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プロローグ
1、お嬢様と私の前世
しおりを挟む私の前世の話をしようーーー
私は前世を覚えている。
私の前世は、しがない地方領地の男爵令嬢だった。
大した特産品もなく、戦争での実績もない。雇っている使用人など、畑仕事をリタイヤした老人ばかり。
典型的な貧乏貴族だ。
しかし、私の才能は非凡だった。
底が見えない魔力量、人より優れた知能、身体能力。
幼い頃から天才と言われ、王都の学校に呼ばれるのは必然だった。
地方では天才ともてはやされていたが、高位貴族が集まる王都では、そんな才能も埋もれてしまうーーーことはなかった。
そこでもやはり私は、天才だった。
入学試験の筆記も実技も、幼い頃から英才教育を受けている中央貴族たちを蹴散らし、断トツの首席。
そして高位貴族の男たちの目に留まる。
もう顔も名前も覚えていないが、言い寄ってきた男は4人。
第一王子、侯爵家嫡男、王室魔術師長男、騎士団長次男。
それぞれ家柄と容姿に絶対的な自信を持ち、婚約者がいた。
私とは縁のない人たち、と思っていたのに、入学式の校門での出会いを皮切りに、教室で、食堂で、街中で、有り得ない頻度で顔を合わせることになる。
何故高位貴族がそこら辺をぶらぶらしていたのか謎だが、他の令嬢には幸運なことでも、私には不運だった。
まず身分違いも程がある。
男爵など、貴族でも下の下。その中でも地方田舎の私の家など、最下層と言っても良い。
いくら能力があっても、身分差を埋めることはできない。
良くても愛人や第二夫人に以下に収まるしかないが、そんな気にはなれなかった。
だから彼らとは距離を取りたかったが、避けても避けても未来予知していたかのように、行く先々で出会う。
微笑みかけ、話しかけてくる彼らは決して紳士的ではなかった。
やたらと体をベタベタ触り、顔を近づけ、密着してきた。
ベンチに座っていた時など、腰に手を回し、擦り寄り、空いている手で太腿を撫で回してきた。
男の中心を起立させながら。
自分より身分が上なので、拒否することも出来ず、されるがままだったが、キスされそうになった時にどうにか脱出した。
そういったことが何度か続き、身も心もボロボロになり、1人で何度も泣いた。
その姿をじっと見ていた人がいたのにも気づかなかった。
そして、事件は起こる。
何度も口説いているのになかなか落ちない私に痺れを切らした王子たちが起こしたレイプ未遂事件。
私は魔法無効の首輪を付けられ、人気のないところに連れ込まれ、押さえつけられた。
奴らの目には愛情ではなく、憎悪に満ちていた。
プライドの高い彼らは、私の態度が許せなかった。
たかが男爵令嬢、たかが女に。
そんなところだろう。
私の選択は間違っていなかった。
ただその代償がこれだった。
それだけのこと。
1対4。
圧倒的な力の差に絶望し、諦めていたところに、救いの女神はやってきた。
第一王子の婚約者である公爵家令嬢がいた。
未来の王妃に相応しい凛とした態度、美しい顔立ち、光り輝く金の髪。
馬鹿な男たちの顔は覚えていなくても、彼女の顔は一生忘れない。
彼女がその場に現れた瞬間、彼女は私の唯一となり、絶対となった。
彼女はその後、事件の収拾の全てを担った。
事件とはいえ、未遂で被害者は男爵家。
普通なら何の音沙汰もなく終わるはずだったが、彼女はそうはしなかった。
どうやったかはわからないが、王子は廃嫡、その他の男どももそれに近い処分わ受けた。
私は領地に戻って療養していたので知らなかったが、王都はだいぶ混乱したようだ。
私が事の顛末を全て知ることになったのは、わざわざ彼女が私のところに来て、話してくれたからだ。
彼女は私を見るなり謝罪した。
元王子たちの愚行、そして事件が公になり、私の身に起こったことが広まってしまったこと。
彼女が謝ることなど、これっぽっちもない気がしたが、収まりがつかなかったので、受け入れた。
彼女だって、おそらく破談となったであろう。
一度破談された令嬢が、再婚約するのは難しい。しかも彼女は婚約者である王子を追いやったのだ。
彼女が負った不利益は、私の比ではないだろう。
何故そんなにも私に良くしてくれたのか彼女に聞いた。
側から見れば、私は王子たちを誑し込んでいる卑しい男爵令嬢だ。
実際、そう言われていた。
「貴方が泣いていたから……」
まるで聖女のような微笑みは、私を決心させるのには十分だった。
私はその場で髪を切り、彼女に渡した。
「私の全てを貴方に捧げます、お嬢様」
私はお嬢様を守る騎士となった。
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