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はて?婚約破棄??

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ーーーお城の大広間

きらびやかな貴族の子息、子女たちが集うパーティー会場。下手から王子、ヒロイン登場。
周りからの礼を受けながら舞台中央へーーー

王子:
 今日のよき日に、この場で皆とこの宴を迎えられたことを嬉しく思う。
 これから私を含め、領主となるべく実地で学ぶもの、国のため仕官するもの、家のために働くもの。諸君の新しいスタートを祝い、輝かしい未来を祝福したいと思う。
 だがその前に、私は心を鬼にして悪を断罪し、我が王国の憂いを除かなければならない!
 そう、このまま私が見ないフリを続ければ、王室、ひいてはこの国に悪影響が出てしまうだろう。
アックヤーク令嬢!前にでよっ!

周りの人々は動揺をみせる。
上手から悪役令嬢登場

悪役令嬢:
 まあ、殿下。ご機嫌よう。
 婚約者たるわたくしのエスコートにいらっしゃらなかったので、ご欠席かと思っておりましたわ。

王子:
 ふっ。貴様のような悪女が婚約者など到底我慢ができん。今宵、この時を持って貴様との婚約を破棄する。

ーーー効果音




「……ラクシュエルっ!前にでよっ!」

「なぁへ?」
 ありえないほどよく通るその声に、ワタシの口からは思わず間抜けな声が出てしまったが、叫ばなかった自分を褒めてあげたい。

 学園祭の前夜祭の会場には沢山の生徒が集まって、第二王子殿下の開会宣言を待っていた。
 かくいうワタシ、フラン・ナーロも待ち侘びていた一人だ。
 なんと言ってもワタシの目の前には、キラキラ輝くようなスイーツブッフェがワタシを誘惑して離さないのだ。
 開会宣言が終われば、この甘い誘惑に身を任せることが許される!
 お小遣いに限りのあるワタシにとって、この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないのだ。ああ、あのマカロンは絶対にゲットだわ!!

 なんて呑気に思っていたのに、殿下の開会宣言はいつのまにか……

(なんで、殿下がワタシの書いた台本、完コピしてるのよ~~~っ!)

 そう、あの冒頭の長台詞は学園の演劇部のために書いた「バラ咲く庭であなたとお茶を」のクライマックスである、悪役令嬢断罪の場面の台詞と全く一緒である。悪役令嬢の名前が違うくらいだ。

「まあ、殿下。ご機嫌よう。」

 効果音が付かないのが不思議なくらい、満を辞して殿下の前に現れたのは、殿下のご婚約者であらせられる麗しのラクシュエル・プローシュタット様だ。

 真っ赤なドレスを颯爽と着こなし、艶然と微笑みながら殿下の元へと歩いていく様は、女王様いや、もう女神!!
 ってあれ?いつのまにドレスに着替えたのかしら?さっきまで制服だったよね?

「婚約者たるわたくしのエスコートにいらっしゃらなかったので、ご欠席かと思っておりましたわ。」

 エスコートって、必要ないよね。夜会じゃないし。なんなら朝から学校祭の準備して、ずっと顔突き合わせてましたよね。

「ふっ。貴様のような悪女が婚約者など到底我慢ができん。今宵、この時を持って貴様との婚約を破棄する!!」

「「「おおおおおっっ!!」」」

 効果音の代わりにドヨメキと、囃し立てる声やら指笛まで聞こえる。あれは演劇部の面々だ。不敬罪とか言われても知らないぞ。

「っっってぇっ!!なんじゃこりゃあっっ!!」

 会場の異様な盛り上がりに、急に殿下が叫び出したけど、誰も聞いてないし。今更「なんじゃこりゃあっ」てなに?
 
「皆さま。お静かに。」

 パンと手を叩いたラクシュエル様が周りを見渡すと、急にシンっと静まり返る。
 そうだよ、劇のセリフとはいえ第二王子殿下は「婚約破棄」って言ったよね?大丈夫なの?

「思いもよらず、我が演劇部の公開リハーサルゲネプロを見ていただいた方が多くて嬉しいですわ。ありがとうございます。」

 深いサファイアブルーの瞳を細め、微笑みながら周りを見渡すと、つられたのか周りの人達までうっとりと微笑む。

「マクシミリアン殿下におかれましても、大変気に入っていただいたようで重畳ですわ。
 皆様、ぜひ明日からの本公演にはいらしてくださいね。」
「俺は、演劇なんて軟弱なもんは好かん!!これは何かの間違いだと!!」
「存じておりますわ。」

 訳知り顔でうんうん、と頷いているラクシュエル様に、真っ赤な顔で否定する第二王子殿下。
 まるでラクシュエル様のために、隠れて観に行ったのを照れ隠ししているかのようではありませんか!!キュンキュンします!!殿下が必死に否定すればするほど、周りの皆さんの目線が生暖かくなっていくようです。
 ハクハクと声にならない叫びをあげている殿下を尻目に、ラクシュエル様は美しいカーテシーをして下がられました。

「そうそう、演劇部だけでは不平等ですので、是非とも他の活動のご紹介もよろしくお願いいたしますわ。」

 こうして会場が狐につままれたような雰囲気のなか、前夜祭は粛々と進行して、ワタシは満足のいくまでスイーツを堪能したのであります。

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