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第二部

2ー54 激突

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まおダラ the  2nd
第54話 激突



『本日の正午。天高く輝く太陽の元、正義の軍が蹂躙する』


そんな宣言がグランから発せられたらしい。
わざわざ通知をするなんて慣習通りなのか、それとも自信があるのか。
理由がどっちにあるのかは分からなかった。

ーー本当に、約束通り攻めてくるのかな?

もうじき刻限となりそう。
多少疑いの眼差しでグラン側を見ると、美しく整列し、全く乱れていない。
あそこに居るすべての人と戦うのかと思うと、お腹のあたりがツキリと痛んだ。


「来ますな。全軍、迎撃準備!」


クライスおじさんの鋭い声。
私の前に居る味方の兵隊さんは、号令に身を固くして構えた。
みんなの荒い息が聞こえてくる。
緊張してるのは私だけじゃないらしい。
そして……。


ーーザッ ザッ ザッ。


前に展開していたグランの槍兵が前進を始めた。
駆け足ではなく、静かにゆっくりと。
その落ち着きぶりから並々ならぬ自信が伺えた。


「敵前衛が前進。他部隊に大きな動きなし!」
「弓隊および魔法部隊は先制攻撃を!」
「わかったわ。みんな私に続いて」


リタ姉さんを筆頭にした部隊が魔法で応じた。
大きく鋭い風刃が敵の前衛を襲う。
私の後方に居る弓隊も、次々と矢を射かけていく。
この激しい攻撃が敵兵を多く倒す……ハズだったんだけど。


ーーバチィンッ!


それらは相手に届くことはなく、中空で矢は灰になり、魔法は壁のようなものに阻まれた。
しっかりと対策をされているらしい。
もちろん敵は怯むことなく向かってくる。

ーーザッ ザッ ザッ。

その歩みを止める術はない。
せめて一撃を加えられたらと思う。


「アシュリー姉さん、攻撃に参加できる?」
「無理ですね。私の防御を解いたら、みんなハリネズミですよ?」
「そうだよね。無理言ってごめんね」


相手側も弓矢で牽制してきていた。
雨のように降り注ぐ矢は、アシュリー姉さんの防御によって防がれている。
その代わり、姉さんが攻撃に回る余裕はないみたいだ。


「仕方ありません。前衛第一陣、第二陣は前進。第三は待機」


命令を受けて前列が進んでいった。
私は第三隊の中で待機。
視界が開けたせいか、臨場感が一層高まっていく。


「第一陣は三分割、それぞれが固まって突撃。第二陣は二隊に分かれて、左右から挟撃」


出された指示にも、すぐに味方が動きを変えていく。
相当な訓練を積んだ証だと感じた。

そしてとうとう、両者がぶつかった。
槍を突きあい、剣が舞い、その度に辺りが血で濡れる。
改めて死線に立っていることを実感した。


「クライス殿。どうやら敵の前衛は魔法で守られていないらしい。こちらの攻撃が届いている」
「そのようですな。戦況は一進一退、遠距離戦の雲行きにも関わらず、善戦してます」


敵陣を突破して背後を突こうとする第一陣。
強くぶつかってみるものの、厚い守りは簡単に抜けられない。

相手方は数の多さを活かして、横に広がりつつ包囲するように動いていた。
3つに分かれた第一陣をそれぞれ包み込むように。
まるで蛇が獲物を食らうかのような形になる。


その包囲を崩そうと、第二陣が左右から攻めかかる。
こちらは内と外から攻撃しているけど、どうにも数が足りない。
倒し倒されの状況が続く。
ここで第三陣の私たちが参加すれば崩せそうだ。

でも、それを待ってくれる敵ではない。
突然前衛の数人が弾け飛んだのだ。


「亜人にひれ伏す腰抜けどもめ、今すぐ皆殺しにしてやる!」
「なんだコイツは! 誰か止めろ!」
「くたばれぇえ!!」
「グァァアーッ!」


その大斧が縦に横に振られる度に、ひとりふたりと命を奪っていく。
私はそれを自陣から眺めるだけだった。


「弱い、弱すぎる! 魔王などに魂を売った腑抜けの兵はなぁ!」
「グヘッ」
「ギャァァァッ!」


為す術もなく、両断されていく味方の兵。
私は自分の無力さを噛み締めつつ、遠くからじっと……。

じっと……。


「見てられないよ!」
「お嬢様どちらへ?!」


私は全力で駆けた。
斧の男まで一直線に。
あと10歩の所で、お互いの視線が重なる。
姿勢を低く。
抜き打ち様に切り上げた。


ーーガキィンッ


挨拶変わりの攻撃は、当たり前のように防がれた。


「なんだ小娘! 女子供が戦場をうろつくな!」
「余計なお世話よ、いいから勝負しなさい!」
「フン、後悔しても遅いからな?」


私は手数で勝負した。
相手の反撃を許さないほどの連続攻撃だ。
振り下ろし、摺り上げ、横に薙ぐ。
男は流石に全てを捌いたけれど、攻撃に回る余裕はないようだ。


「クソッ。調子に乗りやがって!」


相手が苛立ってるのがわかる。
後は上手く誘えばいいだけだ。
それから5度、同じように斬りつけては捌かれる事を繰り返した。

ーーフゥ……。

剣を構えつつ大きく息をついた。
その時、男は斧を肩の方へ大きく振りかぶった。


「もう終わりか! じゃあ死ね!」


斜めに振り下ろされる斧。
それを跳躍しながらかわす。
そして、がら空きの肩口に一閃。

ーーザシュッ!

私の剣が深々と刺さる。
男は血を噴きつつ、背中から倒れた。
それから動揺する声と歓声が、ほとんど同時に巻き起こった。


「みんな、今のうちに怪我人を後方に!」


私は上ずった声で指示を飛ばした。
高揚感と罪悪感が入り雑じっているせいだろうか。
そんな感情も、テレジアの叫び声によって消えていった。


「お嬢様ー! お怪我はないッスかー?!」


真っ青な泣き顔で駆け寄ってくる。
その姿を見て、私は平常心を取り戻したのだった。
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