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ろく
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夫、エメリー・カイエンとの婚姻は、離縁という形で終了しました。2年ほどの短い結婚生活でした。
夫は愛人であるメリンダさんと仲良く暮らしているそうです。
いえ、もう愛人ではなくなるのでしょう。
「キャロル嬢。」
「あ。」
つい、執務室の机でぼんやりとしてしまったみたい。目の前にはラリー先生が、書類を手に立っていました。また心配させてしまったようです。
「え、と。なんのお話しでしたか。」
「……少し休憩しよう。」
「すみません……。」
離婚した後も変わらず、カイエン領の領地経営をすることになったわたくしを支えて下さるラリー先生にため息をつかせてしまいました。申し訳なくて声が小さくなってしまいます。
ラリー先生が休憩として準備させたのは、庭を見渡すサンルームでした。
小ぶりのテーブルには、お茶と最近辺境伯領からいただいた焼き菓子が並んでいます。
「キャロル嬢。エスコートさせていただいても?」
「ええ、よろしくてよ。」
茶目っ気たっぷりに、わたくしにエスコートを申し込むラリー先生の腕を取り、口元が緩むのを必死に誤魔化しながら、少し顎を上げてみせます。
そういえばわたくし、お父様以外の男性にエスコートしていただくのは初めてではないですか?
わたくしは領地経営にばかり気を取られて、女性らしいことは何もしていなかったのですね。
結婚して子どもを産んだからって、それでいいと、いい気になっていたのです。頭でっかちの未熟者です。
「やはり…」
ああ、また考え込んでしまって、ラリー先生の話を聞いていませんでしたわ。
最近こんなことばかりです。
「やはり、キャロル嬢はまだカイエン子爵、いやエメリー・ライテール卿と別れた事を後悔しているのかい?」
「え?」
「彼は褒められた夫ではなかったが、子を成した仲だ。他人には分からない情というものがあるのだろう。
だが、すでに離婚届は受理されているし、君はまだ若い。時間はかかるかもしれないが、いつか前を向いて幸せになってほしいと思っているんだ。」
「ちょちょ、ちょっと待ってください!」
え?ラリー先生は一体何を言っているのでしょう。
わたくしが夫の事を思い悩んでいるという事ですよね?
「あんな男のために悲しまなくていい。
君の、キャロル嬢の良さがわからないような男はこっちから願い下げだ!」
「ラリー先生、落ち着いてください!!」
いつも落ち着いているラリー先生が、支離滅裂になっています!
「違うのです!夫のことはなんとも思っていないのです。」
どうしましょう。
こんな事言っていいのでしょうか。
ラリー先生に軽蔑されてしまうかもしれません。
「………」
「すまない、いつも君はこんな結婚生活だというのに、表に出すことがないから、大丈夫なのだと勝手に思っていたんだ。」
ラリー先生が誤解してます!
あの夫との結婚を思い悩んでいたなんて、絶対ありません!
「……違うんです。わたくし… 夫の事を本当になんとも思ってなさすぎて。
結婚式のこととか、王都での生活とか全然印象に残ってなくて、領地に来てからはほとんど思い出すこともないなんて、わたくし、人としてダメなんじゃないかと思ってしまったのです。
夫は愛人の方と愛ある生活をしているのに、わたくしは政略結婚だからと子どもを作っただけで、夫の事を思い出しもしない!誰かを愛するという人らしい感情というものが無い、と思ってしまったのです。」
そう、いくら夫が他に愛する人がいると言っても、妻でしたら何か情があるものですよね。
結婚相手にすら、なんの情もないわたくしって……
夫は愛人であるメリンダさんと仲良く暮らしているそうです。
いえ、もう愛人ではなくなるのでしょう。
「キャロル嬢。」
「あ。」
つい、執務室の机でぼんやりとしてしまったみたい。目の前にはラリー先生が、書類を手に立っていました。また心配させてしまったようです。
「え、と。なんのお話しでしたか。」
「……少し休憩しよう。」
「すみません……。」
離婚した後も変わらず、カイエン領の領地経営をすることになったわたくしを支えて下さるラリー先生にため息をつかせてしまいました。申し訳なくて声が小さくなってしまいます。
ラリー先生が休憩として準備させたのは、庭を見渡すサンルームでした。
小ぶりのテーブルには、お茶と最近辺境伯領からいただいた焼き菓子が並んでいます。
「キャロル嬢。エスコートさせていただいても?」
「ええ、よろしくてよ。」
茶目っ気たっぷりに、わたくしにエスコートを申し込むラリー先生の腕を取り、口元が緩むのを必死に誤魔化しながら、少し顎を上げてみせます。
そういえばわたくし、お父様以外の男性にエスコートしていただくのは初めてではないですか?
わたくしは領地経営にばかり気を取られて、女性らしいことは何もしていなかったのですね。
結婚して子どもを産んだからって、それでいいと、いい気になっていたのです。頭でっかちの未熟者です。
「やはり…」
ああ、また考え込んでしまって、ラリー先生の話を聞いていませんでしたわ。
最近こんなことばかりです。
「やはり、キャロル嬢はまだカイエン子爵、いやエメリー・ライテール卿と別れた事を後悔しているのかい?」
「え?」
「彼は褒められた夫ではなかったが、子を成した仲だ。他人には分からない情というものがあるのだろう。
だが、すでに離婚届は受理されているし、君はまだ若い。時間はかかるかもしれないが、いつか前を向いて幸せになってほしいと思っているんだ。」
「ちょちょ、ちょっと待ってください!」
え?ラリー先生は一体何を言っているのでしょう。
わたくしが夫の事を思い悩んでいるという事ですよね?
「あんな男のために悲しまなくていい。
君の、キャロル嬢の良さがわからないような男はこっちから願い下げだ!」
「ラリー先生、落ち着いてください!!」
いつも落ち着いているラリー先生が、支離滅裂になっています!
「違うのです!夫のことはなんとも思っていないのです。」
どうしましょう。
こんな事言っていいのでしょうか。
ラリー先生に軽蔑されてしまうかもしれません。
「………」
「すまない、いつも君はこんな結婚生活だというのに、表に出すことがないから、大丈夫なのだと勝手に思っていたんだ。」
ラリー先生が誤解してます!
あの夫との結婚を思い悩んでいたなんて、絶対ありません!
「……違うんです。わたくし… 夫の事を本当になんとも思ってなさすぎて。
結婚式のこととか、王都での生活とか全然印象に残ってなくて、領地に来てからはほとんど思い出すこともないなんて、わたくし、人としてダメなんじゃないかと思ってしまったのです。
夫は愛人の方と愛ある生活をしているのに、わたくしは政略結婚だからと子どもを作っただけで、夫の事を思い出しもしない!誰かを愛するという人らしい感情というものが無い、と思ってしまったのです。」
そう、いくら夫が他に愛する人がいると言っても、妻でしたら何か情があるものですよね。
結婚相手にすら、なんの情もないわたくしって……
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