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おまけ

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 お下品注意!
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「うふふ~。種付けですわ~ぁ!」

 踊り出しそうな足取りで、マリエルは廊下を歩いていた。
 すれ違う使用人たちがマリエルのにこやかな顔とそのセリフに、なんとも言えない顔をすると俯いて足早に去って行った。

「マリエル様!」
「ひうっ!」

 低い低い、地の底から聞こえるようなエイミの声に、そうっと後ろを振り向くと、鬼の形相のエイミが仁王立ちしている。

「そのような言葉は淑女に相応しくないと、あれほど!あれほど!」
「あ、ごめんなさい…つい、嬉しくて」
「つい!ではございません!!だいたいマリエル様は……」

 エイミの小言を聞きながらも、マリエルは今日やって来る馬に想いを馳せる。

 レイオンと結婚してから、色々な牧場を歩き、社交界の繋がりを使い、やっと自領の馬以外とも掛け合わせても良いという馬主に出会ったのである。
 マリエルからすれば、速い馬を作るために、能力の高い馬同士を掛け合わせるなど、皆が協力すれば良いと簡単に考えていたが、馬はその領の特産品である。うかうかと交配を重ねてしまえば、その特色が消されてしまうかもしれない。
 レイオンは馬の調査を綿密に行い、自領の馬だけでなく、他領の馬に完璧な血統を立てていく事を目標として、何人もの馬主と交渉してきた。
 その努力がやっと実り、ラングレー子爵領のハイライト種の牡馬が種付け用にやってくるのである。

「聞いておられますか、マリエル様。」

「ええ、エイミ。これから気をつけるわ。」

 この時、エイミの小言を適当に聞き流してしまったことを、マリエルはのちに後悔することになる。




 予定より数時間遅れて、馬が到着したと厩舎員から連絡があった。

「レイオン様にお伝えしてきます。」
 エイミが離れた隙にマリエルは厩舎に向かう。朝からずっと待っていたので、準備は万全だ。


「綺麗な馬ですわ~。」
 厩舎員たちが忙しく動く中、厩舎の中に入って行ったマリエルはお目当の馬を見つけた。
 その栗毛の馬は、大人しくマリエルの方を見ているので、マリエルはそうっと手を伸ばし、鼻面を撫でようとした。

「お嬢ちゃん、あぶねーぞ!」
「はい⁈」

 驚いたマリエルが手を引っ込めるのと同時に、馬が歯を剥き出しに威嚇してきた。

「モーヴは気性が荒いから、見たことない人間には威嚇すんだよ。
 良かったな~蹴られんで。」

 ラングレー領からこの馬についてきたのだろう、見たことのない厩舎員が、モーヴと呼ばれた馬を宥めるように撫でると、馬は小さく鼻息を漏らして落ち着いた。

「ごめんなさい。つい、うちの馬と同じ様に思ってしまって。そんなに気性が荒いとは思わなかったわ。」

「ああ、その分足が速いのはお墨付きだ。」

「ええ!ハイライト種の中でも速くて身体の大きな馬だとお聞きしておりますわ。」

 キラキラした目でモーヴを見つめるマリエルに、そうだろうとばかりに男はうなずく。

「ああ!種付けが楽しみですわ!」
「ぶっ!」

 マリエルの言葉に、男はすんでのところで驚きと笑いを堪えた。

「お嬢ちゃんは、馬の交尾に興味があるのかい?」

「ええ、とても。
 色々勉強しましたわ。」
「ほうほう、勉強ね。どんな勉強したんだ。」

 男はニヤニヤしながら、話を続ける。

「ハイライト種の馬は比較的体が小さいので、牝馬は小さめの子を選びましたわ。」
「そうだな、その方がヤリやすいからな。牝馬がデカイと届かねーことがあって、エライ時間がかかっちまう。」
「え?1分くらいで済むと聞きましたわ。」
「そりゃ上手くいったらだな。
 まあ、モーヴは上手い方だから結構あっさり終わるっちゃ終わるな。」

 真面目そうな顔をして話しているが、完全な猥談だ。

「あんた、勃起した馬のペ○スは見たことあるかい?」
「勃起した馬のペ○ス?!
 い、いえ!そんなわざわざ見たりは……」

 マリエルは両頬に手を当てて、ぶんぶん頭を振ると恥じらって目を伏せる。


「ロロイさ~ん、休憩にしませんか~?
 あれ、お嬢さ、いや違った。奥様こっちにいたんすか?」

 ひょっこり現れたのはジュライト家の厩舎員のライである。ロロイと呼ばれた男は、マリエルとライとを何度も見比べる。

「奥様?」
「あ、はい。ジュライト家のマリエル様っす。」
「ってこたぁ、あの美人の兄ちゃんの奥さんかよ」

 ロロイが大笑いするのを、不思議そうにマリエルは小首を傾げる。
(美人の兄ちゃんてレイオン様のことですよね。……にいちゃんて……)

「はっはっは!奥さんなら、勃ってるアレは見慣れてんな。」
「何?え?勃ってるアレ?」
「馬のアレ程はでっかくねえだろうが、美人の兄ちゃんは満足させて貰うくらいはあんのか?」

 理解した瞬間に真っ赤になったマリエル。
 ニヤニヤと悪い笑顔を浮かべるロロイに早口で捲し立てる。

「アレって!わたくし、そんな見慣れる程見てなんかいませんわ!レ、レイオン様と馬を比べるなんて!大きさなんてわかりませんわ!!
 わ、わたくしは馬のお話をしていたのです。馬とレイオン様は違いますので、馬は1分て聞きましたし、違いますの!」
「そりゃ1分じゃ満足出来んわな。」
「だから、1分ではなくて!ああ!もう!
 レイオン様との夜の生活は関係ありませんの!!」

「マ~リ~エ~ル~!!」
「ひゃいっっ!!」
 真っ赤な顔でパニックを起こして、言わなくてもいいことを口走っていたマリエルは一瞬で青くなった。
 
「ずいぶん話が盛り上がっているようだね。」
 馬鹿笑いしていたロロイもとばっちりのライも、顔を引きつらせてマリエルの背後を見ている。
 肩に手を置かれても、後ろからひしひしと伝わってくる重圧に振り向くことができない。
「マリエル様。」
 隣にエイミが立つ気配を感じ、エイミに縋ろうと顔をあげたが、そこには鬼がいた。

「マリエル様!私、散々言いましたよね!
 淑女として!相応しくない言葉を使ってはいけないと!あれほど、あれほど言いましたよね。」
 腰に手を当て、怒れるエイミは朝の比ではない程怒っている。
「エイミ~~」
「どうやら朝のお話は全く聞いておられなかったようですので、これからみっちり聞いていただきましょう。」

 怒れるエイミに腕を掴まれ、うっかりマリエルは後ろのレイオンに顔を向けてしまった。
 光り輝いているのでは、というような美しい笑顔を浮かべたレイオンは、全っ然笑っていない瞳でマリエルを見つめると、くるりとマリエルの体をエイミの方に向ける。
「私とはそのあと話そうね。」

 にっこり笑うレイオンに怯えながら、マリエルはエイミに引きずられるように、屋敷に連れ戻されていった。


「いやぁ、地味なお嬢ちゃんかと思ったが、あんな子供みたいに好奇心だらけだと、旦那は大変だなぁ。」
 マリエルを見送ったロロイが顎をかきながら呟いた。
「そう思うなら余りからかわないでくれ。」


**************


「レイオン様の意地悪ぅ~」
翌日、寝台から起きられなかったマリエルは、ベソベソと泣き言をエイミに漏らす。

 昨日、エイミから小一時間お説教を受けた。散々怒られたあと、戻って来たレイオンにもお説教された。
 その上お仕置きと言われ、一晩中抱き潰さ
れた。

「1分で終わる男なんて言われたくないからね。」
「わたくし、そんなこと言っていませんわ~!!」
 そんなこんなで、今日は寝室から動くことも出来ないのである。



「そういうの自業自得と言うのですよ。
 大体馬の交尾など淑女がみたがるものじゃありません。」

「違うのですわ!わたくしはジュライト領で始まる、競走馬の歴史の全てを体験したいのですの~~~!!!」


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おわり
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