24 / 37
愛ってなんぞや
第二十話
しおりを挟む「さあ、会議だ!」
モルゼコフがパンパンと手を叩く。
第一兵団長 ジェンズ・サッカレー大将
第二兵団長 ワルター・ドレイル大将
第三兵団長 バルドゥル・タイラー大将
そして各兵団の副長もそろっている。
統合本部長、参謀長、兵站長など軍幹部が、そして政治の代表としてレオンハルトとエーリク、そのほか文官たちの姿もある。
そして、会議の議事録を残すため、ディアナとラビアが部屋の隅に控えている。
「モルゼコフ統合本部長閣下、今回の戦、リッホ砦の常駐軍に加え、我が第一兵団第二部隊、第三部隊、第五部隊及び第三兵団第一部隊、第二部隊でリッホ砦にて防衛戦を行うことは3日前の会議にて決定し、第一兵団、第三兵団共にリッホ砦に入っているが、我ら兵団長、突然の招集はどう言った意図があるのだろうか?」
口火を切るのは第一兵団長のサッカレーだ。
カヒル軍たたき上げの軍人で、生来の生真面目さと、他二人の兵団長より年長ということもあり、このような会議では必ず舵を取るのである。
「軍幹部だけでなく、政務官殿方も揃っているということはよっぽどの事態が発生したのか?」
サッカレーの第一兵団と共にリッホ砦に向かう予定だったバルドゥルも、訝しげに会議の面子を見渡す。
作戦会議は3日前に終わっている。
慣れというわけではないが、ダイホイがリッホ砦に仕掛けてくるのはそう珍しいことではない。
今回はタル王国と手を組んだため、いつもより大きな戦いになりそうだとは思うが、直前でモルゼコフが幹部を集めるのは珍しいことだ。
モルゼコフは飄々とした態度を崩さず、レオンハルトを見やる。レオンハルトが資料に視線を落としたまま何も言わないので、軽く頭を振ると、いつもと同じ調子で続けた。
「バルド王国にタル王国が攻め込んだと報告が上がってきたんだよね。しかも第一の門が占拠されたらしい。」
バルドゥルは素早く机に付いている者の顔を伺う。モルゼコフは当然だが、レオンハルトたち政務官は知っていたようだ。
ディアナに目をやれば、いつもと同じ、全く表情は動いていないように見えるが、指先が震えている。
もっと早く、いや会議の前に知っていれば、ディアナの耳に入らないようにしたのに…。
「で、バルド王国が攻められてるからなんだっていうんだ?タルの陽動作戦だといったらお粗末なものだ。」
ドレイル大将が面白くなさそうに、机に肘をつく。
「そうだね、これは政治的な問題だ。バルド王国に救援を出すのかどうか?レオンハルト殿。」
「カヒル軍の方針はリッホ砦及びアデルジュールの死守だ。
バルド王国は友好国ではあるが同盟は結んでいない。」
妥当な判断だ。
バルド王国は山と切り立った崖に囲まれた国だ。たとえタル王国に占領されたとて、カヒル国にはなんのダメージもない。
「だが、バルド王国には未だ手付かずの魔鉱石の鉱脈がある。それをみすみすタル王国に奪われるのは面白くないな。
…政治的というなら、バルド王国から救援依頼が来てからでも遅くはないだろう。」
手元の資料をパチパチと親指と人差し指で弾きながらレオンハルトは、魔鉱石の流通を苦慮しているのだろうか、視線がいろんなところを彷徨っている。
救援依頼が来てから……果たして救援依頼を出せるような状況なのだろうか?
バルド王国とタル王国には互いの関所があるが、バルド王国の守りは堅い。切り立った谷間を利用した街道の入り口に、第一の門という建物3階分ほどの高さととてつもない厚さのある石造りの塀と魔鉱で作られた門扉でできた門があり、そこから100メートルほど離れた第二の門によって守られたバルド王国は難攻不落とも言える。
だが、その難攻不落の第一の門が占拠されたという。第二の門は第一の門ほど堅牢ではなかったはずだ。
「ディアナ君。君はバルド王国の出身だ。
第二の門はどの位持つだろうか?」
「わかりません。タル王国がどのような方法で第一の門を占拠したのかがわからないので…。
ただ一度門を破られ、中に入り込まれると、外からの攻撃は難しくなるかと思います。」
「ならば、今救援に行けば間に合うということだな。」
モルゼコフに淡々と答えるディアナが痛ましいが、バルドゥルの意見には、サッカレーもドレイルも首を振る。
タル王国に占拠された第一の門を攻略するには、相当の戦力が必要となるだろう。
あいにくバルド王国に近い方面には、小さな砦しかなく、兵力を送るためには時間がかかる。
「バルドゥルの番の出身国かもしれんが、今はリッホ砦の方が重要だ!救援の部隊がさけるわけないだろう!」
ドレイルの言うことがもっともだ。
私情を挟むわけにはいかないこともわかっている。
「タイラー閣下。きっと大丈夫です。バルド王国のことは陛下や父がなんとかするでしょう。
それに兄とフランツ王太子が動ければ、多分…。
カヒル国にご迷惑はかけられません。」
「そんな顔で笑うな!」
完璧なアルカイックスマイルのディアナがびくりと震える
バルドゥルは立ち上がると、ツカツカとディアナの前の机に手をつくと、ディアナの顔を覗き込む。
「ディアナ。カヒルもバルドも関係ない。
君が望むなら俺が行くから。そんな辛そうな顔で笑うな。」
「いやいや、関係あるからね。お前はカヒル軍の軍人なんだから。」
モルゼコフのもっともなツッコミに、バルドゥル以外の者は心の中で大きく頷くが、獣人の番に対する思いの深さも全員が理解している。たとえ自分にまだ番がいなくても、番が悲しんでいるのなら、なんとかしたいと思うのは当たり前だ。
「ディアナ君。君はさっき兄とフランツ王太子が動ければと言ったね。
彼らならなんとかする方法があると言うことかい?」
「……軍事機密ですが。」
1
お気に入りに追加
325
あなたにおすすめの小説
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
*表紙イラストは星影さき様に描いていただきました
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
番なんてお断り! 竜王と私の7日間戦争 絶対に逃げ切ってみせる。貴方の寵愛なんていりません
ピエール
恋愛
公園で肉串食べてたら、いきなり空から竜にお持ち帰りされてしまった主人公シンシア
目が覚めたら ベッドに見知らぬ男が一緒に寝ていて、今度は番認定!
シンシアを無視してドンドン話が進んでいく。
『 何なの、私が竜王妃だなんて••• 勝手に決めないでよ。
こんなの真っ平ゴメンだわ!番なんてお断り 』
傍若無人な俺様竜王からなんとか逃げ切って、平和をつかもうとする主人公
果たして、逃げ切る事が出来るか•••
( 作者、時々昭和の映画•アニメネタに走ってしまいます 。すみません)
ザマァはありません
作者いちゃらぶ、溺愛、苦手でありますが、頑張ってみようと思います。
R15は保険です。エロネタはありません
ツッコミ処満載、ご都合主義ではごさいますが、温かい目で見守っていて下さい。
映画関連、間違えがありましたら教えて下さい
(*´ω`*)
全九話です。描き終えてありますので最後までお読みいただけます。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
逃げた花姫は冷酷皇帝の子を宿す
ゆきむら さり
恋愛
〔あらすじ〕📝帝都から離れた森の奥には、外界から隠れるように暮らす花の民がいる。不思議な力を纏う花の民。更にはその額に浮かぶ花弁の数だけ奇蹟を起こす花の民の中でも最高位の花姫アリーシア。偶然にも深い傷を負う貴公子ジークバルトを助けたことから、花姫アリーシアの運命が大きく変わる。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。シークレットベビー。ハピエン♥️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる