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愛ってなんぞや

第二十話

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「さあ、会議だ!」

 モルゼコフがパンパンと手を叩く。

 第一兵団長 ジェンズ・サッカレー大将
 第二兵団長 ワルター・ドレイル大将
 第三兵団長 バルドゥル・タイラー大将

 そして各兵団の副長もそろっている。
 統合本部長、参謀長、兵站長など軍幹部が、そして政治の代表としてレオンハルトとエーリク、そのほか文官たちの姿もある。
 そして、会議の議事録を残すため、ディアナとラビアが部屋の隅に控えている。



「モルゼコフ統合本部長閣下、今回の戦、リッホ砦の常駐軍に加え、我が第一兵団第二部隊、第三部隊、第五部隊及び第三兵団第一部隊、第二部隊でリッホ砦にて防衛戦を行うことは3日前の会議にて決定し、第一兵団、第三兵団共にリッホ砦に入っているが、我ら兵団長、突然の招集はどう言った意図があるのだろうか?」

 口火を切るのは第一兵団長のサッカレーだ。
 カヒル軍たたき上げの軍人で、生来の生真面目さと、他二人の兵団長より年長ということもあり、このような会議では必ず舵を取るのである。

「軍幹部だけでなく、政務官殿方も揃っているということはよっぽどの事態が発生したのか?」

 サッカレーの第一兵団と共にリッホ砦に向かう予定だったバルドゥルも、訝しげに会議の面子を見渡す。

 作戦会議は3日前に終わっている。
 慣れというわけではないが、ダイホイがリッホ砦に仕掛けてくるのはそう珍しいことではない。
 今回はタル王国と手を組んだため、いつもより大きな戦いになりそうだとは思うが、直前でモルゼコフが幹部を集めるのは珍しいことだ。


 モルゼコフは飄々とした態度を崩さず、レオンハルトを見やる。レオンハルトが資料に視線を落としたまま何も言わないので、軽く頭を振ると、いつもと同じ調子で続けた。


「バルド王国にタル王国が攻め込んだと報告が上がってきたんだよね。しかも第一の門が占拠されたらしい。」

 バルドゥルは素早く机に付いている者の顔を伺う。モルゼコフは当然だが、レオンハルトたち政務官は知っていたようだ。

 ディアナに目をやれば、いつもと同じ、全く表情は動いていないように見えるが、指先が震えている。

 もっと早く、いや会議の前に知っていれば、ディアナの耳に入らないようにしたのに…。


「で、バルド王国が攻められてるからなんだっていうんだ?タルの陽動作戦だといったらお粗末なものだ。」

 ドレイル大将が面白くなさそうに、机に肘をつく。

「そうだね、これは政治的な問題だ。バルド王国に救援を出すのかどうか?レオンハルト殿。」


「カヒル軍の方針はリッホ砦及びアデルジュールの死守だ。
 バルド王国は友好国ではあるが同盟は結んでいない。」

 妥当な判断だ。
 バルド王国は山と切り立った崖に囲まれた国だ。たとえタル王国に占領されたとて、カヒル国にはなんのダメージもない。

「だが、バルド王国には未だ手付かずの魔鉱石の鉱脈がある。それをみすみすタル王国に奪われるのは面白くないな。
 …政治的というなら、バルド王国から救援依頼が来てからでも遅くはないだろう。」

 手元の資料をパチパチと親指と人差し指で弾きながらレオンハルトは、魔鉱石の流通を苦慮しているのだろうか、視線がいろんなところを彷徨っている。

 救援依頼が来てから……果たして救援依頼を出せるような状況なのだろうか?

 バルド王国とタル王国には互いの関所があるが、バルド王国の守りは堅い。切り立った谷間を利用した街道の入り口に、第一の門という建物3階分ほどの高さととてつもない厚さのある石造りの塀と魔鉱で作られた門扉でできた門があり、そこから100メートルほど離れた第二の門によって守られたバルド王国は難攻不落とも言える。
 だが、その難攻不落の第一の門が占拠されたという。第二の門は第一の門ほど堅牢ではなかったはずだ。


「ディアナ君。君はバルド王国の出身だ。
 第二の門はどの位持つだろうか?」

「わかりません。タル王国がどのような方法で第一の門を占拠したのかがわからないので…。
 ただ一度門を破られ、中に入り込まれると、外からの攻撃は難しくなるかと思います。」

「ならば、今救援に行けば間に合うということだな。」

 モルゼコフに淡々と答えるディアナが痛ましいが、バルドゥルの意見には、サッカレーもドレイルも首を振る。

 タル王国に占拠された第一の門を攻略するには、相当の戦力が必要となるだろう。
 あいにくバルド王国に近い方面には、小さな砦しかなく、兵力を送るためには時間がかかる。

「バルドゥルの番の出身国かもしれんが、今はリッホ砦の方が重要だ!救援の部隊がさけるわけないだろう!」

 
 ドレイルの言うことがもっともだ。
 私情を挟むわけにはいかないこともわかっている。
 

「タイラー閣下。きっと大丈夫です。バルド王国のことは陛下や父がなんとかするでしょう。
 それに兄とフランツ王太子が動ければ、多分…。

 カヒル国にご迷惑はかけられません。」

「そんな顔で笑うな!」

 完璧なアルカイックスマイル作り笑いのディアナがびくりと震える

 バルドゥルは立ち上がると、ツカツカとディアナの前の机に手をつくと、ディアナの顔を覗き込む。

「ディアナ。カヒルもバルドも関係ない。
 君が望むなら俺が行くから。そんな辛そうな顔で笑うな。」


「いやいや、関係あるからね。お前はカヒル軍の軍人なんだから。」

 モルゼコフのもっともなツッコミに、バルドゥル以外の者は心の中で大きく頷くが、獣人の番に対する思いの深さも全員が理解している。たとえ自分にまだ番がいなくても、番が悲しんでいるのなら、なんとかしたいと思うのは当たり前だ。


「ディアナ君。君はさっき兄とフランツ王太子が動ければと言ったね。

 彼らならなんとかする方法があると言うことかい?」


「……軍事機密ですが。」



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