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第31話 特殊性癖

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 アルテマ達が全滅した頃、鈍異病院で惰眠を貪っていたクロードは漸く目を覚ました。

「ふわぁーあ、よく寝た。そろそろ斥候に出たゾンビ達が帰ってくる頃かな。それにしてもやけに静かだな?」

 クロードは寝ぼけ眼を擦りながら訝しげに部屋を出る。

 院内を見回すとそこにいるはずの仲間達は誰一人としていなかった。

「あいつらどこへ行きやがったんだ? まあいい。あんな奴らいなくても俺にはかわいいゾンビ達がいる」

 クロードは自分が嫌われ者という事を自覚している。
 仲間たちが自分に愛想を尽かして離反したとしても予想の範疇だったので特に気にする様子もない。

 逆に院内に自分一人だけしかいないこの状況を好都合とさえ思った。

 クロードはアビゲルとディアネイラのゾンビを待機させている隣の部屋へと移動する。
 主人に何の命令も与えられていないゾンビは一見ただの死体と変わらない。

「そろそろ起きろよお前ら」

 クロードが床に転がっている二人のゾンビに声を掛けると二人の屍は不自然な動きでむくりと上体を起こし、黒く淀んだ瞳でクロードの方をじっと見つめる。

 そこには生前の彼らの意識は全く感じられず、魂を持たないその肉の塊はまるでからくり人形のようにも見えた。

 クロードはそんな二人のゾンビを舐め回すように眺めながら言った。

「生きている頃は口うるさいだけで鬱陶しかったこいつらもこうなってしまえば可愛いものだな。よしアビゲル、お前は入り口を見張っていろ」

「あー……うー……」

 アビゲルの死体は呻き声を発しながらゆっくりと部屋の外へ出ていった。

 今この部屋の中にいるのはクロードとディアネイラの死体だけだ。

「前から思ってたんだが、お前は黙っていれば本当にいい女なんだよな。今のお前は綺麗だぜ……ヒヒヒ……じゅるり……おっと、涎が出てきたぜ」

 クロードは気味の悪い笑みを浮かべながらディアネイラの死体に近寄るとその身体をまさぐりだした。

「へえ、修道服の上からじゃあ分からなかったが、なかなかどうして……もっと魅力的にしてやるぜ。ぐへへ……」

 クロードは手にしたナイフでディアネイラの修道服をズタズタに切り裂く。
 あっという間にディアネイラはゾンビ映画に出てくるゾンビのような恰好にされてしまった。

「ヒヒヒ、この姿の方が似合っているぜ。これからたっぷりと可愛がってやるからな」

 クロードはディアネイラの死体を抱き寄せると、頬を舐めたり胸を揉んだりし始めた。

「さて、こっちの具合はどうかな」

 クロードがディアネイラのスカートの裾に手を伸ばした時だった。

 バタンと勢いよく入り口の扉が開いた。

「誰だ!? ……なんだアビゲルか。何かあったのか?」

「あ……が……」

「ちっ、何言ってるのか分からねえ。知能の調整を誤ったか?」

 アビゲルはそのままふらふらとクロードに近付く。

「何なんだ一体。今いいところなんだ、用が無いなら言いつけ通り外で誰か来ないか見張ってろ」

 しかしアビゲルは一向に歩みを止めない。
 その時になってクロードはようやく異常に気が付いた。

「おいアビゲル止まれ。そこから動くな。俺の言う事が聞けないのか? おい!」

「があっ!」

「おい、アビゲル!?」

 アビゲルは既に死体となっているその肉体には決して存在するはずがない凄まじい殺気を放ちながらクロードに襲い掛かった。

 あり得るはずがないその状況にクロードは一瞬判断が遅れ、アビゲルにその首根っこを掴まれる。

 仮にもSランクの冒険者のゾンビである。
 魔法使い職とはいえその握力は相当なものだ。

 クロードは意識を飛ばしかけるが、クロードもまたSランクの冒険者である。

「くそっ、お前はもう必要ねえ!」

 クロードは冷静に手にしたナイフでアビゲルの両腕を切断し、それでもまだ首を絞める力を緩めないアビゲルの両腕を強引に外し、投げ捨てる。

 これでアビゲルは無力化したはずだった。



 ガシッ。


 クロードは背後から更に何者かに首を掴まれた。


「今度はなんだ!?」


 クロードが振り向くと先程まで人形のようにおとなしくされるがままになっていたディアネイラの死体が両腕を上げ自分の首を絞めているのが見えた。


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