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第十話

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 んふふ~。ふふ~ん。
 いつもより鼻歌絶好調!!うん!誰がなんと言おうと絶好調!!

 よちよち歩きでショーンがこっちに歩いてくる姿と言ったら!!く~~っ!動画撮りたい~!!
 (たぶん)クマのぬいぐるみを気合いを入れて持つ!!ショーンはニコニコしながら、クマさんのぬいぐるみに突進してくるのよ!!

 このぬいぐるみは謎のお屋敷で見つけた。
 
 謎のなんて誤魔化してみたけど、マリアベルの家だ。
 あたしの移動範囲はそのまんまマリアベルの移動範囲なんだと思う。お城と家だけ…。
 マリアベルの記憶はまったくないけど、色々なものに触れたり、人に触れたりすると移動範囲も増えるし、物に触れたり出来ることが増えていく。
 それがとても……怖い………。
 
 

 謎のお屋敷にはいつのまにか、いた。ちょっとよくわからないと思うけど、気がついたら知らない廊下に立っていた。
 この姿になってからは、気づいたら知らないところに立っていたり、さっきまでハイハイしていたはずのショーンがよちよち歩いていたり、不思議なことがよく起こる。よく起こるので細かいことは気にしなーい!

 いつも歩き回っているお城とはちょっと違って木の温もりが感じられる。
 お城より働いている人がずっと少なくて歩きやすい!
 階段を降りていくと立派な玄関ホールになってて、壁には肖像画がいくつも飾られている。あぁ、これは小さい頃のマリアベルだ。鏡に時々映り込む顔よりずっと幼い頃に両親と一緒に描かれた、家族の肖像画だね。
 その隣には最近、王様の執務室で見かけるイケメンとマリアベル、二人の肖像画だ。

 お屋敷の中を見て回っているとすごく気になる部屋があった。扉に両手をつくようにすり抜ける。
 あぁ、ここはマリアベルの部屋なのだろう。
 優しく、落ち着いたサーモンピンクの壁や小さなお花をモチーフにした家具。ベットには沢山のぬいぐるみが置いてあるけど、埃っぽい感じは全然ない。
 
 うーん、このぬいぐるみならショーンに持っていってあげられるかな。マリアベルのだし、いいよね。
 小さなものを手に取ってモフモフしてみるけど、くそうっ!感触がない!

 ガチャと音がして、誰かが部屋に入ってきた。よく掃除してあるから、お掃除の人かな。


「…!マリアベル!」
 入ってきたのは、ロマンスグレーなイケオジだ。整った顔をこっちに向けたまま固まっている。
 
 あ、この人あたしのこと見える人だ。

「待ってくれ!マリアベル!」
 そろりと部屋から出て行こうとしたけどイケオジに止められる。うーん、必死な姿も絵になるわ~。
 手を伸ばしてきたけど、あたしに触ることは出来ない事に気がついて、ものすごい顔を歪めた。

「すまない、マリアベル。……お前をこんな姿にしてしまって………守ってやれなくて……
 あの時、国のためなどと思わず婚約破棄させておけば良かった……マリアベル、お前にあの愚かな王太子を任せてしまったばっかりに………」

 婚約破棄……?

「お前が妃となったことで廃嫡を免れたというのにな。」

 そっか、王様はマリアベルと結婚したくなかったわけね。で、婚約破棄しようとして失敗。ってまんまラノベか⁈悪役令嬢か⁈
 

「お前が側妃殺害を企てることなどあり得ない。などと油断してしまった。まさか…まさか、ベルクがお前を陥れるとは……。
 だが、私は見てみぬフリをした。公爵家の跡取りを失うわけにはいかないと。
 恨んでいるのだろう。
 家のためなどと……私はお前の父親であったのにな………」


 ああ、やっぱり。
 マリアベルは殺されたんだよね。


 マリアベルの姿あたしが近くにいるとみんな怯えたり、後悔したりしている。
 国のためなのか、家のためなのか、自分のためなのかわからないけど、マリアベルを殺したわけだ。
 マリアベルが恨んでいたのか、諦めていたのかはわからない。この姿だけ残して、いなくなってしまったからね。

 あまり考えたくないよ。
 あたし高橋あかりの時なんて、人違いで殺されちゃってるわけだし。

 マリアベルの恨みとか言われちゃったら、もうお腹いっぱいって感じ。

「マリアベル、私は……」

 イケオジ父さん。なんとなくマリアベルは貴方のことは恨んでないと思う。
 
 あたしは出来るだけ明るく見えるよう笑顔になると、スカートを少し持ち上げて挨拶した。お城の人たちの見様見真似だから変なのは許してほしい。
 でも、マリアベルらしく見えたらいいなあ。



 顔を上げると、クマのぬいぐるみと一緒にお城に戻っていた。





 
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