12 / 39
11
しおりを挟む
図書館に女性の姿は減ったが、男性の姿は相変わらずだ。
夢うつつで聞いた話では、押し込み強盗の一味と変装した警ら隊がいるらしいが、アプルにはもちろん区別がつかない。なので、出来るだけカウンターや他の職員から死角になる場所は避けるようにしている。
それでも気になるのは、カウンターから死角になるこの棚だ。
「またあの本が入ってる。」
アプルが梯子から落ちた事故の時、女が持っていた本。あの時、正しい棚に戻したのに、また哲学の棚に戻っていたのである。
もちろんオーリーとダリルにその話はしたが、特に怪しいところはなかったと言っていた。
アプルはその本を手に取ると、パラパラとめくってみる。建築の構造理論の本らしく、図解や数字が多いが、特別な何かがあるわけでもない。ページの途中に何かが挟まっているわけでもない。
「考えすぎ・・・かな。」
もう一度パラパラめくると、一瞬印のようなものが見えた気がした。
「あれ」
もう一度。ゆっくりページをめくると印のあるページを見つけた。構造計算のページで計算式の中の「23」の数字が丸で囲んである。
「?」
ペラペラと前後のページを確認しても何もないし、この数字は計算式の中の一部なので、特に重要な意味があるとは思えない。
残念なことに図書館の利用者の中には、本に印をつけてしまう人も確かにいる。「ここは重要なところだから」と言って、線を引いてしまう薬屋の御隠居さんもいる。
ただの落書きなのだろうか?
何気に目次を見てみると、目次にも印があった。
『近代建築の変容・・・・・56』
「56」に丸印がついている。
「56ページ。56あった!」
ページを開いて指を滑らせるが、どこにも印はない。
「どういうこと?・・・やっぱり関係ない?」
もしかして、押し込み強盗の連絡方法とやらの手がかりを見つけたかも!と思ったけど、やっぱりそんなに甘くはない。
そう思ってページをめくるとまた印を見つけた。
「い」
「何か、何か法則が見つかれば!」
先ほど「23」に印がついていたのは・・・125ページ。
「い」に印がついていたのは・・・55ページ。
思いついて45ページを開いてみる。
ページに滑らせる指がムズムズしてくる。真ん中の下の方にはまた印がついていた。
アプルは震える手で目次を開くともう一度「56」の文字を探す。
「違う。56じゃなくて5だ。・・・5のつくページのことだったんだ。」
アプルはポケットからペンを取り出すと、紙を探すが紙はない。仕方なく左手の平に見つけた文字を書いていく。
「ハ、み、る、ト、ン、い、チ、の、15、25、に、ち 、23、0、」
緊張で手のひらがムズムズして、変な汗のせいで文字が滲んでいる。
アプルは本を閉じると、本を抱えてカウンターまで急ぐ。閉館間近の館内は人も疎らだが、誰にも見つからないよう慎重に動いて、カウンターの下に本を隠した。
カレンダーを見れば、確認するまでもなく今日は25日。
もしこれが本当に押し込み強盗の連絡方法なのだとしたら・・・。
「アプル?」
「ひゃいっ!」
驚いて変な声が出てしまったアプルはそうっと振り向く。後ろには不思議そうな顔の館長が立っていた。
「どうしたの?顔色悪いけど。」
「・・・館長。」
心配顔の館長に本のことを知らせようとしたが、まだ館内には人が残っている。この中に押し込み強盗の仲間がいないとは限らない。なんとなく見られているような気がして落ち着かない。
ここで本を渡して気づかれたら・・・。
ふとアプルは左手のメモを思い出した。
「いえ、もうすぐ閉館時間ですよね。私、この間の事故で助けてもらったお礼をしに、近衛隊のオーリーのところへ行って来ようと思っているんです。」
話しながら、素早くカウンターの上のメモ用紙に、押し込み強盗の連絡方法を見つけたことを書くと、館長に渡す。
「ちょっとお礼が遅くなってしまったので、できたら今日は早上がりさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ん、ああ。そうだね。お礼に行った方がいいだろう。サボっていたのがバレてから、図書館には来づらいみたいだからね。」
素早くメモを確認した館長は、全く表情を変えず話を合わせてくれた。
「一人で大丈夫かい?」
「ええ、気にしすぎると困るので、一人で行ってきます。」
「・・・気をつけて。ああ、ついでにこの本をダリル隊長に届けて欲しいんだ。よろしく頼むよ。」
館長は適当な本を取ってくると、アプルがカウンターの下に隠した本を挟んで、それを大きな布袋に入れて渡してくれた。
「行ってきます。」
緊張しないよう努めて、アプルは図書館から近衛隊の詰所に向かった。
夢うつつで聞いた話では、押し込み強盗の一味と変装した警ら隊がいるらしいが、アプルにはもちろん区別がつかない。なので、出来るだけカウンターや他の職員から死角になる場所は避けるようにしている。
それでも気になるのは、カウンターから死角になるこの棚だ。
「またあの本が入ってる。」
アプルが梯子から落ちた事故の時、女が持っていた本。あの時、正しい棚に戻したのに、また哲学の棚に戻っていたのである。
もちろんオーリーとダリルにその話はしたが、特に怪しいところはなかったと言っていた。
アプルはその本を手に取ると、パラパラとめくってみる。建築の構造理論の本らしく、図解や数字が多いが、特別な何かがあるわけでもない。ページの途中に何かが挟まっているわけでもない。
「考えすぎ・・・かな。」
もう一度パラパラめくると、一瞬印のようなものが見えた気がした。
「あれ」
もう一度。ゆっくりページをめくると印のあるページを見つけた。構造計算のページで計算式の中の「23」の数字が丸で囲んである。
「?」
ペラペラと前後のページを確認しても何もないし、この数字は計算式の中の一部なので、特に重要な意味があるとは思えない。
残念なことに図書館の利用者の中には、本に印をつけてしまう人も確かにいる。「ここは重要なところだから」と言って、線を引いてしまう薬屋の御隠居さんもいる。
ただの落書きなのだろうか?
何気に目次を見てみると、目次にも印があった。
『近代建築の変容・・・・・56』
「56」に丸印がついている。
「56ページ。56あった!」
ページを開いて指を滑らせるが、どこにも印はない。
「どういうこと?・・・やっぱり関係ない?」
もしかして、押し込み強盗の連絡方法とやらの手がかりを見つけたかも!と思ったけど、やっぱりそんなに甘くはない。
そう思ってページをめくるとまた印を見つけた。
「い」
「何か、何か法則が見つかれば!」
先ほど「23」に印がついていたのは・・・125ページ。
「い」に印がついていたのは・・・55ページ。
思いついて45ページを開いてみる。
ページに滑らせる指がムズムズしてくる。真ん中の下の方にはまた印がついていた。
アプルは震える手で目次を開くともう一度「56」の文字を探す。
「違う。56じゃなくて5だ。・・・5のつくページのことだったんだ。」
アプルはポケットからペンを取り出すと、紙を探すが紙はない。仕方なく左手の平に見つけた文字を書いていく。
「ハ、み、る、ト、ン、い、チ、の、15、25、に、ち 、23、0、」
緊張で手のひらがムズムズして、変な汗のせいで文字が滲んでいる。
アプルは本を閉じると、本を抱えてカウンターまで急ぐ。閉館間近の館内は人も疎らだが、誰にも見つからないよう慎重に動いて、カウンターの下に本を隠した。
カレンダーを見れば、確認するまでもなく今日は25日。
もしこれが本当に押し込み強盗の連絡方法なのだとしたら・・・。
「アプル?」
「ひゃいっ!」
驚いて変な声が出てしまったアプルはそうっと振り向く。後ろには不思議そうな顔の館長が立っていた。
「どうしたの?顔色悪いけど。」
「・・・館長。」
心配顔の館長に本のことを知らせようとしたが、まだ館内には人が残っている。この中に押し込み強盗の仲間がいないとは限らない。なんとなく見られているような気がして落ち着かない。
ここで本を渡して気づかれたら・・・。
ふとアプルは左手のメモを思い出した。
「いえ、もうすぐ閉館時間ですよね。私、この間の事故で助けてもらったお礼をしに、近衛隊のオーリーのところへ行って来ようと思っているんです。」
話しながら、素早くカウンターの上のメモ用紙に、押し込み強盗の連絡方法を見つけたことを書くと、館長に渡す。
「ちょっとお礼が遅くなってしまったので、できたら今日は早上がりさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ん、ああ。そうだね。お礼に行った方がいいだろう。サボっていたのがバレてから、図書館には来づらいみたいだからね。」
素早くメモを確認した館長は、全く表情を変えず話を合わせてくれた。
「一人で大丈夫かい?」
「ええ、気にしすぎると困るので、一人で行ってきます。」
「・・・気をつけて。ああ、ついでにこの本をダリル隊長に届けて欲しいんだ。よろしく頼むよ。」
館長は適当な本を取ってくると、アプルがカウンターの下に隠した本を挟んで、それを大きな布袋に入れて渡してくれた。
「行ってきます。」
緊張しないよう努めて、アプルは図書館から近衛隊の詰所に向かった。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい
今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。
父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。
そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。
しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。
”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな”
失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。
実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。
オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。
その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
婚約者の心の声が聞こえるようになったが手遅れだった
神々廻
恋愛
《めんどー、何その嫌そうな顔。うっざ》
「殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
婚約者の声が聞こえるようになったら.........婚約者に罵倒されてた.....怖い。
全3話完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる