上 下
18 / 37
夫婦ってなんぞや

第十六話

しおりを挟む
ーー情報編纂室ーー

 ラビア・アドレイ伍長を室長とする、軍に入ってくる情報の統括、軍施設内の書類、資料を統括する部署である。
  



「なんてかっこいいこと言ってるけど、各部署の尻拭いってやつ?情報の統括って言っても、統合本部に来た情報を後で使いやすいように整理しておくの。
 もう一つは軍施設内の書類の整理なんだけど、そっちが大変!だいたいみんなちゃんと書類作らないし、申請書とかもこっちが管理しないとどっか行っちゃってトラブルになるし!
 まあ、書類仕事の裏方全般と思ってちょうだい!」

 しかめつらしい顔で説明しているが、尻尾がブンブン振られているのは、ディアナが来て嬉しいからだと言う。

 室内に入ると机の上には所狭しと書類が積み重ねられているが、ラビアとディアナ以外に人影はない。
 何も乗っていない椅子に座らせられたディアナに、ラビアは仕事の説明なのか、愚痴なのか、熱弁を振るっている。


「あの、ラビアさん。このお仕事って軍の機密とかに触れるのではないですか?」

「そうなの!ディアナちゃんはすぐわかってくれるのね!!

 大体ね、わからないやつが多すぎるの!!各部署から一人回して欲しいって言ってるのに、脳筋ばっかり押し付けやがって!
 守秘義務がわからないってありえないと思うの!」

 だから二人で頑張りましょう!とディアナの手を硬く握りしめる。
 基本的に室内で仕事をするのは室長であるラビアとディアナの二人だと言う。仰々しい名前と仕事内容のわりにポンコツな部署のようだ。


 ただディアナにとっては初めてのお仕事だ。
 ディアナの今の身分は情報編纂室付き兵卒待遇である。つまり軍に属するわけではない、民間人であるがが、一番下の兵と同じ待遇で働くことになる。
 軍属になってしまうと、国との縛りやら国家間の問題に発展する可能性があるため、バルドゥルが猛反対したのである。


 ちなみにディアナは給料が発生する仕事は初めてだ。
 バルド王国では王太子の補佐をしていたが、正式な公務以外はほぼ無給だった。とんだブラック職場である。

 
「とりあえず、今日は書類の整理から手伝って欲しいかな。」

 机の上に乗せられた書類の山の一つが雪崩を起こした……。

 ……前途多難。





**************





 一月も過ぎると、情報編纂室の書類は収まるところに収まり、ラビアも本来の情報編纂の仕事ができるようになってきた。

「ディアナちゃんの処理能力はすごいね!」

「なんの書類かわかれば、どこの部署で処理するものなのかはすぐにわかりますから、そんなに難しくないですわ。」

「それが出来ないのよ。ほんと、ディアナちゃん来てくれて助かってる!!」

 手間のかかる申請書類を処理して、関係部署を流したり、報告書に不備がないことを確認したり、一つ一つは難しい事ではないが、事務の苦手な者にとっては地獄だと、同じく情報編纂室所属のカシユーが言っていた。ディアナが所属してからは、書類の配達人を名乗り、各部署を回って書類を集めてくると、鍛錬に行ってしまう。とても自由だ…。

 バルドゥルの言うところ、カヒル軍は傭兵だったものが多く、腕っぷしが自慢なのだと言う。
 多かれ少なかれ、力で周りを黙らせるため、文官はなかなか肩身が狭く、居つかないのだと言う。
 そんな環境なのに王宮から引き抜きがくるのだから、モルゼコフが嫌がらせをしたくなるのもわかる気がする。


「うん、今日は書類が少ないのね。ディアナちゃんの方はどう?」

「わたくしの方も本部と兵団長に書類を届けるだけで終わりです。」

 トントンと書類の束をまとめて見せる。

「じゃあ、本部はあたしが届けとくから、兵団長に届けて、そのまま上がって頂戴。」

「いいんですか?」

「たまにはタイラー閣下が来る前に行ってあげなよ。」

 にひひとラビアが歯を見せて笑うと、ディアナが恥ずかしそうに下を向く。

 ディアナが働き始めたばかりの頃、バルドゥルはほぼ1時間おきに様子を見に来ていたのである。

 特に用事もないのに情報編纂室の近くをウロウロするバルドゥルに、ディアナは情報編纂室への出入りを禁じたのである。
 基地内の廊下で散々揉めた挙句、出勤と退勤時、そしてランチの時に限り、ディアナに面会していいと決まったのである。

(面会って!一緒に住んでいるのだから、面会っておかしいわ!)

 ディアナから行くのに制限はない。
 しかし、ディアナから行く事は滅多にない。

 廊下で派手な言い合いをしてしまったので、ディアナから行くのは少し恥ずかしい。がこれは仕事だ!

 書類を手に取ると、ラビアに挨拶して、兵団長の執務室に向かった。
 
 

 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

腹黒狼侯爵は、兎のお嬢様を甘々と愛したい

水守真子
恋愛
オメガ・兎獣人イザベラが住むハーブ園に、アルファ・狼獣人のハドリーが訪ねてきた。頼まれ案内しているうちに、イザベラは発情の発作を起こす。しかし、ハドリーは彼女の存在から発せられる香りに影響されないようで......。そんな二人のお話です。 ※アルファオメガの世界観を使わせてもらっています。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎    2024年8月6日より配信開始  コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。 ⭐︎書籍化決定⭐︎  第1巻:2023年12月〜  第2巻:2024年5月〜  番外編を新たに投稿しております。  そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。  書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。    改稿を入れて読みやすくなっております。  可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。  書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。 いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。 山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。 初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15をつけました ※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。  作品としての変更はございませんが、修正がございます。  ご了承ください。 ※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。  依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

処理中です...