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第二部

2ー61  無垢なる娘

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まおだら the  2nd
第61話 無垢なる娘



自由を奪われ身動きが取れないっていうのは、想像以上に苦痛だった。
完全に縛り付けられていて、ほんの一歩すら向こうに進むことも許されない。
拘束している縄だの鎖だのが見えれば対処もできるが、そんなものは何もない。


「どう、気分の方は?」


気安く声が掛けられてくる。
気分がどうかだって?
オレは率直に答えた。


「最高にして最悪、だな」
「すごい自己矛盾だね。詳しく聞いてもいいかい?」
「最高なのは娘の傍に居られること、最悪なのはガラス玉から身動きが取れないことだ」


まるで体が同化したように、例の玉から離れられない。
勢いよく飛び出そうとして失敗。
ゆっくり離れようとしてもダメだ。
手だったり足だったりと体勢による違いはあるが、必ずどこかがガラス玉にペタリと張り付いてしまう。
だからこうやって、ブレスレットの上に鎮座しているという訳だ。


「みんなを助けられたからいいけどよ。まさかこんな身上になるとはな」
「だからあの時に言ったじゃない。どうなっても知らないって」
「は? んなこと聞いてねぇが?」
「聞こえなかったの? まぁ些細なことさ」
「つうかよ。何でオレは囚われの身になってんだよ」
「そりゃあモチロン、僕がやったんだよ」


モコは人差し指を立てつつ答えを示した。
なるほどね、お前のせいだったかぁー。
……殺すぞ。


「不満顔だね。気持ちはわかるけど」
「言いたいことは全部吐いとけ。間もなくお前は八つ裂きにされるからな」
「僕も死んでるから無駄だってば。言ったでしょ、誰かを殺しちゃうと悪霊化するって。それを防ぐために君をガラス玉と紡いだの。シルヴィアの念が守ってくれるからね」
「お前はそんな芸当も出来たのかよ」
「龍王の宝珠のおかげだよ。そこから力を拝借したんだ」
「じゃあここから出してくれるよな?」
「もう無理。宝珠の力が空っぽだから」


即答の拒否だ!
あっはっは、もう笑うしかねぇ。
木に上って降りられなくなった猫みてぇじゃねぇか。


「こんな状態じゃ長くはもたねぇよ。どうすりゃいいんだ……」
「魔力を使いきればいいんだよ。そうしたら晴れて自由の身。今度こそ転生できるさ」
「そうかい。あとどれくらいだ?」
「もう一発清龍を撃ったらなくなるかな」
「次の大戦が来るまで待てってのかよ。あるかどうかも分からんものを」
「となると、ひたすら顕在化するしかないね。ガラス玉の外に出てるだけで、ちょびっとずつ消費するからさ」
「今みてぇにか?」
「そうそう。どうせ誰にも見えないんだし、ダラダラと過ごそうよ」


ダラ愛好家のオレに言わせたら、これはダラではない。
勝手気ままに振る舞える要素が無いからだ。
これはただの時間の浪費と言える。


「やることと言えば、こうしてシルヴィアとケビンの寝顔を眺めるくらいか……」


ブレスレットは枕元にあるサイドテーブルにおかれている。
だから2人を至近距離で観察できる。
ひとつのベッドで寄り添いつつ眠る2人を。
叶うならオレも混ざりたいもんだ。


「ふへー……ぇへへ」
「あ、シルヴィアが笑ったね。楽しい夢を見てるのかな?」
「おう、さすがはシルヴィアたん。天使以上に無垢な笑顔だな」


昔からそうだった。
この清らかな寝顔に何度救われただろう。
疲れきった日に眺めては、明日の活力を与えてもらったもんだ。


「ふへへ。爆乳ランク四天王入り……ふへーへぇー」
「ちょっと悲しい夢を見てるね。無垢とは言い難い夢を」
「やめろ。シルヴィアはどうあっても世界一だからな」
「うんうんそうだね。分かってるってー」


夜はまだ長い。
世界が眠りから醒めるまで相当な時間がある。
条理から切り離されたオレたちは、他愛の無い会話を続けるしかなかった。
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