上 下
78 / 266
第5章 覇者時代

第77話  前へ

しおりを挟む
レジスタリアの守備兵の配置が終わった。
350名の、それなりに練度のある兵だった。
各人の連携も取れるようなので、守りに入ったら強力だろう。
この兵たちを育てたアーデンが付いていてくれる。
指揮系統は問題ないはずだ。

リタは街中で魔法が使える人員を確保してきた。
総勢10人の即席の魔法部隊だ。
主攻をする訳ではないので、素人とはいえある程度は戦えるはずだ。

物見の塔から遠方を見遣やると、遠くに土煙が見える。
早ければ明日には敵が目の前に陣取るだろう。
準備が間に合ってなによりだ。


「アーデン殿、兵たちの様子はどうだ?」
「思ったより落ち着いてますが、行軍速度の速さにビビってますかね。エレナさんにちょいと激励を貰いたいところですかね。」
「わかった、ここからでいいだろうか?」
「ここならみんなから見えるでしょうし、大丈夫でしょう。」


私は遠くまで届くように、できるだけ明瞭に言葉を発した。


「みんな聞いてくれ。私は豊穣の森の魔王の家来、エレナという者だ。敵は驚異的な速さでレジスタリアに進撃中だ。立て続けに苦境に立たされているこの街の住人には、同情の気持ちが無いわけではない。」


一人一人の表情までは見えないが、こちらに注目しているのはわかる。
今か今かと次の言葉を待っていることだろう。


「だが状況が、運命が、世界が休息を許さないというなら我々は戦うしかない。試練はいつだって、我々の準備を待たずに襲ってくる。嘆くだけ無駄なのは賢明な諸君にはわかりきっていることだろう。」


咳払いどころか身じろぎ一つせずに聞いている。
よほどアーデンの指導が良いのだと改めて感心した。


「諸君らの活路はどこにある。後ろには守るべきものしかいない。退路を探して振り向いてはいけない。幼い彼らを、か弱い彼女たちを戦火に巻き込むな!我欲だけで攻め込んできた、汚い連中に故郷を侵させるな!ここを守るのは他の誰でもない。諸君ら一人一人なのだ!」

オォォォォォーー!!

男たちの咆哮が一斉に返ってきた。
弱気を少しは払拭できただろうか?
どうもこういった事は苦手なのだが、私だって逃げる訳にいかないものな。
塔の下でリタが待っていてくれて、少しだけ上気した顔を向けてきた。


__________________________________________


ロランの町はそれなりに大きく、多数の人数を収容できるが、防御の面では厳しい場所だった。
見張り台や柵のようなものはあるが、町を囲む壁などは皆無に等しかった。
普通に考えれば守りに向かない環境なのだが、こちらには打って付けの人材がいる。


「アシュリー、町を囲むように例の雷属性の結界を張れるか?」
「ふふ、ここは豊穣の森の中ですよ。そりゃもう無尽蔵に秘術を垂れ流せますよ?」


アシュリーはこの森に居る限り、魔力枯渇とは無縁らしい。
もちろん体力が無くなれば他の人のように倒れてしまう訳だが。
それでも常時魔力を使い放題というのは大きな強みだ。


「でも本当にいいんですか?その結界を張っている間は戦闘行動ができないんですが・・・。」
「それで構わん。だからオレとお前の組み合わせにしたんだ。」


後ろの防御を気にせずに、オレが存分に暴れまわる。
最高火力のオレと鉄壁防御のアシュリーとで、戦況をこちらに傾けさせたい。
オレたちが敵を蹴散らすことが出来たなら、レジスタリア軍と連携して残りの敵を追い払う。
それが理想のプラン。
思惑通り進んでくれるといいが、今回は未知数の軍が相手だ。
楽観視はしない方がいい。


グレートウルフ達には森に隠れてもらっている。
無理して敵とぶつからず、隊列が乱れて弱体化している場所を突けと命じておいた。
後はあのワン公の采配に期待するしかない。

それとロランに居た戦力についてだが、こちらは期待外れだった。
運悪く冒険者などはほとんどおらず、戦慣れしていない者ばかりだった。
仕方ないので弓を扱える者だけかき集めて、見張り台に立たせた。
合図とともに矢を射かけさせるために。


「前方に敵、その数はおよそ2000!」


見張りからの報告だ。
一人で大軍と向き合うのは壮観というか、馬鹿馬鹿しいというか・・・なんとも言えない絶望感があった。
過去にないほど厳しい戦いになるだろう。
きっと魔力を出し惜しみする余裕もないはずだ。


  いいかい、魔力を使いすぎないで。特に連戦の時は気をつけて。魔力が枯渇したら、君はただの村人と何ら変わらなくなってしまうから。


モコの警告が思い出された。
アイツはこんな状況を見越して助言したんだろうか?
真意は本人にしかわからないがな。
全力で戦いながらも、長期戦を考えなくてはいけない。
細かい計算は苦手性質だが、やってみるしかなかった。


ミレイアから貰った剣を握る手に力が籠る。
負けられない戦いが、間もなく始まろうとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

処理中です...