13 / 39
12
しおりを挟むその押し込み強盗は普通の強盗団とちょっと違っていた。
まずアジトというものがない。
巧妙に隠蔽されているのだと思ったが、そうではないようだ。裏社会には裏社会の情報網というものがあり、派手な活動をしているこの強盗団のことはもちろん話題になっていたが、その構成員についての情報は全くといっていいほど無かったのだ。
そして、いつの間にか現れたこの強盗団は、貴族と繋がりの強い商会を狙ったのである。
通常、貴族との繋がりの強い商会は警備も厳しいため敬遠される。だがその考えを嘲笑うように、貴族御用達の商会が狙われた。
危機感を感じた貴族院は街の治安を守る警ら隊だけでなく、王宮を守る近衛隊にまで捜査を命じてきたのだ。
捜査を進めるうちに、商会側には内通者がいたようだ。ということがわかってきた。
押し込み強盗の後、行方不明になった従業員が多数存在することから間違い無いだろう。逃げたのか消されたのか分からないが。
だが、肝心の押し込み強盗のことはわからない。
アジトもないのにどうやって連絡を取っているのか?
連絡方法がわかれば強盗団の一味を一網打尽にできるだろう。
ダリル隊長指揮の元、不特定多数の人間が出入りしてもおかしくない場所探しが始まった。
酒場。食堂。商店。遊戯場。劇場。病院。
オーリーがその男に気がついたのは、ある偶然からだった。
食堂の前で官吏に絡んでいた男たちを締め上げていた時だ。悪人というわけではない二人組だが、そこかしこでトラブルを起こすので、要注意リストに入れられている奴らだ。
拳で語りあい理解してもらったその時だ、そのうちの一人が通りがかった男を見て顔色を変えたのだ。聞けば随分前に強盗を働き、逃げた男にそっくりなのだという。
オーリーがその男を追うと、なんとも似つかわしくない図書館へと入って行くではないか。
さっきの男たちの逃げる口実だったのかも知れないと思いながら、一応確認のため中を覗いていこうとオーリーは生まれて初めて図書館に足を踏み入れた。
図書館は誰でも使える公共の場所だ。
いろんな種類の人間がいるのだろう。
だが、オーリーが初めて図書館に入ったように、場に馴染まない人間がいる。
先ほど強盗を働き逃げた男と言われた馬面の男。
大きな机で居眠りをしているスキンヘッドの男。
近衛隊の制服を着たオーリーに二人が反応したのを、オーリーは気がつかないふりをして、カウンターのアプルに声をかけた。
自分の容姿が軽い女タラシに見えるのを自覚しているオーリーは、女の子目当ての軽い男として図書館に入ってきたのだと思わせたのだ。
毎日アプルに声をかけながら、何気なく様子を伺っていれば、やはり場にそぐわない人間の出入りが多い。
人目のない時に確認すれば、館長も不安に思っていたようだ。
近衛隊の本部から、本格的な内偵を入れると連絡がきたとき、前後してアプルが梯子から落ちる事故があった。
梯子を蹴った女の背景はまだ判然としない。
そして街を巡回しながら図書館の前を通り過ぎること一週間。
オーリーは後悔の只中にいた。
ーーアプルを隠れ蓑にしたせいで危険に晒した。
そう言われても仕方がなかった。梯子から落ちるアプルを助けられなかったのだから。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる