9 / 23
第9話 尻ヒコーキ
しおりを挟む
畝が大分形になってきた。
この行程も既に、折り返しに差し掛かっている。
10日も同じ仕事を繰り返すと、さすがに上達するもんだ。
力の入れ所や抜き所がわかりはじめていた。
「よいしょぉーよいしょッ!」
「おぉー。今日は気合い十分だね」
「もちろんだ。本気のオレ、見たくは無いか?」
「アハハ、見せて見せてー」
「よっしゃぁーやったるぜーぃ!」
最近気づいたこと。
アヤメに誉められると、なんつうか……嬉しい。
こんな軽口にも笑ってくれるのが、楽しい。オレはより強い快感を得るために、有言実行するのである。
手早く、キレイに、確実に。
誉めてもらえる畝を作るんだ。
手早く、キレイに、確実に。
なんとかして『カッコイイ』の単語を引き出すんだ。
プスリ。
その時、ケツに痛みが走る。
「いてぇっ」
足元には紙飛行機が転がっている。
どっから飛んできたんだ?
振り替えると、森の中に1人の少女が立っているのが見える。
中学生くらい、だと思う。
「これ、君の?」
コクリと少女が頷く。
若い子がまたレトロな遊びをするもんだ。
「はい。あまり人の方を向けないようにな?」
またコクリと頷く。
難しい年頃だろうに、随分と素直だな。
それはさておき、畝作りますか!
手早く、キレイに、確実に。
なんとしても『カッコイイ』の単語を引き出し……ブスリッ。
「いってぇ!」
さっきと同じく紙飛行機が見つかるが、より凶悪な形状をしていた。
先端に画鋲が括りつけられている。
こんなもん投げたら危ねぇだろうが!
「攻撃的中。標的のダメージを確認した」
例の少女が双眼鏡を構えながら言った。
このガキ……大人をからかいやがって!
こんな悪い子は教育が必要だな、そうだろう?
2発目の紙飛行機を握りしめつつ、少女に一歩一歩歩み寄った。
こっちは怒りをむき出しにしているのに、相手は怯む様子が微塵もない。
そこにまた腹が立つ。
これはギチギチに叱らなくてはならない。
そのナマイキな目が涙に濡れるまでネットリとな!
「くぉらクソガキ! こんな危なっかしい遊びしやがって……」
「あら、スミレちゃん。学校はもう終わったのー?」
「アヤメちゃん、こんにちわ。今帰ってきた所です」
後ろから滑り込み気味に挨拶が飛んでくる。
オレは慌てて怒気を抑えた。
もし友達同士だったとしたら、雑な叱り方は許されない。
好感度に響くからな、慎重に行こう。
「ダイチくん。話しかけようとしてたけど、いつの間に知り合ったの?」
「今しがただよ。こいつをぶっつけられたんだ」
「あらー。また危ないことするのねぇ。ダメじゃない」
「アヤメちゃんに悪い虫がたかっていたので、サクッと追い払おうかと」
ほう……農作業に勤しむ好青年に向かって『悪い虫』ときたか。
今や立派な従業員なんだぞ、おう?
「ダイチくんはね、真面目なお手伝いさんなんだから。そんな事言っちゃダメだからね」
「そんなことないです。凄く不純な念が溢れてました」
「えー、何それ。気のせいだって」
「たぶんですけど『格好いい』とか言われたがってました。見ていて痛々しいほどのアピールで」
おい、シレッと心を読むんじゃない。
それアヤメに聞かれたらダメなやつ!
「そんな訳無いよ。ダイチくんとはそういう関係じゃないの。そうよね?」
「ハイ、ソウデス」
「一緒に暮らしてはいるけど、全然そんな感じじゃないもの」
「ハイ、ソノトオリ」
「その割には心がささくれているようですが……わかりました」
スミレという少女はそこで帰っていった。
できれば二度と会いたくない。
と思っていたが、以降やたら会うようになった。
午後の農作業中はもちろん、夜のTRPGタイムにも顔を出してくる。
どうやら隣の松崎さんの娘さんらしく、夜でもお構いなしにやって来るのだ。
「アヤメちゃん、ダイチさんにあまり近寄ってはいけません。髪の匂いをスンスンされますよ」
「何を言ってるのかね、君は。失礼な発言はやめたまえ」
「そうよ、ダイチくんは真面目なんだから。だらしないタイプじゃないよ?」
「そうだそうだ、そんなに嗅がないぞ!」
「いいえ、彼はロールキャベツ男子です。油断するとヤられます」
「ヤられるって、何を?」
「ヤられます」
念押すなよ!
あと目線がオッサン臭いぞ!
少しくらいは恥じらいをもてよ!
ちなみにコイツ、TRPGがすんげぇ上手い。
オレがやって来る前は、アヤメと2人でやってたせいらしい。
そこがまた色々と腹立たつわ!
この行程も既に、折り返しに差し掛かっている。
10日も同じ仕事を繰り返すと、さすがに上達するもんだ。
力の入れ所や抜き所がわかりはじめていた。
「よいしょぉーよいしょッ!」
「おぉー。今日は気合い十分だね」
「もちろんだ。本気のオレ、見たくは無いか?」
「アハハ、見せて見せてー」
「よっしゃぁーやったるぜーぃ!」
最近気づいたこと。
アヤメに誉められると、なんつうか……嬉しい。
こんな軽口にも笑ってくれるのが、楽しい。オレはより強い快感を得るために、有言実行するのである。
手早く、キレイに、確実に。
誉めてもらえる畝を作るんだ。
手早く、キレイに、確実に。
なんとかして『カッコイイ』の単語を引き出すんだ。
プスリ。
その時、ケツに痛みが走る。
「いてぇっ」
足元には紙飛行機が転がっている。
どっから飛んできたんだ?
振り替えると、森の中に1人の少女が立っているのが見える。
中学生くらい、だと思う。
「これ、君の?」
コクリと少女が頷く。
若い子がまたレトロな遊びをするもんだ。
「はい。あまり人の方を向けないようにな?」
またコクリと頷く。
難しい年頃だろうに、随分と素直だな。
それはさておき、畝作りますか!
手早く、キレイに、確実に。
なんとしても『カッコイイ』の単語を引き出し……ブスリッ。
「いってぇ!」
さっきと同じく紙飛行機が見つかるが、より凶悪な形状をしていた。
先端に画鋲が括りつけられている。
こんなもん投げたら危ねぇだろうが!
「攻撃的中。標的のダメージを確認した」
例の少女が双眼鏡を構えながら言った。
このガキ……大人をからかいやがって!
こんな悪い子は教育が必要だな、そうだろう?
2発目の紙飛行機を握りしめつつ、少女に一歩一歩歩み寄った。
こっちは怒りをむき出しにしているのに、相手は怯む様子が微塵もない。
そこにまた腹が立つ。
これはギチギチに叱らなくてはならない。
そのナマイキな目が涙に濡れるまでネットリとな!
「くぉらクソガキ! こんな危なっかしい遊びしやがって……」
「あら、スミレちゃん。学校はもう終わったのー?」
「アヤメちゃん、こんにちわ。今帰ってきた所です」
後ろから滑り込み気味に挨拶が飛んでくる。
オレは慌てて怒気を抑えた。
もし友達同士だったとしたら、雑な叱り方は許されない。
好感度に響くからな、慎重に行こう。
「ダイチくん。話しかけようとしてたけど、いつの間に知り合ったの?」
「今しがただよ。こいつをぶっつけられたんだ」
「あらー。また危ないことするのねぇ。ダメじゃない」
「アヤメちゃんに悪い虫がたかっていたので、サクッと追い払おうかと」
ほう……農作業に勤しむ好青年に向かって『悪い虫』ときたか。
今や立派な従業員なんだぞ、おう?
「ダイチくんはね、真面目なお手伝いさんなんだから。そんな事言っちゃダメだからね」
「そんなことないです。凄く不純な念が溢れてました」
「えー、何それ。気のせいだって」
「たぶんですけど『格好いい』とか言われたがってました。見ていて痛々しいほどのアピールで」
おい、シレッと心を読むんじゃない。
それアヤメに聞かれたらダメなやつ!
「そんな訳無いよ。ダイチくんとはそういう関係じゃないの。そうよね?」
「ハイ、ソウデス」
「一緒に暮らしてはいるけど、全然そんな感じじゃないもの」
「ハイ、ソノトオリ」
「その割には心がささくれているようですが……わかりました」
スミレという少女はそこで帰っていった。
できれば二度と会いたくない。
と思っていたが、以降やたら会うようになった。
午後の農作業中はもちろん、夜のTRPGタイムにも顔を出してくる。
どうやら隣の松崎さんの娘さんらしく、夜でもお構いなしにやって来るのだ。
「アヤメちゃん、ダイチさんにあまり近寄ってはいけません。髪の匂いをスンスンされますよ」
「何を言ってるのかね、君は。失礼な発言はやめたまえ」
「そうよ、ダイチくんは真面目なんだから。だらしないタイプじゃないよ?」
「そうだそうだ、そんなに嗅がないぞ!」
「いいえ、彼はロールキャベツ男子です。油断するとヤられます」
「ヤられるって、何を?」
「ヤられます」
念押すなよ!
あと目線がオッサン臭いぞ!
少しくらいは恥じらいをもてよ!
ちなみにコイツ、TRPGがすんげぇ上手い。
オレがやって来る前は、アヤメと2人でやってたせいらしい。
そこがまた色々と腹立たつわ!
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。
鏑木 うりこ
恋愛
クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!
茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。
ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?
(´・ω・`)普通……。
でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
マリアベルの迷宮
とっとこまめたろう
ファンタジー
セラフィト帝国の第三皇子レグルスは、竜の召喚士である『白の魔女』を手に入れるために幻の国ウィスト公国に派遣されることとなる。しかし、手掛かりと成り得た大公家は兄皇子に処断されてしまった。レグルスは唯一生き残った息女を政略的に花嫁に迎えることになるが……?
女を絆そうと四苦八苦する男と、鉄の心で武装した女の、政略結婚から始まる復讐劇と恋愛物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる