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地雷少女の名は
しおりを挟む「作品愛も無いのに、強いキャラでどや顔するやつってきらいです!」
俺、富豪 快 に罵声が浴びせられた。
寂れたゲームセンターではよくある出来事だ。
ただ一点、その声の主が綺麗な女性であることを除いて。
何でこんなことに。
俺を睨みつける女を冷めた目で見つめながら、こんなことになった原因を思い返していた。
話は一時間前に遡る。
ゲームセンターには動物園があるというのはご存知だろうか。
いや、哲学的な問いではなく……。
あるんだよ、動物園が。
「ヤァッタァアアアアアア! 覚醒やったぁあああ!」
「マァアアアアアアアア! (台パン!)」
「やべぇって! うぉおおおい!」
ゲームセンターの一角では、今日も動物園が開園されていた。
今日も賑やかだ。
学校の帰り道、駅の近くのゲーセンに寄ってみたが案の定人だかりが出来ていた。
流石、「チンパンジーVSチンパンジー マクロブースト」。
かなり昔から稼動している長寿ゲームで、有体に言えばチンパンジーがロボットに乗って戦うアニメのゲームだ。
俺はこのゲームに、はまっておりバイト代は全てこいつとラーメンに使っている。
しかし、今日は特に猿が多い。
このゲームをやる人間はゲーム性のせいか人間性のせいなのか、非常に好戦的でうるさい。
だから、周りから「お猿さん」と呼ばれる。
「やったぁああああああ! 勝ったよママァン!」
「あいぼおおおおぉぉおおおお!」
「勝った、勝った! オレツヨイ、オマエヨワイ!」
このように、大型のゲーセンでは人が多くこうなることが多い。
俺は、脱獄した猿を横目にゲームセンターを出た。
やっぱり、ここだな。
鉄骨が建物からはみ出しており、いたるところが錆付いている。
閉店したように見えるが、中では音ゲーやクレーンゲームが顔を覗かせる。
ここが俺のホームだ。家から近く人が少ない。
このゲームは、やはり静かなところでやるべきだと俺は思う。
所狭しと並ぶ筐体をすり抜け、奥に足を運ぶ。
そこには、四台の青い筐体。
マクロブースト通称マクオン。
二台づつ並んで置いてあるのは、2対2で戦う協力プレイのためだ。
しかし、俺が行うのはシャッフルという一人でオンライン対戦できるモード。
何でだと? ……猿に友達なんていないにきまってるだろ!
慣れた手つきでいつもの席に座った。
しかし、ルーティンの中で引っかかりを覚える。
人がいた、見覚えの無い顔だ。新米なのだろうか。
喧嘩を吹っ掛けられない様に、ちらりと除きこむ。
「え……」
小さく声が零れる。
女性だ。
しかも、こんな場所に似合わない程綺麗な。
腰までの艶やかな黒髪。世界の先まで見通せそうなはっきりとした瞳。
振る舞いの全てに、気品のよさが溢れ出ていた。
彼女は、アミューズメントカードを筐体に押し付ける。
答えるように、ビシュュン!という音を立てて階級が表示される。
表示されたのは、銀色が輝くプレート。
このゲームは、無名、青プレート、銅プレート、銀プレート、金プレートが存在している。
プレート内では少尉、中尉、大尉、等に分けられており。
それぞれに、星が割り振られている、星を5つ集めると次の階級に進むことが出来る。たとえば、少尉星5の次は中尉星1のように。
俺は、銀プレート星1。少佐だ。
4月からはじめ、6月に入りやっと銀プレートになった。
彼女も銀プレートのようだがかなりやりこんでいるようだ。
精神を研ぎ澄ましながら、百円を流し込む。
この瞬間は、命の次に大事である金が消費される一瞬であり、このゲームをプレイする者の神聖な時間とも言える。
バシュュン!という音と共に、ゲームが起動しキャラ選択場面に至る。
俺が選ぶのは勿論これ!
「機動チンパンジーOO(二つ丸)リボーンチンパンジー」
赤を主体にしたカラーリングで、キャノンモードと二足歩行モードを使いこなす機体だ。
このゲーム史上の最強の機体(超絶強い性能を保持しているため)といわれ皆が敬遠しているような機体だがあえて俺は使う。
勝てばいいのだよ! 戦いはキャラパ(キャラクターパワー)だよ兄貴!
機体を選び、オンラインモードに入る。
オンラインモードでは、他のゲームセンターでプレイしているレベルの近い人とランダムで選ばれ戦うモードだ。
隣でプレイしている場合と違い、意思疎通が口頭で行えないがオンラインシャッフルのお手軽さは、何者にも変えがたい。
CPUとの対戦中、下に対戦者乱入中と警告される。
これは、人が集まった時の合図のようなものだ。
さて、と気合を入れたとき同じような音が自分の筐体とリンクして聞こえる。
嫌な予感がした。
隣を、静かに覗くと同じタイミングで場面が切り替わる。
しまった、この女の子と対戦することになってしまった!
同じような階級の場合、タイミングが上手く合ってしまうと同じゲームセンター内でもオンラインで戦うことになってしまう。
別にそれは、悪いことではない。
唯一つ悪いことがあるとすれば、相手を負かした場合や負けた場合ものすごく気まずいということだ。
同じ場所で、勝利BGMと敗北BGMが同時に流れる……。
お互い目を合わせてしまったら会釈をする……。
なんだこの新社会人の名刺交換のような、ふわふわした空間は。気まずすぎではなかろうか!
かわいい女の子ならなおの事だ。
四対の選択した機体が表示される。ここからランダムで振り分けられる。
ここで、俺はキャラクターネームではなく、プレイヤーネームの下に表示されるプレイ中のゲームセンターの表示を見つめた。
やはり、このゲーセンの名前が表記されている。
ゲーム画面では、プレイヤーが使用する4つの機体が2つのチームに分かれて表示された。
うげ……、敵か。
仲間だった場合であれば、一度勝つなり負けても会釈ですむが、敵だと気まずさが3倍増し(体感)。
彼女の機体は、2000コスト。
「出血のアルティンス バルバチンパンジー」
主人公機の象徴である白を、主体とした機体。
先端の尖った槍のようなものと、身長ほどある大砲を使って戦う射撃機体。
特殊射撃ボタンを選択することで、突然近付いたり引いたりというトリッキーな先頭が可能になる。
2000コストは、他と比べて性能が低いものが多くプレイヤースキルに依存しやすい。
そんな機体をあえて使うとは、まさかこの子は職人なのか……。
職人とは、機体の性能差を埋めるほどの練習量でプレイキャラクターを昇華させるいわゆる凄腕の人間ということだ。
そんな疑念を置いて、ネットワークはバトルの開始を促すカウントを始める。
3、2、1、の合図と共に自機と「相棒」の機体が戦地に足をつける。
バトルスタート!
開始と共に、両機が散会する。
このゲームは、チームごとに設定された6000のコストを減らしあうゲームだ。
一度機体が倒されれば、そのコスト分減ってしまう。
俺が使用しているリボーンズチンパンジー、コストは3000だ。
たとえば、俺と相棒(2500コスト)がやられた場合、3000+2500で500分しか残らない。
先に俺が落ちた場合は、3000コスト分の体力で帰って来ることが出来るが、相棒は3000から2500分のコストを払っているので残り体力は500コスト分。微々たる物になり戦況が不利になる。
相手の出方が分からない以上はなれるのは得策ではないのだが、シャッフルではそんなことも言ってはいられない。
離れたからには、自分に出来る事をするまでだ。
「いけ、ファンネル!」
キャノンモードに変更し、ファンネルという自身の体から放つドローンのようなものを相手に向けていくつか放つ。
彼女の相棒は、3000コストのため。先に低いコストから落とせたほうが有利なのだ。(2000コストを倒した場合、残りは4000。ここで3000を倒せれば残り1000で出てくることになるため)
それらは、相手に近付き遠慮のないビームを打ち放つ。
しかし、バルバチンパンジーは焦る様子も無く。
直撃した。
「はい?」
自然に口から言葉が漏れた。
バルパンジーなら高速移動なり、跳ねるように格闘をするピョン格という選択もあるのだ。
何もしないというのは、リアルで何かがあったか、何かの事故で回線が切れしまったか。
しかし、そのどちらでもないことは隣を見ることで明白だった。
その後、動いたかと思えば初めて立った赤子のように歩き回り、気がつけばファンネルに当たってまた倒れ。また、散歩を始める。
そして、三回ともバルパンジーが倒されて終了。
戦いがあっけなく終わり、相手の相棒に同情すら覚えた。
せっかくの100円がこんな戦いで消えてしまったのだ。可愛そうどころの話ではない。
「でもまぁ、まずは上々だな」
WIN! の画面と共に、さわやかで脳汁が出そうなほど綺麗な音楽が流れる。
これを、楽しみにこのゲームをやるものも少なくは無い。
爽やかな音楽を聴きながら、勝利の喜びを噛み締めていると、俺は突然現実に引き戻された。
「ふざけないでください!」
「は?」
突然、発された大声に驚いて顔を横に向けた瞬間、鼻先を何かが掠めた。
先ほどの女性だ。
彼女は片足をあげ、スカートの中が見えるか見えないか際どいポーズで立っている。
蹴りを放ったのだ、俺の顔面に向けて。
「作品愛も無いのに、強いキャラでどや顔するやつってきらいです!」
「……」
俺は、ふと思い出すことがあった。
このゲームのプレイヤーは猿。こんなプレイをかます女は、最も危険な存在なのだと。
誰もが、忌み嫌う地雷プレイヤーなのだ。
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