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本編
15、ルークと冒険者ギルド
しおりを挟む冒険者という職業がある。
身分に関係なく、誰でもなることができる職業だ。
王でも貴族でも平民でも奴隷でも(奴隷の場合は主の許可が必要)、冒険者ギルドで登録すればその瞬間から冒険者だ。
カーディナル王国3代目の王も冒険者となって魔物を倒して実力を付け、その時に仲間になった奴隷の少年と共に、戦争に勝利した。そんな英雄王と奴隷王の話は、子どもに今なお語り継がれるほど人気だ。
貴族にとっては箔が付き、平民にとっては立身出世のチャンスが舞い込むこの仕事に就く者は多い。
高位貴族でも軍関係の貴族は冒険者登録をしてあることが多いし、平民や下級貴族は上級冒険者になれば騎士として取り立てられる可能性が高くなる。
まさに実力の世界。
夢を見る者は少なくない。
その冒険者を統括するのが冒険者ギルドであり、国境を超えた国際組織として存在している。
俺が知る限りバルド半島の国々と山脈を超えたイガル帝国とさらにその奥のクロノ王国とも繋がっているらしい。
なんでも何百年も前に国を跨って出現した魔物を討伐する時、外交問題でなかなか連携が取れなくて大きな被害が出たそうだ。
それ以来冒険者ギルドの地位を確固たるモノにする為に、さまざまな改革がなされ、有事の際にはたとえ王命でも拒否権がある。
冒険者ギルドでは、12歳になれば仮登録が出来る。あくまで仮なので、子どもでも出来るような雑用がメインだ。そして、依頼をこなす際には、必ず正規の冒険者と共にしなければならない。子どもが餌食にならないように、かなり厳しく冒険者ギルドの管理下に置かれる。
そして正規の登録は15歳以上から可能になる。上限はないが、よぼよぼのジジイがなろうとしたら職員が止めに入るだろう、多分。
なので15歳である俺は、王都に二つあるうちの西の冒険者ギルドの前に立っている。
王都には東西に一つずつ冒険者ギルドが存在する。
東は主に貴族や富豪が住むエリアの近くにあり、所謂富裕層向けの依頼が多い。
剣や魔法の家庭教師や貴族の護衛など、それなりの教養や知識が必要となってくる依頼だ。
反対にある西は、それ以外。
荒くれ者が多く、依頼もピンからキリ。
こちらの方が一般的なギルドで、東のギルドは王都特有だろう。
俺はそのピンの方を求めて西のギルドにやって来た。
普通に働いていたら、何年経っても家から独立する事はできない。
そう、俺は独立する為に冒険者になろうとしている。
お嬢様とあの家を出る。
あの家は父であるロバートが当主で、当主の判断一つで全てが決まってしまう。
当然だが、当主の最優先は家の存続と発展。
そして俺の最優先事項はお嬢様。
この先、決定的な対立関係になる前に、ロバートの庇護下から逃れたい。
英雄王みたいな名誉はいらない。
とにかく合法的に金を稼ぎたい。
そして俺は冒険者ギルドの門を叩く。
と言っても扉を開いて普通に入っただけだが。
入った瞬間、ムワッとした。
汗と土と、何か臭い。
今すぐ帰ってお嬢様を抱き締めて、首筋に顔を埋めたくなった。
辺りを見回すと、若い男、ムサい男、ゴツい男、小さい男、がっしりした女…女だよな?
9割が男だった。
体力が求められ、危険が多い仕事だから仕方がないかもしれないが、それにしても環境が悪い。
そんな地獄のような場所で異彩を放っているのが受付である。
胸元がバッチリと開いた見目麗しい若い女ばかりだ。
男の冒険者のやる気を出させる為に、こういった人材を揃えているようだ。
そんなもんなのかと疑問に思っていたが、顔を赤くして武勇伝を自慢げに受付嬢に語っている冒険者の男を見ると効果絶大みたいだ。
それぞれの受付嬢の列にバラ付きがあるのは、人気順か?
一番列が少ない受付嬢の前に並ぶ。
数分待っていると自分の分が回って来た。
「冒険者登録をしたいのだが…」
「…ふぇっ?」
何か変な事を言っただろうか。
俺が話しかけた受付嬢は顔を赤くして、ぽーっとしている。
風邪か?
困ってその隣の受付嬢を見ても同じ感じでこちらを見ている。
何なんだ一体?
「はっ、申し訳ございません。登録ですね。ではこちらへどうぞ」
並んでいた場所とは別の場所に移動させられ、説明を受けた。
「初めまして、当ギルドの職員のレナと申します」
挨拶をした受付嬢は、一言でいうと地味だった。
他のと比較すると、だが。
薄茶色の髪のおかっぱ頭にソバカスのある顔。胸元が開いている服を何とか閉じようとしていて、他の受付嬢より肌面積が狭い。
「あのぉ…こちらは西地区の冒険者ギルドですがよろしいのですか?」
「?あぁ、そのつもりで来たんだが?」
「…そうですか。わかりました」
差し出された紙に記入する。
名前、性別、年齢、出身、特技など。
簡単に書いて、渡す。
「……ウェルチェスターって、まさか侯爵家の…?」
「そうだ」
俺のような文官系の高位貴族の中に、冒険者になろうとする奴は殆どいない。
「ほ、本当に当ギルドでの登録でよろしいのですか?」
「はぁ…ここでは貴族の登録は出来ないのか?」
「…いえ、そういう訳ではありません。申し訳ございません。では説明させて頂きます。登録情報を元に冒険者プレートを作成致します。それを必ず首に下げてください。身分証明になります」
その後も長々と説明は続いた。
冒険者にはランクがあり、Fから始まり上位はA、S、SSとなる。S Sランクの冒険者はこの国にはいない。
過去でもその称号を手にしたのは3代目の英雄王のみだという。
ランクによって受けられる依頼が限られる。
受けられるのは自分のランクか一つ上のランクの依頼しか受けられない。
依頼とは別に指令があり、これはギルドから出される。
緊急指令の場合は、特別な理由がない限り、ギルドに登録されている冒険者は受けなければならない。
「その他はですね、同じ一党に上級ランクの冒険者が入ればその冒険者のランクの依頼を受ける事が可能です。昇級するには依頼をこなして、私共ギルド職員の推薦が必要となります。面接で、経験、知識、人格が精査され、合格したら昇級となります。逆にギルド規約を違反した場合、一番重い処分ではギルド名簿から除名、二度と冒険者としての仕事は受けられなくなりますので規約には目を通してください。何かわからない事がございましたらいつでも私共にお聞きください」
「ふむ…」
ランクを上げる事には興味ないが、ギルド内での立場が上がる程、動きやすくなる。あまり上がると面倒くさい事になるかもしれないから、CかBくらいまでは欲しい。
「あの…」
「何だ?」
「学園を卒業となっているのですが、在学の間違えでは…?」
「卒業で間違いない。何なら学園に聞け」
「えっと…魔法騎士科を御卒業という事は、魔法も使えると…?」
「あぁ…」
「そうですね…ではちょっとした試験、受けてみる気はありませんか?」
「試験?」
「はい、魔法が使えたり実戦経験がある人もみなさんと同じFランクから始めるのは勿体ないので、試験を受けて頂いて、合格したらEランクから始めることが可能です」
なるほど、話を聞いてると、ランクをあげるのはかなり時間が要るようだし、良いかもしれない。
「わかった、受けよう」
「はい、ではちょっとギルドマスターに相談してきますね」
これで俺の初依頼が決まった。
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