に巻き込まれて負傷をしていた。

「痛い、痛い……」
「血が止まらないよお」

「大変!」

 私は二人に駆け寄ると、祝福の歌を口ずさんだ。

「ラー、ラー……」

 周囲が淡い光に包まれ、傷だらけだった二人の身体はあっという間に完治した。

 二人が回復したのを確認した私はまずバルガスくんの頭にげんこつを振り下ろした。

「いたっ」

「ちゃんと先生のいう事を聞かないからこうなるんです」

 続いてシュウくんの頭にもげんこつを振り下ろす。

「いてっ、どうして僕まで……」

「バルガスくんが怒ったのはシュウくんがからかった事が原因です」

「……」

 最初は不満そうにしていたシュウくんも、私の言葉にハッとする。

「はい、お互い自分が悪かった部分を反省したら仲直りをしなさい」

「……怪我をさせてごめんなさい」
「……からかったりしてごめんなさい」

 お互いに謝り、ぎこちなく握手をして仲直りをする。

 これにて一件落着……かな?

「それじゃあアンリマンユ先生、授業を続けて下さい」

「はい。いつ見てもシェリナ様の治癒の力は素晴らしいですね」

「私もアンリマンユ先生の魔法の数々には驚かされています」


 その後の魔法の授業は滞りなく進み、昼食を挟んで午後には道徳の授業が行われる。

 私は今日こそ生徒達の心を動かしてみせると意気込んで教室の扉を開き、教卓へと足を進めた。

「起立!」

 その瞬間、シュウくんの号令が教室内に響いた。

「礼!」

「「「お願いします!」」」

「着席!」

 いつもと違う雰囲気に私は戸惑いながら授業を始めた。

 今日はお互いに対立していた二つの家に生まれた男女が恋に落ち、運命いに翻弄された末に共に命を落としてしまうという悲劇の話だ。

「──こうして、ロミーとジュリエールという二人の尊い命を奪ってしまった両家は、自らの愚かしい行為に大いに後悔の念を抱き、和解をして共に手を携えて生きていく事を選んだのです」

 昔観た演劇をモチーフにして、私なりにアレンジをしたお話だ。
 この話を聞いて争う事の不毛さを理解して貰いたい。

「どうかな、みんな私が言いたい事分かった?」

 私は生徒達を見回し反応を伺う。

「……なんか今日のシュウくんとバルガスくんみたいだったね」

「う、うるせー!」

「やっぱり喧嘩はダメなんだよ」

「あそこにシェリナ先生がいたらロミーもジュリエールも死なずに済んだかもしれないのにね」

 雨降って地固まるというべきか、どうやら生徒達は分かってくれたようだ。
 私の教育がようやく実を結んだ瞬間である。


 感慨に耽る私の前に二人の女生徒が歩み出て口を開いた。

「でもシェリナ先生、ロミーもジュリエールもどっちも男の子みたいな名前ですね……それってつまり……」

「え!? そうなの?」

 適当に付けた名前だからそんな事考えもしなかった。
 そもそも魔族の男女の名前の付け方の違いなんて知らないし。

「いいですね、インスピレーションが湧いてきました!」

「私達、人間の小説って文化に憧れてるんです。この話を元に一作書いてみます!」

「は、はぁ……頑張ってね」

 どうやら魔界で新しい文化が花開く瞬間に立ち会ってしまった気がする。

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