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第二部
2ー11 デジャブる日
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まおダラ the 2nd
第11話 デジャブる日
「じゃあ、そろそろ行くか」
「はい。参りましょう」
アシュリーが元に戻る気配はない。
今日一日この調子かと思うと気が重くなる。
飛ぶ準備に入ると、アシュリーがオレの手に指を絡めてきた。
いや、他の連中ならいざ知らず、お前は自分で飛べるだろう。
手を繋ぐ必要なんか無いだろうが。
「おとさん、おねえちゃん、いってらっしゃーい!」
「お、おう。行ってくるよ」
手を振り払おうかとも思ったが、シルヴィアの前ではそれもやりづらい。
仕方ない、このまま行こう。
片手に違和感を覚えたままに飛翔した。
天高く舞い上がってもアシュリーは自分の羽を出そうとしない。
このまま手を放して、大地と接吻させてやろうか。
ちょっとイラついた目線を飛ばすと、満面の笑みで話しかけてきた。
「私、空が好きです。青空も、曇り空も」
「そうかぃ。オレは今日みたいな空が好きかな」
本日は晴天。
雲ひとつ無いという言葉がピッタリだ。
こんな日に空を飛ぶと、解き放たれたような気分にしてくれる。
アシュリーはクスリと笑い、それから返事をした。
「アルフはそうだと思います。私はあなたほど強くないので、曇り空も必要ですね」
「どういうことだ?」
「自分が辛い目にあったとき、晴天だとさらに辛くなってしまうんです。空はこんなに青いのになぁって」
「ふぅん。そんな時こそスッキリした天気に励まされそうだがなぁ」
「感じ方はそれぞれですよね」
「つうかさ、そろそろ自分の羽で……」
「あ、着きましたよ。あの山に囲まれた森です!」
オレの言葉を遮ってアシュリーが叫ぶ。
天然か計算かは知らんが、随分とタイミングの良いことで。
その指の先には森があるだけで、湖らしきものは見えなかった。
木々に遮られているのかもしれない。
「まだ見えませんが、降りればわかりますよ」
「わかった。じゃあ行くぞ」
「キャァア! 怖いッ」
降下に入るなりアシュリーが腰にしがみついてきた。
てめえは普段から飛んでるだろうが!
自分の脚力に驚く動物がいるか?!
そんぐらいマヌケな話だってわかってるか?
結局地面に着くまでそのままだった。
まったく……そんな態度で惚れる男はアーデンくらいしか居ないだろうに。
少なくともオレは苦手だ。
「とうですか? キレイでしょう?」
その湖は鬱蒼と繁った木々に囲まれていた。
梢が折り重なり、その隙間から日差しが降り注いでいる。
それは透明な湖に輝きを与え、眺めるものを幻想的な気分にさせた。
木々のざわめきが際立つほどの静けさも、神秘さに拍車をかけている。
だが、外観よりも気になる点がある。
この水からは少なくない魔力を感じるのだ。
「なんだろ。不思議な水だな」
「ここには古くから言い伝えがあるんですよ。これを飲むと不老不死になれるとか、致命傷や重病人が元気になるとか」
「それって本当か?」
「まさか。ちょっぴり魔力補給ができるだけですよ」
「だよなぁ。もし事実なら、あちこち不死者だらけだ」
「使い道としては、魔道具の素材でしょうね。料理にも合うみたいですよ?」
「奇跡の水を昼飯に使ったとあってはバチでも当たりそうな」
「そうですね。人目につかないようにひっそりとしてるのに、普段使いするのはダメですよね」
アシュリーは握り拳を口許に添えて笑った。
普段なら『アッヒャッヒャ』くらい豪快な声で、手を叩いたりするんだがな。
その時の姿が恋しくなるなんて、オレは疲れてるのか?
「ちょっと座りませんか? ここで立ち話なんて勿体ないです」
「そうか。じゃあそこに」
程よい場所に大きめの木が横たわっていた。
自然に倒れた、と言うよりは誰かが用意した感じだ。
オレが幹の端に座ると、続いてアシュリーも腰かけた。
拳一個半。
それが唯一オレたちを隔てているものだ。
「なにはともあれ、お疲れさん。解除は大変だったろう?」
「正直、何度も挫けそうになりました。けど、その度に奮起して乗りきりました」
「200人以上だもんなぁ。心折れても不思議じゃないのにな」
「でも私は、達成できました」
拳一個分。
少し近づいたらしい。
アシュリーの気配が増した。
「あなたが、あなたが待つ家に帰れると思っていたら、不思議な力がみなぎったんです」
「へぇ、そうかい」
「自分でも驚いています。まさかこんなにも夢中になるなんて……。きっかけはとても些細な気持ちだったハズなのに」
「なぁ、アシュリー?」
拳半分。
もはや互いの体温がわかりそうな近さだ。
「お願いです、アルフ。あなたの好きな女性について教えてください!」
「おい。急にどうしたんだよ?」
「必ずあなたの求める女になってみせます! だから、どうか……」
「いやいや、落ち着け。まずは深呼吸しろ!」
2人を隔てるもの。
それは互いの皮膚だけだ。
足を密着させたまま、アシュリーは潤んだ目を向け、体をオレに預けようとしている。
これって『頭パシーン!』と叩いたら直るんじゃないか?
進退極まって右手に魔力を籠め始めた。
…その時だ。
「にいちゃーん、あそぼー!」
「いいぞー。そこの不自然に重い石を投げ合おうぜー」
「わかったー! アタシからなげるねー?」
知らない子供たちの声が聞こえてきた。
付近に村でもあるんだろうか?
「いつでもいいぞー!」
「じゃあいくね? 死ねェェエエーーッ!」
「バカッ。どこ投げてんだよぉ!」
ーーオギャンッ!!
飛来した石は精密にアシュリーこめかみを撃ち抜いた。
受け身すら取れず、そのまま回転しながら転がっていく。
そして、湖に落ちた。
「おい、生きてるか?!」
慌てて側によると、アシュリーは勢い良く水面から顔を出した。
「ブハッ?! 何ですか今の? いってぇーーですよ!」
「あー。しばらく水に浸けとけ。逸話の残る有り難い水だぞ?」
「いちち……。コブになってるじゃないですかぁ」
アシュリーが泣き言を言っている間に、例の兄妹は謝りに来た。
君たち、次からはもっと安全な遊びをしなさいね?
まぁ助かったがな。
「アルフ、お腹空きません? 何か食べに行きましょうよ」
「いいねぇ。肉食おうぜ」
「この前ロランの人が、美味いの入荷したって言ってましたよ!」
「おっし。すぐに行くぞ!」
阿吽の呼吸でオレたちは再び空を飛んだ。
アシュリーはさっきの痛みを忘れたかのように『肉、肉』言っている。
やっぱり、こっちの方がいいな。
すごく馴染むというか、ホッとするというか。
……これも恋心とは違うんだろうなぁ。
上機嫌で先を飛ぶアシュリーを眺めつつ、そう思うのだった。
第11話 デジャブる日
「じゃあ、そろそろ行くか」
「はい。参りましょう」
アシュリーが元に戻る気配はない。
今日一日この調子かと思うと気が重くなる。
飛ぶ準備に入ると、アシュリーがオレの手に指を絡めてきた。
いや、他の連中ならいざ知らず、お前は自分で飛べるだろう。
手を繋ぐ必要なんか無いだろうが。
「おとさん、おねえちゃん、いってらっしゃーい!」
「お、おう。行ってくるよ」
手を振り払おうかとも思ったが、シルヴィアの前ではそれもやりづらい。
仕方ない、このまま行こう。
片手に違和感を覚えたままに飛翔した。
天高く舞い上がってもアシュリーは自分の羽を出そうとしない。
このまま手を放して、大地と接吻させてやろうか。
ちょっとイラついた目線を飛ばすと、満面の笑みで話しかけてきた。
「私、空が好きです。青空も、曇り空も」
「そうかぃ。オレは今日みたいな空が好きかな」
本日は晴天。
雲ひとつ無いという言葉がピッタリだ。
こんな日に空を飛ぶと、解き放たれたような気分にしてくれる。
アシュリーはクスリと笑い、それから返事をした。
「アルフはそうだと思います。私はあなたほど強くないので、曇り空も必要ですね」
「どういうことだ?」
「自分が辛い目にあったとき、晴天だとさらに辛くなってしまうんです。空はこんなに青いのになぁって」
「ふぅん。そんな時こそスッキリした天気に励まされそうだがなぁ」
「感じ方はそれぞれですよね」
「つうかさ、そろそろ自分の羽で……」
「あ、着きましたよ。あの山に囲まれた森です!」
オレの言葉を遮ってアシュリーが叫ぶ。
天然か計算かは知らんが、随分とタイミングの良いことで。
その指の先には森があるだけで、湖らしきものは見えなかった。
木々に遮られているのかもしれない。
「まだ見えませんが、降りればわかりますよ」
「わかった。じゃあ行くぞ」
「キャァア! 怖いッ」
降下に入るなりアシュリーが腰にしがみついてきた。
てめえは普段から飛んでるだろうが!
自分の脚力に驚く動物がいるか?!
そんぐらいマヌケな話だってわかってるか?
結局地面に着くまでそのままだった。
まったく……そんな態度で惚れる男はアーデンくらいしか居ないだろうに。
少なくともオレは苦手だ。
「とうですか? キレイでしょう?」
その湖は鬱蒼と繁った木々に囲まれていた。
梢が折り重なり、その隙間から日差しが降り注いでいる。
それは透明な湖に輝きを与え、眺めるものを幻想的な気分にさせた。
木々のざわめきが際立つほどの静けさも、神秘さに拍車をかけている。
だが、外観よりも気になる点がある。
この水からは少なくない魔力を感じるのだ。
「なんだろ。不思議な水だな」
「ここには古くから言い伝えがあるんですよ。これを飲むと不老不死になれるとか、致命傷や重病人が元気になるとか」
「それって本当か?」
「まさか。ちょっぴり魔力補給ができるだけですよ」
「だよなぁ。もし事実なら、あちこち不死者だらけだ」
「使い道としては、魔道具の素材でしょうね。料理にも合うみたいですよ?」
「奇跡の水を昼飯に使ったとあってはバチでも当たりそうな」
「そうですね。人目につかないようにひっそりとしてるのに、普段使いするのはダメですよね」
アシュリーは握り拳を口許に添えて笑った。
普段なら『アッヒャッヒャ』くらい豪快な声で、手を叩いたりするんだがな。
その時の姿が恋しくなるなんて、オレは疲れてるのか?
「ちょっと座りませんか? ここで立ち話なんて勿体ないです」
「そうか。じゃあそこに」
程よい場所に大きめの木が横たわっていた。
自然に倒れた、と言うよりは誰かが用意した感じだ。
オレが幹の端に座ると、続いてアシュリーも腰かけた。
拳一個半。
それが唯一オレたちを隔てているものだ。
「なにはともあれ、お疲れさん。解除は大変だったろう?」
「正直、何度も挫けそうになりました。けど、その度に奮起して乗りきりました」
「200人以上だもんなぁ。心折れても不思議じゃないのにな」
「でも私は、達成できました」
拳一個分。
少し近づいたらしい。
アシュリーの気配が増した。
「あなたが、あなたが待つ家に帰れると思っていたら、不思議な力がみなぎったんです」
「へぇ、そうかい」
「自分でも驚いています。まさかこんなにも夢中になるなんて……。きっかけはとても些細な気持ちだったハズなのに」
「なぁ、アシュリー?」
拳半分。
もはや互いの体温がわかりそうな近さだ。
「お願いです、アルフ。あなたの好きな女性について教えてください!」
「おい。急にどうしたんだよ?」
「必ずあなたの求める女になってみせます! だから、どうか……」
「いやいや、落ち着け。まずは深呼吸しろ!」
2人を隔てるもの。
それは互いの皮膚だけだ。
足を密着させたまま、アシュリーは潤んだ目を向け、体をオレに預けようとしている。
これって『頭パシーン!』と叩いたら直るんじゃないか?
進退極まって右手に魔力を籠め始めた。
…その時だ。
「にいちゃーん、あそぼー!」
「いいぞー。そこの不自然に重い石を投げ合おうぜー」
「わかったー! アタシからなげるねー?」
知らない子供たちの声が聞こえてきた。
付近に村でもあるんだろうか?
「いつでもいいぞー!」
「じゃあいくね? 死ねェェエエーーッ!」
「バカッ。どこ投げてんだよぉ!」
ーーオギャンッ!!
飛来した石は精密にアシュリーこめかみを撃ち抜いた。
受け身すら取れず、そのまま回転しながら転がっていく。
そして、湖に落ちた。
「おい、生きてるか?!」
慌てて側によると、アシュリーは勢い良く水面から顔を出した。
「ブハッ?! 何ですか今の? いってぇーーですよ!」
「あー。しばらく水に浸けとけ。逸話の残る有り難い水だぞ?」
「いちち……。コブになってるじゃないですかぁ」
アシュリーが泣き言を言っている間に、例の兄妹は謝りに来た。
君たち、次からはもっと安全な遊びをしなさいね?
まぁ助かったがな。
「アルフ、お腹空きません? 何か食べに行きましょうよ」
「いいねぇ。肉食おうぜ」
「この前ロランの人が、美味いの入荷したって言ってましたよ!」
「おっし。すぐに行くぞ!」
阿吽の呼吸でオレたちは再び空を飛んだ。
アシュリーはさっきの痛みを忘れたかのように『肉、肉』言っている。
やっぱり、こっちの方がいいな。
すごく馴染むというか、ホッとするというか。
……これも恋心とは違うんだろうなぁ。
上機嫌で先を飛ぶアシュリーを眺めつつ、そう思うのだった。
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