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困惑するアプルを置いて、国王夫妻は嬉しそうに続ける。
「そうだ。慰謝料代わりと言っては何だが、どこか嫁ぎ先を探そう。」
「いい考えですわ!アプル嬢はとても優秀だと報告を受けてますもの。リンゴニア侯爵家から絶縁したのなら、何の問題もないですものね。」
いやいやいや。問題ありますよ。
家から絶縁されたからには貴族でなく庶民ですし、何より王族と婚約解消した令嬢と婚姻する家なんてあるわけない!
焦るアプルを尻目に国王夫妻は楽しそうだ。
「今、婚約者のいない者は誰かしら。」
「ああ、そういえば将軍が息子の嫁を探していたな。騎士団の隊長だ。どうだ、アプル嬢。」
仲人をしてみたかったの!と王妃も王も嬉しげに、どこそこの令息だの官吏のだれが独身だのと二人で盛り上がっている。
このままではなし崩しにお見合い地獄が始まりそうだ。始まる前に断らないと・・・。
「わ、わたくし学園の卒業証書はいただきましたので、自立できる職を探したいと思っています。
学園に通うことができたのも、マックス第二王子殿下の婚約者に選ばれたおかげと感謝しております。ですので、その、どなたかに嫁ぐつもりは、ございま、せん。」
糸目のままなのにどんどん視線が下に下がってくる。恐れ多くて顔を上げているだけで苦痛だ。
「父上、母上。慰謝料は無理強いするものではないでしょう。アプル嬢の望む通りにしましょう。」
マックスによく似た顔の王太子は、全く違う穏やかな声でアプルの心を優先しは、かなもの__#を持っているとしれたら、リンゴニア侯爵家が何と言ってくるかわからない。
「あ!それなら王宮で働くのはどうかしら?女官なら自立できるでしょう?王宮内に寮もあるから住むところも問題ないはずよ。」
「母上。ここではマックスと顔を合わせことになりますよ。それに女官は貴族でないとなれません。」
「・・そうねぇ。それはちょっと問題あるわね。」
あーでもないこーでもないと、アプルそっちのけで王族が元貴族令嬢の行く末を議論していることに、違和感を感じる。
マックスとの婚約にどんな政略的な意味があったのか、アプルは特に考えたこともなかった。だが慰謝料についてこんなに真剣に議論しているのだ、アプルの知らない何か重要な取り決めがあったのかもしれない。
「・・・外宮の官吏はどうなの?」
「母上、官吏の試験は女性は受けられません。」
「もう!女性が働く場というのは本当に少ないのね。学園を卒業しても能力の無駄遣いだわ!!」
扇で手のひらを軽く叩き、夫である国王を睨みつける。貴族の令嬢は普通働きに出ることはないのだから仕方がない。
一方国王は部屋の隅に控えていた侍従長を呼び、何か話している。
忙しいならもう終わりにしてくれればいいのに。
そう思って、カップの中の琥珀色の液体が小さく波打つのをじっと見ていると、名前を呼ばれた。
「アプル嬢。其方、図書館の官吏になる気はないか?」
「図書館ですか?」
正直なところ興味はある。
官吏の試験は受けられないのは知っていたし、技術も伝手もないアプルにとって魅力あふれる提案だ。
「図書館は官吏だが外宮からも離れている。初めて女性の官吏が入るのに一番適しているだろう。」
「なぜ?」
「ん?」
「なぜ、わたくしなどのために、このような便宜を図ってくださるのですか?」
アプルの問いに国王はホリホリと首の後ろをかく。その様子は一国の王には見えない、親しみやすいものだ。
「うむ。はじめに言った通り、私はアプル嬢に迷惑をかけた。その慰謝料として出来るだけの便宜をはかりたいというのでは納得できんか?」
そんなことで王家が動くとは思えない。
けれどーーー
「図書館といえども女性初の官吏だ。しかも官吏の試験は別途で受けた。」
女性初の官吏として、受けていないけど、官吏試験を別の場所で受けたことにする。その贔屓にどれだけの妬み嫉みがあるだろう。
「決して良いことばかりの便宜とは言い難い。
また其方を利用することになってしまうな。」
これからの時代、女性が官吏として働く。
そのための試金石として、官吏の身分を受ける。
慰謝料として不足はない。ただ与えられる金銭より何倍も価値がある。
「わかりました。初の女性官吏として良い結果が出せるよう全力を尽くさせていただきます。」
そうして受け取った慰謝料だ。
ジョナールには多分、理解できないだろう。
どこにもない慰謝料を探して、元家族が右往左往しているのを想像して、アプルは少しだけ胸がすくような気分になった。
その時、ガチャガチャとドアの鎖を動かす音が大きく響き、錆びついたドアを開ける不快な音が続いた。
ジョナールが来たのかと思い、萎えそうになる気を立て直しドアを睨みつけた。
「・・・え?」
「そうだ。慰謝料代わりと言っては何だが、どこか嫁ぎ先を探そう。」
「いい考えですわ!アプル嬢はとても優秀だと報告を受けてますもの。リンゴニア侯爵家から絶縁したのなら、何の問題もないですものね。」
いやいやいや。問題ありますよ。
家から絶縁されたからには貴族でなく庶民ですし、何より王族と婚約解消した令嬢と婚姻する家なんてあるわけない!
焦るアプルを尻目に国王夫妻は楽しそうだ。
「今、婚約者のいない者は誰かしら。」
「ああ、そういえば将軍が息子の嫁を探していたな。騎士団の隊長だ。どうだ、アプル嬢。」
仲人をしてみたかったの!と王妃も王も嬉しげに、どこそこの令息だの官吏のだれが独身だのと二人で盛り上がっている。
このままではなし崩しにお見合い地獄が始まりそうだ。始まる前に断らないと・・・。
「わ、わたくし学園の卒業証書はいただきましたので、自立できる職を探したいと思っています。
学園に通うことができたのも、マックス第二王子殿下の婚約者に選ばれたおかげと感謝しております。ですので、その、どなたかに嫁ぐつもりは、ございま、せん。」
糸目のままなのにどんどん視線が下に下がってくる。恐れ多くて顔を上げているだけで苦痛だ。
「父上、母上。慰謝料は無理強いするものではないでしょう。アプル嬢の望む通りにしましょう。」
マックスによく似た顔の王太子は、全く違う穏やかな声でアプルの心を優先しは、かなもの__#を持っているとしれたら、リンゴニア侯爵家が何と言ってくるかわからない。
「あ!それなら王宮で働くのはどうかしら?女官なら自立できるでしょう?王宮内に寮もあるから住むところも問題ないはずよ。」
「母上。ここではマックスと顔を合わせことになりますよ。それに女官は貴族でないとなれません。」
「・・そうねぇ。それはちょっと問題あるわね。」
あーでもないこーでもないと、アプルそっちのけで王族が元貴族令嬢の行く末を議論していることに、違和感を感じる。
マックスとの婚約にどんな政略的な意味があったのか、アプルは特に考えたこともなかった。だが慰謝料についてこんなに真剣に議論しているのだ、アプルの知らない何か重要な取り決めがあったのかもしれない。
「・・・外宮の官吏はどうなの?」
「母上、官吏の試験は女性は受けられません。」
「もう!女性が働く場というのは本当に少ないのね。学園を卒業しても能力の無駄遣いだわ!!」
扇で手のひらを軽く叩き、夫である国王を睨みつける。貴族の令嬢は普通働きに出ることはないのだから仕方がない。
一方国王は部屋の隅に控えていた侍従長を呼び、何か話している。
忙しいならもう終わりにしてくれればいいのに。
そう思って、カップの中の琥珀色の液体が小さく波打つのをじっと見ていると、名前を呼ばれた。
「アプル嬢。其方、図書館の官吏になる気はないか?」
「図書館ですか?」
正直なところ興味はある。
官吏の試験は受けられないのは知っていたし、技術も伝手もないアプルにとって魅力あふれる提案だ。
「図書館は官吏だが外宮からも離れている。初めて女性の官吏が入るのに一番適しているだろう。」
「なぜ?」
「ん?」
「なぜ、わたくしなどのために、このような便宜を図ってくださるのですか?」
アプルの問いに国王はホリホリと首の後ろをかく。その様子は一国の王には見えない、親しみやすいものだ。
「うむ。はじめに言った通り、私はアプル嬢に迷惑をかけた。その慰謝料として出来るだけの便宜をはかりたいというのでは納得できんか?」
そんなことで王家が動くとは思えない。
けれどーーー
「図書館といえども女性初の官吏だ。しかも官吏の試験は別途で受けた。」
女性初の官吏として、受けていないけど、官吏試験を別の場所で受けたことにする。その贔屓にどれだけの妬み嫉みがあるだろう。
「決して良いことばかりの便宜とは言い難い。
また其方を利用することになってしまうな。」
これからの時代、女性が官吏として働く。
そのための試金石として、官吏の身分を受ける。
慰謝料として不足はない。ただ与えられる金銭より何倍も価値がある。
「わかりました。初の女性官吏として良い結果が出せるよう全力を尽くさせていただきます。」
そうして受け取った慰謝料だ。
ジョナールには多分、理解できないだろう。
どこにもない慰謝料を探して、元家族が右往左往しているのを想像して、アプルは少しだけ胸がすくような気分になった。
その時、ガチャガチャとドアの鎖を動かす音が大きく響き、錆びついたドアを開ける不快な音が続いた。
ジョナールが来たのかと思い、萎えそうになる気を立て直しドアを睨みつけた。
「・・・え?」
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