上 下
7 / 9

なな

しおりを挟む
「何にも無いってことは、元夫のことは愛していないってことでいい?」

「愛どころか、情すらありません。」

考えても、考えても何にも出てこない。
せめてルディの父親だと思って見ようとしたけど、父親だとも思えなかった。というかわたくしが父親の気持ちになっていましたわ。母親?だって優秀な乳母がいますもの。

「何も無いのです。」

逆に何もなさすぎてガッカリです。
わたくしという人間の空虚さを物語っているようです。

「じゃあ、私が求婚しても問題ないかな?」
「キュウコンですか?」
「そう。君に結婚を申し込みたい。」

いつもと変わらない笑顔のラリー先生は、どこから取り出したのか、色とりどりの花束を抱えて、わたくしの横に跪きました。

「キャロル嬢。私と結婚してほしい。
 君が傷心なら、その傷が癒えるまで待とうと思っていたんだ。君の心があの男にないなら、考えてほしい。」

傷心が癒えるまでなんて……。
わたくしでしたら、きっと傷心につけ込んでしまいますわ。弱いところを打つのは勝負の基本ですもの。
いけない!こういう所ですわ、わたくしの女性らしくない所は!

「……わたくし、ラリー先生のことを愛せるかわかりません。」
「いいよ。それでも私は君を支えていきたい。
 君の愛するルディとこの子爵領をね。」
「もし、結婚しましても、わたくしとラリー先生の子どもはこの子爵領を継げませんのよ。」

現在のカイエン子爵はルディです。
わたくしはルディの後見人でしかありません。今は暫定的にカイエン子爵夫人を名乗っておりますが、ルディが成人した暁には、わたくしの身分はなくなってしまうのです。

「嬉しいな。もう私たちの子供のことまで考えてくれるのかい?」

ラリー先生がはにかみながら、わたくしの頬に手を伸ばします!
どうしましょう!ラリー先生ってこんなに色気がダダ漏れな人でしたか?

「キャロル。私は君を愛してる。」
「ふぁっっ!!」

あ、愛してるなんて!家族以外に初めて言われました。
顔が、顔が熱いです。
多分赤いです!真っ赤な気がします!!

「でも…わたくし、上手く結婚できるか……全然可愛くないし、領主代行の仕事もある、し、結婚には向いてないのでは?と思うのです。」

ああ、もう。ほんと可愛くないです。
愛してる、と言われて素直に返せない女なのです!

「キャロル。」

ラリー先生は花束をテーブルに置くと、わたくしの手を、優しく握ってくれました。

「上手く出来なくてもいいよ。
 ずっと領主の仕事を頑張ってきたんだ。結婚したらたくさん私に甘えてほしい。」

「………はい」

手に柔らかな口付けを落とされるのが、恥ずかしくてたまりません!
小さく返事するだけでやっとです。
こんな恥ずかしいこと、慣れていないのです。

「ラリー先生。」
「ラリーと呼んでくれるかい?」
「…ラリー」

ラリーの今まで見たことのない笑顔に、なんだか泣きそうなくらい嬉しくなってしまいました。
わたくし、甘えていいのでしょうか?

「一緒に歩いてくれますか?ずっと、一生。」
「もちろん。ずっと一緒に歩いていこう。」





************

それから1年後、わたくしはラリーと結婚しました。

結婚式はルディとリシュタット家の家族で慎ましく行いました。それでもカイエン子爵邸の使用人だけでなく、領民の皆様がお祝いしてくれて、本当に温かな式でしたわ。
そうそう、式にはドルトイル辺境伯もいらっしゃってびっくりしました。
実はラリーはドルトイル辺境伯の甥にあたるそうです。ご両親はすでに他界されておりますし、家族の反対を押し切って結婚されたので、ドルトイル辺境伯とはあまり交流はしていなかったそうです。

「キャロル。とても可愛らしいね。花の妖精のようだよ。」

ラリーの達ての希望でフリルとレースがふんだんに使われたドレスに身を包み、頭にはベールではなく花冠がのせられています。

恥ずかしいです。
わたくし再婚で、子連れですのよ。痛々しくないですか⁈

「かあたま、よーせー。ちれーね。」

ラリーに抱っこされたルディが、小さな手でぱちぱちとしながら褒めてくれるのが救いですわ。

「ラリーは乙女チックすぎますわ。」
「ロマンチックと言ってほしいね。」
「ね。」

そう言って笑い合うラリーとルディはまるで本当の親子のようです。
ルディもいつかこんな乙女、いえロマンチストになるのでしょうか。

わたくしはラリーの目の色のリボンで束ねた花束を、青空に向かって投げました。


終わり
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。

入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

毒におかされた隊長は解毒のため部下に抱かれる

めぐめぐ
恋愛
分隊長であるリース・フィリアは、味方を逃がすために敵兵に捕まった。 自白剤を飲まされ尋問にかけられるところを、副長のレフリール・バースに救われる。 自国の領土に無事戻り、もう少しで味方陣営へ戻れるというところで、リースの体調に変化が起こった。 厳しく誇り高き彼女の口から洩れる、甘い吐息。 飲まされた薬が自白剤ではなく有毒な催淫剤だと知ったレフは、解毒のために、彼女が中で男の精を受けなければならない事を伝える。 解毒の為に、愛の行為を他人に課したくないと断ったリースは、自身を殺すようにレフに願うが、密かに彼女に想いを寄せていた彼は、その願いに怒り―― <全20話・約50,000字> ※2020.5.22 完結しました。たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございました! ※タイトル通り解毒と称して立場差のある二人が、ただイチャイチャする話(大体濡れ場)。 ※細かい設定(軍編成とか)はまあお気になさらず(;´∀`)

処理中です...