豆を奪え、転生者!

おもちさん

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第18話 頂上決戦

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じっくりと考えて、計算する。
雑談相手も無く黙々と。
カリカリ、うーん。
カリカリ、ううーん。

開拓村の現在と未来を浮かべつつ、必要な数字を割り出していく。
それがミノルさんの1日。
朝から晩まで区切り無く、だ。


「はぁ……。そろそろ防衛ラインについて考えないと」


気持ちは完全にゲンナリしていた。
そういう時は高確率でミスを誘う。
消ゴムは無い。
だから黒インクを消す手段が無い。
修正するには二重線だ。

カリカリ、うーん。
カリカリ、ううーん。

計算を間違えた。
暗算に頼ったのがマズかったか。
消ゴムは無い。
それはさっきも思った事だ。
黒インクは頑固にも紙面上に居座る。
やはり修正には二重線だ。

カリカリ。
消ゴムは無い。
カリカリ。
消ゴムは無い。
消ゴムは無い。
消ゴムは消ゴムは消しゴムごむごむ……。


「あぁーー! もう嫌だァァアーーッ!」


オレは飛び出した。
完全にブラックな作業場から自由に向かって逃走だ。
さらばデスクワーク、また会う日まで。

しばらく坂道を喚きながら駆け上がると、オッサンたちの姿が見えた。
新たに用意した広場。
アイツらは修練場と呼んでいるが、オレには運動公園にしか見えない。
野球をやるのに調度良いと思うだけだ。

そんなだだっ広いスペースで、男2人が訓練らしきものを催していた。
休日に見かける父子の交わりのように微笑ましいが、本人たちは真面目だったりする。
というか、渡りに船。
オレもアイツらと一緒に運動させてもらおう。


「おおーい、オッサン! オレも混ぜてくれよ」

「ミノル殿。自分の仕事は終わったのか?」


釘を刺すような言葉が返ってきた。
途中でほっぽり出してきたから、何ともバツが悪いと思う。
でもオレは退かないからな。

「心配しなくてもスケジューリングは出来てるよ。つうかオレも強くなりたいんだ」

「ふむ。どのように鍛える?」


どのように、とはトレーニングメニューの事だろう。
筋トレやら走り込みとかから選べと。
それは聞くまでもないぞ。


「そんなもんガチバトルに決まってんだろ。存分に殴りあって、日頃のストレスを解消しようじゃねぇか!」

「ではそのように」


トガリが気を利かせて離れてくれた。
広さだけが取り柄の空き地で、オッサンと真っ正面から向かい合う。
うん、でかいな。
転生前だったら逆立ちしても勝てない相手だろう。
まぁ、倒させてもらうがね。


「ハァァア……!」


国民的バトル漫画より構えを拝借する。
あれは確かカンフーをテーマにしてたので、場違いな姿勢ではないだろう。
オッサンの様子はというと、変化は無い。
完全に舐めてるんだろうか。
チュニック砲食らわすぞこの野郎。

……スッ。

オッサンが静かに身構えた。
流れるような動きは達人そのものと言える。
それを見た瞬間、全身に冷や汗が流れ始めた。
相手に大きな変化はない。
それにも関わらず、早くも追い詰められたような気分になる。


ーー並の達人ではございません。十分にお気をつけください。


オレの直感を肯定するように、アリアが警告を発した。
やっぱり見かけ倒しの男じゃ無かったようだ。
だが、オレは天下無敵の転生者。
人間ごときに負けるハズがない。
それを今ここで証明してやる!


「行くぞオラァーーッ!」


全速力で距離を詰め、相手の顔目掛けて回し蹴りをかます。
顔を退げて避けられる。
蹴りの勢いを止めずに1回転して、中段へ押し出すような蹴り。
それは相手の片手でいなされ、体捌きで上手くかわされる。
さすがは本職。
技術力が半端じゃない事を悟らされた。

だが、攻撃は緩めない。
足払い、からの蹴り上げ。
まるで心を読まれているかのように当たらない。
避けられるか、打点を逸らされるかの2択となった。


「甘い」

「クソッ! これなら!」

「見え見えだ。当てさせん」

「上から目線でレクチャーすんな!」


攻撃が一向に当たらない。
だが、諦めるのはまだ早い。
実はここまで全てを足技で統一していたのだ。
最強技をもうすぐ見舞ってやる。


「くらぇーーッ!」

「何度きても同じだ」


顔目掛けて回し蹴り。
さっきのように避けられる。
だが、それで良い。
オレは蹴りのモーションを途中で止めて、足を下ろしつつ強引に一歩踏み込んだ。

隠し技は正拳突きだ。
試行錯誤しつつ何百回も繰り返したから、この動きには自信がある。
このまま砕け散るが良いわ。


「ムッ……」


オッサンは両手を重ねて拳を止めようとした。
オレの一撃はその防御を打ち破り、そのまま腹に直撃する。
……はずだった。

目の前の巨体はこの攻撃で吹っ飛んだが、拳にロクな手応えが全くない。
もちろん相手にダメージが通った様子もない。
なぜだ。
確実に当てたと思ったのに。


「よくぞ身体能力のみで、そこまでの動きを見せた」

「何でだ? どうして平気なんだよ!?」

「今度はワシの番だ。上手く受けてみせよ」

「なっ……!?」


その動きは見えなかった。
突然目の前にオッサンが現れたという感じだった。
拳が迫る。
避けなきゃ。
でも、どうやって!

守るポイントを見失ったオレは、攻撃をまともに受けてしまう。
脇腹に深々と突き刺さる巨大な拳。

「グハッ……!」

肺の空気が全て奪い去られたようだ。
呼吸が止まる。
そして、オレの意識は途絶えてしまった。




「……ル。ミノル」

「うぅ、誰だ?」

「ミノル、大丈夫?」


いつの間にかレジーヌの顔が目の前にあった。
膝枕での介抱だ。
こんな経験は人生で初めてだが、それよりも気になる事がある。


「……オッサンは?」

「グランドなら見回りに出たわよ」

「クソッ。負けたのか、言い訳の余地も無いくらいに!」

「ところでさ、あなた怪我をしてるんじゃない?」

「怪我……してるなぁ」


服を捲(まく)ると、脇腹にアザができていた。
皮膚が紫色になっていて見ただけでも痛みを感じてしまう。


「激しい訓練をしたのね。薬を塗ってあげるから、服はそのままにしてて」

「へぇ。薬なんてあるんだ。そりゃ助かるな」

「最後のひと袋だから、無駄遣いはできないんだけどね。でも痛そうだから……」


レジーヌは小さな革袋を開いた。
純白の粉のような物が袋の口から見える。


「じゃあ塗りまーす……へっ」

「へ?」

「ヘップショォイッ!」


盛大なクシャミにより、盛大に粉が辺りに舞う。
貴重品らしいそれが景色を白く染め上げた。


「あっ」

「あ、じゃねぇよ! 無駄遣い厳禁じゃなかったのか!?」

「どうしようどうしよう! かき集めて戻せないかな!」

「無理だよ、砂も一緒に混ざってんじゃん!」


こうして最後の傷薬がアホな理由で消費された。
この後レジーヌを『ケツ棒の刑』に処した事は言うまでもない。
姫とは言えど特別扱いはしない。
何事も公平にがオレのモットーだからな。
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