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 その押し込み強盗は普通の強盗団とちょっと違っていた。

 まずアジトというものがない。
 巧妙に隠蔽されているのだと思ったが、そうではないようだ。裏社会には裏社会の情報網というものがあり、派手な活動をしているこの強盗団のことはもちろん話題になっていたが、その構成員についての情報は全くといっていいほど無かったのだ。

 そして、いつの間にか現れたこの強盗団は、貴族と繋がりの強い商会を狙ったのである。
 通常、貴族との繋がりの強い商会は警備も厳しいため敬遠される。だがその考えを嘲笑うように、貴族御用達の商会が狙われた。
 
 危機感を感じた貴族院は街の治安を守る警ら隊だけでなく、王宮を守る近衛隊にまで捜査を命じてきたのだ。


 捜査を進めるうちに、商会側には内通者がいたようだ。ということがわかってきた。
 押し込み強盗の後、行方不明になった従業員が多数存在することから間違い無いだろう。逃げたのか消されたのか分からないが。

 だが、肝心の押し込み強盗のことはわからない。
 アジトもないのにどうやって連絡を取っているのか?
 連絡方法がわかれば強盗団の一味を一網打尽にできるだろう。


 ダリル隊長指揮の元、不特定多数の人間が出入りしてもおかしくない場所探しが始まった。
 酒場。食堂。商店。遊戯場。劇場。病院。




 オーリーがその男に気がついたのは、ある偶然からだった。

 食堂の前で官吏に絡んでいた男たちを締め上げていた時だ。悪人というわけではない二人組だが、そこかしこでトラブルを起こすので、要注意リストに入れられている奴らだ。
 拳で語りあい理解してもらったその時だ、そのうちの一人が通りがかった男を見て顔色を変えたのだ。聞けば随分前に強盗を働き、逃げた男にそっくりなのだという。
 オーリーがその男を追うと、なんとも似つかわしくない図書館へと入って行くではないか。
 さっきの男たちの逃げる口実だったのかも知れないと思いながら、一応確認のため中を覗いていこうとオーリーは生まれて初めて図書館に足を踏み入れた。

 図書館は誰でも使える公共の場所だ。
 いろんな種類の人間がいるのだろう。

 だが、オーリーが初めて図書館に入ったように、場に馴染まない人間がいる。
 先ほど強盗を働き逃げた男と言われた馬面の男。
 大きな机で居眠りをしているスキンヘッドの男。  

 近衛隊の制服を着たオーリーに二人が反応したのを、オーリーは気がつかないふりをして、カウンターのアプルに声をかけた。
 自分の容姿が軽い女タラシに見えるのを自覚しているオーリーは、女の子目当ての軽い男として図書館に入ってきたのだと思わせたのだ。

 毎日アプルに声をかけながら、何気なく様子を伺っていれば、やはり場にそぐわない人間の出入りが多い。
 人目のない時に確認すれば、館長も不安に思っていたようだ。
 
 近衛隊の本部から、本格的な内偵を入れると連絡がきたとき、前後してアプルが梯子から落ちる事故があった。
 梯子を蹴った女の背景はまだ判然としない。




 そして街を巡回しながら図書館の前を通り過ぎること一週間。
 オーリーは後悔の只中にいた。
 
 ーーアプルを隠れ蓑にしたせいで危険に晒した。 
 そう言われても仕方がなかった。梯子から落ちるアプルを助けられなかったのだから。

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