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「これが服??」
アプルの手にあるのは黒のレースと紐で作られた、スケスケの卑猥なドレスだ。くるくる丸めたらこもの着たくない。
だが全裸のアプルにとって、これを着る以外の選択肢は今のところない。
結局あの商人風の男に言われるままシャツとズボンも脱いだ。
「色気のない下着を着てんな。」
ジロジロと舐めるように全身を見ていた男が、着古した下着を見て嫌そうな顔をして、下着を脱ぐよう要求してきた。
流石にこんな男の前で全裸になるなんて!
「絶対っ!!絶対無理ですっ!!!!どうして裸にならないといけないの!さっきは傷の具合を見るだけって言っていたじゃない!絶対に無理!!」
「ああ?別にいいんだぜ。オークションで客の前で無理矢理剥ぎ取っても。興奮した奴らが、そのまま本番なんて言い出したって俺は止めらんねーぞ。」
「・・・ひどすぎる。」
「恨むんならお坊ちゃんを恨みな。資金繰りに困って手っ取り早くお前さんを売ろうとしてんだからな。
俺はあんたを少しでも高くて条件のいいとこに売ってやろうって、色々心を砕いてやってるんだ。
あー、俺ってなんて親切。」
嘯く男を部屋から追い出し、仕方なく下着を脱いでドアの外の男に渡すと、代わりの服だと渡されたのが、黒のスケスケのドレス。アプルは知らないが要するに、ベビードールと呼ばれるセクシーランジェリーである。
どこから手を出すのか、四苦八苦しながらベビードールを身につけたが、結局心許無いのは変わらない。
たゆんと大きな胸は半分以上出てしまっているし、むっちりとした太腿も露わになっている。
隠すものもない部屋の中、ドアに寄りかかって膝を抱えて座り込んだ。
こんな格好で奴隷として売られるなんて。
ジョナールのタチの悪い嫌がらせということはないのだろうか。
泣いたら「お姉様のそのみっともない顔が見たかったのよ!」とか言って嗤って出てきてくれないかな。
家族との縁は、アプルが家から追い出された時に切れた。それでもいつか家族なのだから、わかり合える日が来るのではないかと、淡い期待を持っていた。
使用人のようにこき使われても。
泥棒だとなじられて、暴言を吐かれても。
ずっとずっと蔑ろにされていても。
見ないふりして、そのうちきっとわかり合えるとどこかで思っていた。
その結果が、奴隷として売られるなんて。
リンゴニア侯爵家が後ろ暗いことをしていたのは薄々感じていたが、見ないふりをしていた。見ないふりで逃げていた。
そのツケが今こうして自分に降りかかっている。
情けなくて、涙が出てくる。
パタパタと膝に落ちる涙をそのままに、歯を食いしばる。
「どう、し・・うぐっ・・・くっ・・・う、わたし、・・」
喉から絞り出すように嗚咽を吐き出す。
口を開けたまま息を吐いて、涙なのか鼻水なのかわからないけど、流れるままに膝を濡らすのをどこか冷静な目で見ている自分がいる。
泣いても仕方がない。
けど今は、今だけは涙と嗚咽だけを好きなだけ吐き出したい。
「・・・負ける、もんか・・」
幸せになんてなれないと、エイヴァは言っていた。
後悔しろとジョナールが言っていた。
「・・んぐっ・・・絶対幸せになってやる・・・絶対後悔なんてしない。」
家族の思い通りになるのはもう嫌だ。
アプルは家を出てから、助けてくれた人たちの顔を思い浮かべる。みんな家族より暖かく、アプルに生きる楽しさをくれた。
泣くだけ泣いて、やっと涙が止まった。
歯を食いしばりすぎて、頭が痛いけど心はスッキリしている。
もう見ないふりはしないと決めたから。
アプルは翡翠の目で暗い部屋をじっと睨みつけると、呪文のように何度も口の中で繰り返す。
「きっと、逃げるチャンスはある。あきらめない。」
アプルの手にあるのは黒のレースと紐で作られた、スケスケの卑猥なドレスだ。くるくる丸めたらこもの着たくない。
だが全裸のアプルにとって、これを着る以外の選択肢は今のところない。
結局あの商人風の男に言われるままシャツとズボンも脱いだ。
「色気のない下着を着てんな。」
ジロジロと舐めるように全身を見ていた男が、着古した下着を見て嫌そうな顔をして、下着を脱ぐよう要求してきた。
流石にこんな男の前で全裸になるなんて!
「絶対っ!!絶対無理ですっ!!!!どうして裸にならないといけないの!さっきは傷の具合を見るだけって言っていたじゃない!絶対に無理!!」
「ああ?別にいいんだぜ。オークションで客の前で無理矢理剥ぎ取っても。興奮した奴らが、そのまま本番なんて言い出したって俺は止めらんねーぞ。」
「・・・ひどすぎる。」
「恨むんならお坊ちゃんを恨みな。資金繰りに困って手っ取り早くお前さんを売ろうとしてんだからな。
俺はあんたを少しでも高くて条件のいいとこに売ってやろうって、色々心を砕いてやってるんだ。
あー、俺ってなんて親切。」
嘯く男を部屋から追い出し、仕方なく下着を脱いでドアの外の男に渡すと、代わりの服だと渡されたのが、黒のスケスケのドレス。アプルは知らないが要するに、ベビードールと呼ばれるセクシーランジェリーである。
どこから手を出すのか、四苦八苦しながらベビードールを身につけたが、結局心許無いのは変わらない。
たゆんと大きな胸は半分以上出てしまっているし、むっちりとした太腿も露わになっている。
隠すものもない部屋の中、ドアに寄りかかって膝を抱えて座り込んだ。
こんな格好で奴隷として売られるなんて。
ジョナールのタチの悪い嫌がらせということはないのだろうか。
泣いたら「お姉様のそのみっともない顔が見たかったのよ!」とか言って嗤って出てきてくれないかな。
家族との縁は、アプルが家から追い出された時に切れた。それでもいつか家族なのだから、わかり合える日が来るのではないかと、淡い期待を持っていた。
使用人のようにこき使われても。
泥棒だとなじられて、暴言を吐かれても。
ずっとずっと蔑ろにされていても。
見ないふりして、そのうちきっとわかり合えるとどこかで思っていた。
その結果が、奴隷として売られるなんて。
リンゴニア侯爵家が後ろ暗いことをしていたのは薄々感じていたが、見ないふりをしていた。見ないふりで逃げていた。
そのツケが今こうして自分に降りかかっている。
情けなくて、涙が出てくる。
パタパタと膝に落ちる涙をそのままに、歯を食いしばる。
「どう、し・・うぐっ・・・くっ・・・う、わたし、・・」
喉から絞り出すように嗚咽を吐き出す。
口を開けたまま息を吐いて、涙なのか鼻水なのかわからないけど、流れるままに膝を濡らすのをどこか冷静な目で見ている自分がいる。
泣いても仕方がない。
けど今は、今だけは涙と嗚咽だけを好きなだけ吐き出したい。
「・・・負ける、もんか・・」
幸せになんてなれないと、エイヴァは言っていた。
後悔しろとジョナールが言っていた。
「・・んぐっ・・・絶対幸せになってやる・・・絶対後悔なんてしない。」
家族の思い通りになるのはもう嫌だ。
アプルは家を出てから、助けてくれた人たちの顔を思い浮かべる。みんな家族より暖かく、アプルに生きる楽しさをくれた。
泣くだけ泣いて、やっと涙が止まった。
歯を食いしばりすぎて、頭が痛いけど心はスッキリしている。
もう見ないふりはしないと決めたから。
アプルは翡翠の目で暗い部屋をじっと睨みつけると、呪文のように何度も口の中で繰り返す。
「きっと、逃げるチャンスはある。あきらめない。」
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