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 オーリーと歩くジョナールは、昼間には少し派手なドレス姿で、美男美女ということもあり道ゆく人たちの注目の的だ。

「・・・でも、その強盗団を捕まえたのはクレメンタイン様のお手柄だとお聞きしましたわ。」

「私の手柄ではなく近衛騎士団の手柄ですよ。」

「まあ、ではわたくしが王子妃になった時は専属の護衛になってくださいね。」

「残念ながら私は護衛の任務には向かないと、隊では有名なのです。」

 にこやかに答えるオーリーの顔を、ジョナールはうっとりと見つめる。

 それにしてもジョナールはまだマックス第二王子殿下と結婚するつもりなのだろうか?大勢の前で婚約破棄騒動あんなことがあったのに、心が強すぎる。
 それなのになぜ、オーリーと仲良く腕を組んでいるのか。まるで恋人同士のように仲睦まじい。
 オーリーは近衛騎士団でも有能で隊長の覚えもいい上にハンサムで背も高い。
 ジョナールの好みのタイプなのは間違い無いだろう。多分オーリーも満更ではなさそう。
 

 そんなことを考えていたせいで、見つかる前にこの場を離れようとしたのに間に合わなかった。


「まあ!!アプルお姉様!いえ、もうリンゴニア侯爵家からは絶縁されてしまいましたから、お姉様と呼んではいけないのかしら?」

「ええ、そうね・・・」

「でも、平民になってもわたくしだけはお姉様って心の中で思っているわ。お父様もお母様も、お兄様だって何にも言わないけど、きっと心の中ではお姉様の事心配してるわ。」


 心配なんてしているワケはない。
 だけど、何も言わないというのは、その通りなのだろう。

 小さい頃から両親はアプルのことを、まるでいないものとして扱っていた。
 社会から見られて問題ないように、最低限の手間で育てられたのだ。
 
 優しい言葉をかけてもらったことはない。
 誕生日を祝ってもらうことも、何か買ってもらうこともない。
 食事ですら厨房に行って使用人用の賄いをもらって食べていた。
 
 暴力などの虐待はなかったが、役に立たない出来損ないだと堕とされ続け、いつからかアプルは目を閉じた。
 
 ーー見なければいい。

 優秀な八歳上の兄は父と共に領地経営、商会の経営の才能を発揮して、かなりの売り上げを上げているらしい。自慢の息子だと両親が話すのを何度も聞いた。
 二歳下のジョナールはお母様にそっくりの華やかで愛らしい姿形で、両親にもお兄様にも愛されている。どんな我儘でも彼らは叶えた。

 王家からアプルに第二王子との婚約の王命があった際も、アプルではなくジョナールへ変更して欲しいと何度も奏上していた。
 不敬罪ギリギリのところまでいって、彼らは方針を変え、マックス第二王子殿下を懐柔することにしたのだ。
 そうでなくても美しい妹と糸目の姉だったら、美しい妹を選ぶだろう。
 そうしてマックスはジョナールを婚約者として扱った。

 だがその間、王家から派遣された家庭教師によって教育を受けられたのは、アプルにとって数少ない幸運であった。



「それにしても、お姉様のその服とっても不格好だわ。まさか前庭ここでお掃除人として働いていらっしゃるの?
 お家を出て苦労されているのね。」

 ジョナールは自分のドレスを見せつけるように、そしてオーリーにより擦り寄る。

「??お掃除人?」

 嘲笑混じりに言われて、はたと自分の格好に気がついた。いつもの官吏服の上に埃除けの大きなエプロンをしたままだったことに。

(いけない!ナユさんにも言われたのに。)

 ーー可愛い格好ばかりがオシャレじゃないの。
 相手からどう見えるか意識して、不快さを与えないというのが、社会人としてのオシャレよ。

(どう見えるか。)

 は得意だ。
 今は自分をどう見せたいのか。
 
 アプルは背筋を伸ばして、エプロンをスルリと取って、貴族令嬢のカーテシーではなく、官吏として礼をする。

「リンゴニア侯爵令嬢。クレメンタイン卿。わたくし仕事がございますので、失礼させて戴きます。」

「え?なんでアプルが官吏の制服?
 何でよ!何でアプルが王宮で働いて、私は出入り禁止にされなくちゃならないのよ!!」


 慌てて両手で口を押さえたジョナールだが、アプルにはしっかり聞こえた。

 どうやらマックス第二王子に付き纏いすぎて、王宮に出入り禁止になったようだ。
 オーリーが一緒にいるのは・・・多分近衛騎士団として丁重にご帰宅いただくためなのかもしれない。
 けど、アプルには関係ない。

 目を閉じたまま、背筋だけは伸ばして二人の前から、政務棟へと歩き出した。
 
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